16 猛獣スパルナの怒り
今にも地面がパックリ避けそうなほどの揺れで、邸宅全体が振動した。
『シューーーーーーーーーーーッッ!! シューーーーーーーーーーーッッッ!!』
外からは洞窟の奥から轟くような威嚇音が、絶えず聞こえてくる。
(窓からは鋭いクチバシがかろうじて見える程度だけれど、間違いない! スパルナだわ!)
窓の外にいるスパルナは、勢いよく金色に光る羽を動かし地響きを起こす。鋭利な刃物のように先の尖った硬い鋼鉄のクチバシで、割れた窓からの侵入を試みてるようだ。ただ、おじ様の防御魔法がギリギリのところで、見えない膜のようなもので阻んでいた。
『キッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!』
思うように身動きできないことに腹を立て、怒りのままに獰猛な爪で、ガリッガリッと壁を引っ掻く。
(こんなに攻撃的なスパルナに遭遇したのは初めて。まるで、何かに腹を立てているよう・・・。)
「下がってっ!」
水色の髪を揺らしながら、テオが皆を守るように窓の前に進み出た。
「テオドールッ、無理よ!」
(大人のスパルナには、歴戦の騎士でもなかなか歯が立たないのに。)
「黙っててください。僕がやらなきゃ!」
少年特有のスラリとした身体で、腰に身につけていた2本の短刀を抜き、両刀で構えた。右手でクルクルと短刀を回し始めたかと思うと魔力とともにそのスピードは、ブンッブンッと加速していく。
左手の短刀は光を増し風を纏っていく。
スッと音もなく放たれた2本の短刀は、窓の外のスパルナの眉間にズボボボボボッと突き刺さった。
『ギャーーーーーーーーーーッッ!! ギーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!! キーーーーーーーーーッッッ!!!』
天井からパラパラと瓦礫が落ち、ドガァッーーーーンッと屋敷全体が爆風に包まれるが、すぐにテオが爆風を霧で包み消火する。スパルナは痛みにのたうち回るように、肉厚な足についたノコギリのような爪を屋敷の壁に食い込ませそのまま揺らしてくる。
かなりの致命傷を与えたはずなのに、なかなかしぶとい。
おじ様の腕に次々と現れていた”藍” の文字は、次第に首元や顔にまで侵食してきた。今にも気を失ってしまうのではと思うほど、辛そうだ。
このままでは、防御魔法が破られるのは時間の問題ね。一歩でも外に出たら、たちまちあの鋭い爪とクチバシで、肉体が散り散りに引き裂かれてしまう。これじゃ私たちは、逃げ場のない場所に囚われたエサのようだ。
「リーチェ、君はこの部屋から逃げなさい。シエルの部屋がこの屋敷で一番安全だ。ソルシィエ家の騎士として、愛する者を守り死ぬなら本望だ。」
おじ様の傍に駆けつけたおば様も、私を見て頷く。
(おじ様を見捨てて逃げるなんて、できるはずがないじゃないの! )
テオも強いのかもしれないけど、ずっと療養で、体力だってまだそんなについていないはず。
私は下唇を噛み、深呼吸を数回しながら前を見据える。凄まじい緊張と集中で、喉がカラカラだ。戦闘訓練なんて私も受けたことなんてないし、花魔法しか使えない。それでも・・・。
ドレスの裾を持ち上げ、膝まで捲り上げきつく縛り、集中するために目を閉じる。
「リーチェちゃん、何をっ!」
「ちょっとあんた、何してんのさ! 僕たちのことは放っておきなよ! 」
「リーチェ・・・?ーーーー・・・ヴグッ・・・。」
「とーさま!」「あなた!」
とうとうおじ様の防御魔法が破られ、クチバシがラウンジの中へと猛突進してくると同時に、鋭い爪がテオの心臓めがけて突進してきた!!!
あまりにも一瞬のことで、テオは攻撃のスピードが間に合わないと判断し、魔法を体に纏わせ防御に転じた。
「ピーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
特殊な技法の口笛を鳴らしたかと思うと、両腕を顔の前でクロスして攻撃を避けようとしている。
花魔法は、花だけでなく生き物のエネルギーを読み取り、瞬く間に正確な分析をする。
スローモーションのように頭の中に飛び込んで来た情報を私は瞬時に理解した。
テオの音魔法での防御もなかなか強力だけど、スパルナの攻撃の方がさらに上手だわ。
(このままじゃ、テオが死んでしまうっ!)
私は、パッと目を開けると同時に地面をタンッと蹴り、天井高くジャンプし、テオの真ん前に着地した。パサリッと銀の髪が落ちてくる。
「なっ!」
ギョッとするテオに一言だけ返す。
「誰も死なせないっ!」
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