17 音魔法の見習い魔道騎士

私は皆を守るために、1つの覚悟を決めていた。



(スパルナのクチバシが、私の体を突き刺した瞬間を狙う!)



私がスパルナの表面だけに触れるとかそんな器用なことができないのは明らかだし、ならいっそ、自分の体を”おとり”にするしかない。



だって、花魔法の “生成”を発動させる条件・・・。



それは、その物体に”触れること” 。




だからスパルナのクチバシが、私の体を引き裂いた瞬間に、”生成” を発動させれば、その莫大な衝撃を利用して、逆に防御壁として再組成できるはず。



物体から欲しい成分、素材のみを抜き出して、再組成させるのがローズ家秘伝の “花魔法” なのだから・・・。



そうすれば少なくとも、この屋敷にいる人々はしばらくの間保つ。


その間に、シエルか、他の騎士たちが駆けつけてくれれば、テオたちは助かる。



まさかこんな形で死ぬなんて、思っても見なかったけど、少なくとも自分で死ぬ理由を選べた。



目前にはすでに、迫りくる黒光りのする鋭い刃のようなクチバシ。



そして今、まさに私の心臓が貫かれようとするその瞬間だった!







「ヒュッヒュッヒュッ、ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」





音と共に、風で私の体が弾き飛ばされ、何かに柔らかく包まれる感覚がした。



ヅダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッッッッーーーーーン




同時に、クチバシがそのまま壁を突き刺す音が、ラウンジ内に響く。




(あれっ?私、生きてる?)




「ちょっとっ!いつまでボーッとしてんのさ。重いんだけど。」


(まさか、この声は?)



恐る恐る後ろを振り返ると、テオドールの鼻筋の通った美少年顔がすぐそばにあった。



「ヒェ~~~~~~ッ!!」


「ほんっと自由なんだからっ! 」


「ごめんっ、助けてくれてありがとう!」


風魔法で私を飛ばし、受け止めてくれたらしい。お礼を伝えると、テオドールは、うっすらと頬を染めたままプイッと顔を逸らした。


「みくびらないでよね。僕だってシエル兄様の弟なんだからっ!」


「うん、カッコ良かったよ!」



「バカッ!ーーーーー油断しないでッ。今度は爪先で僕たちを殺すつもりだ!」


テオドールの言う通り、先ほどまで壁を引っ掻いていた爪先が、少しずつ壁を崩して侵入してくるところだった。


「クチバシが壁に刺さってる今なら、私の花魔法で、少しの間、この場に防御壁を生成できるわ。」


さっき、分析した時、このスパルナから激しい怒りと共に、とてつもない寂しさも感じた。

(いったい何があったの?)


おば様は、気を失ってしまったおじ様のそばで、必死に止血を施している。



壁にめり込んで身動きできないクチバシを引き抜こうとスパルナが暴れまくる。その度に屋敷がグラリッと倒壊しかけ、瓦礫の山が積み上がった。





「ピーッピーーーーッピーーーーーーーーーーーーーーーッピーッ!!!」



テオが、スパルナの羽の動きまで止めようと、風を従える音魔法を使った。人の耳には微かに聞こえる程度の指笛の音だ。


(なかなかうまくいかないな。やっぱりまだ体力がきちんと回復していないんだっ!)



僕は、チラリと隣に立つリーチェリアを見た。


兄様の結婚を初めて聞いた時、”残念令嬢”なんて、兄様には相応しくないと思った。きっと礼儀も何もない図々しい女なんだろうと思ってたのに。



実際に会った彼女は、予想に反し、猫みたいにちょっとつり上がった目をした可愛らしい人だった。でも、可愛いだけじゃダメだ。


そう思ってたのに、可愛さを誇る高慢な令嬢どころか、傲慢さのカケラもない予想の斜め上の令嬢だった。普通の令嬢には”あるまじき” 振る舞いを、全然悪びれることなく、次から次へと引き起こす。



(礼儀がない、と言うよりはただの不器用??? 兄様は優しいから、リーチェリアを放っておけないのだろうか?)


そう思ったのに、今度は自分の命も顧みず、僕たちを助けようとしている。僕より腕力もないくせに。



「確かに放っておけないです、兄様。」


つい口から本音が漏れてしまった。


「えっ?」


「何でもないっ!」


”一般的な” 令嬢の姿からはかけ離れてるし、自分の身を危険に晒すその無鉄砲さはいただけないけど、、、でも、誰かを助けようとするその真っ直ぐさに思わず手を貸してしまいたくなるのかも。



「リーチェリア! 僕が音魔法でスパルナの羽をここまで運んで来るから、羽の動きを封じる防御膜を生成してっ! その間にこの短刀で、スパルナにトドメを刺す。」


「分かったわ!」



僕は予備の短刀を2本取り出す。右の短刀でスパルナの目をねらい、左の短刀は喉へとその切先を向けた。


(僕に体力さえあれば、両刀での闘いは2人分の騎士の働きができたのにっ。)


武器を握る手に力が入る。そして再度口笛を吹こうとした時だった。




「オレがいない間に、随分リーチェと仲良くなったじゃねぇか、テオ!」


サラリと紺碧の髪の長身の影が、目の前で揺れた。


「兄様!」「シエル!」

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