11 結婚撤回のチェックリスト

ピンクの花柄のワンピースに着替えた私は、ルアナと一緒に、オレンジの灯りがトウトウと灯る部屋へ来ていた。


(ん〜!! ローズ家が所有する魔法室はいつも甘い匂いっ!)


壁一面に戸棚が備え付けられており、中には透明な瓶がズラリと並ぶ。ありとあらゆる種類の花が、種類ごとにラベリングされ、それぞれ瓶の中に密封されているのだ。



花魔法で使う材料となる花は、慎重に管理され保管されている。温度は1年中適温に保たれ、季節を問わず一年中使用できる。私はその中から、一際大きくて明るい瓶を手に取った。


「さ、行きましょう。」



階段を降り、屋敷の入り口から離れた、奥まった場所へ位置する調理場へと入る。


(夜明け前のこの時間が、誰にも邪魔されなくていいわ。)


ゆっくりとスイーツ作りがしたい時は、いつもこの時間に調理場に来ていた。


コトンッと瓶を置いて、中から鮮やかな黄色のひまわりの花を取り出す。大きな木のボウルに入れたひまわりの花をテーブルの上に置き、目を閉じ意識を集中しながら、両手をかざした。



シュルンヒューッシュルリッヒューッ



風の動く音と共に、淡い光がひまわりの花を包みこんでいくのが、目を閉じていてもハッキリとわかった。


風の音がパタリッと止んでから、ゆっくりと目を開ける。目の前のボウルには、陽の光のような黄色の”花蜜”ができていた。


フゥ~、と心の中で一息つく。


(良かった! うまくいった!)



魔力の調整がズレてしまうと、花蜜が出来ないだけでなく、花も無駄にしてしまう。


ルアナは部屋の隅に座っているけれど、顔だけは興味深そうにこちらへ向けていた。


「ルアナと一番最初に出会った時にあげた、ひまわりのゼリーをまた作ってあげるわ!」



私も二日続けて倒れてしまったし、消化の良いゼリーなら食べられそうだ。


フフフーンッと鼻歌まじりにルアナに話しかける。

「ひまわりの”花蜜”を食べると、頭がスッキリするから、私にもちょうど良いのよ!」


ルアナは私の言葉が分かったのか、満足そうな表情で床に顎を乗せ、くつろぐ体勢に入る。



私は、植物由来のゼリーを固める粉を、もう一つの大きな木のボウルにいれ、シャカシュカとスプーンで混ぜながらお湯でよ~く溶かした。そしてそこに、天然の泡がシュワシュワと弾けている炭酸水をジャーと流し込む。


最後にひまわりの”花蜜”の、液体バージョンと練り固めたバージョンの両方を入れ混ぜた。うっすらと黄色く色づき、ところどころ、練り固めた”花蜜”が甘酸っぱいアクセントになるゼリーだ。



可愛らしい花型の容器をたくさん用意し、1人分の分量ずつゼリーの素を流し込んでいく。


「さ、これを魔道具のアイスボックスで、冷やし固めたら完成よ。」


待ってる間、私は近くの椅子に腰掛け、メモ帳に、とあることを書きつけていく。



ーーーーーーーー


目的 シエルとの結婚撤回 チェックリスト


□ 大声で叫ぶ


□セカセカ落ち着きがない


□ハンカチを持たない


□ガシャガシャ大きな音を立てる


ーーーーーーー


「できたわっ!」


代々マナーを教える家系の令嬢として、これらはマナー違反の”御法度” だ。マナーもない令嬢は、結婚にも苦労すると聞く。他にもあるかもしれないけど、とりあえず今日はこれを試してみよう!!


今日はシエルとシエルの両親に挨拶に行く日。

わがローズ家は伯爵家で、シエルのソルシィエ家は公爵家だから、家格の低いローズ家から結婚の話をなかったことにはできない。




私の声に、ルアナが顔を上げ、寄ってきた。


「見て、ルアナ! こんな無礼なことをしたら、いくら寛容なシエルの両親でも、”冬の家系”の結婚相手として相応しくないと、あちらから断ってくれるのではないかしら??」


シエルのお母様は、『普段のリーチェでいいわよ、あまり畏まらないで。』と言ってくれた。良心は痛むけどやるしかないわっ!


ルアナに書いたメモを見せると、ショックを受けたように、私とメモを交互に見ている。


(人の言葉が分かるのかしら?ユニコーンは謎だらけだ。)


「ルアナ! そろそろゼリーが冷えて固まった頃よ。『ハラが減っては戦はできぬ!』って言うでしょう?」



ルアナはつぶらな目を見開き、困惑したような表情をしている。


(あれ?この世界のことわざじゃなかった???)


「なぁにルアナ? どっかズレてるって顔してるわよ。そんな顔、可愛いルアナに似合わないんだから!」


ねっ? っと言い聞かせながら私はツンツンとルアナのほっぺをつつく。指でぷにゅっと押すと、長いまつ毛を何度もパチパチとし居心地悪そうに俯く。



(癒しだわっ!でもあんまりからかっても悪いわね。)


ルアナの頬にチュッとキスをして、私はデザートカップに取り分けたゼリーをゴトンッとルアナの前に出したのだった。

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