第32話 4層

 階段を降りた俺は周りに魔物の気配がないか確認する。


 魔物がいないことを確認すると少し気を緩める。


 4層にたどり着いたが見た感じ4層も1層から3層までと変わらず、ほぼ一方通行のようだった。


 言い忘れていたが、ダンジョン内の地形は1つの大きな空間になっていることもあれば、迷路のようにいくつにも分かれ道がある通路のようなもの、またその2つの融合されていることもある。


 また、普通は洞窟のようなダンジョンが多いが中には森のようなものや草原のようなダンジョンもある。


 そして今回は1から3層まで洞窟のようなあまり横幅が広いとは言えない道が続いていた。4層に入ってもその様子は変わらない。


 それだけ低級のダンジョンということだ。


「4層でも油断せず行こうか」


 5層にたどり着いたら階層ヌシ、ボスがいる可能性がある。ということはこの層が普通に攻略する最後の層となる。つまりここを乗り越えれば後はボスを倒すだけで終わりということだ。


 周囲をもう一度確認し、安全だと判断して真っ直ぐ一本道を歩き出す。ヒカリも俺が歩き出すのを見て駆け足で隣まで歩いてくる。男は俺の後ろ、あまり離れすぎない程度に距離をとってついてくる。


「さっきも聞いたけどヒカリも魔物と戦うか?」


 と隣にいるヒカリに聞く。


「いえ、私は回復役ですから結構です」


 と断られる。


「そっか。でも、戦いたかったからいつでも行ってくれよ。回復役でも戦うもしもって場面はある。そういう時のための動きも必要になるとも思うから今回じゃなくても、近いうちに戦闘に参加した方がいいと思うよ」


 今回は俺の動きを見たいという意見を尊重するけど、万一の時に動けた方がいい。そのうちやらなきゃいけない課題だ。


 そんな俺のアドバイスに


「なら、合格したら戦闘練習に手伝ってくださいね」


 と笑顔でそうお願いしてくる。


 回復役がいるだけでダンジョン攻略は安心感が変わる。ただし、それは自らを守ることができる回復役だ。ヒカリがそこまでできるくらい強くなったら、ダンジョン攻略者の中でもかなり上位の攻略者になる筈だ。1ダンジョン攻略者として、ヒカリがそうなれるように、才能を無駄にしないように手伝ってあげたいなとは思う。


「わかったよ」


 と俺は一言返すとヒカリは


「約束ですよ」


 と言って再び笑顔を見せた。


 そんな会話をしながら歩いていると前方に魔物の気配がする。


「魔物がいる」


 そう言ってそのまま気配のするところまで駆け足で向かう。


 見えてきたのは二本ツノの生えたウサギの魔物が倒れていた。


 かなり弱いが小さく、ちょこまかと動きツノによる高威力の攻撃を仕掛けてくる。


 だが、倒れている魔物は全身を刃物で斬られたような切り傷が多くあり、右のツノは半分に折れていて今にも死にそうだった。


 何故、こんなところに倒れているか? 大体、予想ができる。


 滅多にないが魔物同士の対立か

 この前にいた学生による攻撃


 後者の場合、しっかりと倒しきらなかったという点に対して疑問が残る。魔導チャンスの為に普通は殺す筈。


「こんな弱っている魔物、倒したくないですね」


 少し考え込んでいる俺にヒカリがそんなことを言ってくる。


「前の人達も倒しにくかったのかな」


 まあ、初心者ならそう思うかもしれないと感じあまり考えても意味がないため深く考えないようにする。


「先輩はどうするんですか?このまま殺しちゃうんですか?」


 ヒカリの言葉にはできれば殺さないでほしいという意味合いが込めれていたがそんな甘いことは言ってられない。魔道が出る可能性と回復して襲われる可能性。この2つの要因で殺す理由は十分。


「殺すよ」


 躊躇いもなくそう返す。それに対してヒカリは何か反論をいいたそうだが黙り込む。


 罪悪感、そんなものを持っていたら自分たちを襲ってくる魔物が多く出現するダンジョンに潜ることなんてできない。この魔物だってこちらの命を取るために襲ってくるのだ。可愛いから、可哀想だからといって生かしておけば他の攻略者が犠牲になる。ガ


 ヴェンの娘と言ってもヒカリも初めてダンジョンに潜っている初心者だ。まだ精神面が弱い。俺がおかしいのかもしれないが。


 ウサギの前に立ち首元を軽く切り裂く。完全に息を止めたウサギは砂のようになって消えてゆく。当たり前の光景。俺にとっては当たり前の光景だったが、ヒカリは完全に消えて行くまで見ていた。


「気にするな。気を取り直して次に進むぞ」


 暗い雰囲気になってしまったテンションを上げる為に俺は再び歩き出した。

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