第2話 ギルド

 ギルドについた俺はすぐに建物に入る。


 ギルドはダンジョン攻略者のための組織で、ダンジョン攻略者のサポートをしたり、ダンジョンに関わる依頼を出したりしている。俺もよくお世話になっていたので一時的にダンジョン攻略をやめている今でも依頼は受けている。


 とあるダンジョンを攻略した後から仕事としてダンジョンに潜り依頼をこなしているが、深層を目指すダンジョン攻略は行っていない。理由は単にダンジョンでやることは終わったのでアヤとの時間を長く取りたいと思ったからからである。俺が依頼をこなすのはギルドへの恩返しとアヤに無職だと思われないようにする為だ。


 まあ、アヤは「無職!」なんて言わないのだが、学校や近所の人間からそう言わてしまったらどう思うかわからない。


 建物に入ると声をかけられる。


「よお、ユヅキ。久しぶりだな」

「ガヴェンか。久しぶり」


 ガヴェンは30歳後半のスキル《自らの体を癒す力》を持つ高レベルのダンジョン攻略者。見た目はかなりゴツくて、筋肉を見に纏うおっさんって言う感じ。俺がダンジョン攻略する時、たまに一緒にパーティーを組むことがあった。年が離れているもののそれなりに仲が良かったが、俺が最後のダンジョンを完全攻略する少し前から会っていなかったため数ヶ月ぶりの再会だ。


「今日は何しにギルドに来たんだ?」

「依頼をこなすためだよ」

「最近見ないと思ったらダンジョン攻略じゃなくて、依頼をこなしていたのか。ユヅキだからてっきりミナーヴァの最下層に潜っているもんだと思ってたぜ」


 ミナーヴァ、俺の潜ったダンジョンの一つ。ダンジョンはいくつかのレベル分けがされており、このミナーヴァは神格ダンジョンと呼ばれるレベルの12種存在するダンジョンの一つとなっている。神格と呼ばれるだけあってその難易度は他のどのダンジョンとも比べ物にならないほど難しいと言われている。


 その難易度から神格ダンジョンを完全攻略した者は神覇者と呼ばれている。そしてその神覇者は今は歴代で見てもまだ30人程度しか存在せず、その中で現在生きているのは4人と言われている。


 そして唯一未だ完全攻略されることなく存在する現在最高難易度のダンジョン。それがグランドダンジョン。ここで多くの神覇者が亡くなったと言われている。


 面白そうではあるがまだ挑む場所でもない為、俺には当分関係ないダンジョンだ。


「これでも俺もまだ16だからな。ダンジョン攻略は急がなくてもいいかなって」

「そういえば、まだ16か。俺にもお前と同じくらいの娘がいるけど、16だったらまだ学生だよな。お前、立ち振る舞いとかダンジョンでの行動とか大人っぽいから忘れてたわ。学生でダンジョンの最前線に潜れる実力があるってすごいよな」


 学生ではないがそこら辺は別に訂正してもしなくても変わらないだろと思った俺はそのまま話を続ける。


「そんなに凄いことはやってないよ。ただ必死になってただけだ」


 3年間殆ど家に帰ることなくダンジョンに篭って攻略をしていた。だからこそ、時間も金も余裕ができた今はダンジョン攻略ではなく一人にしてしまったアヤとの時間を大切にしたい。


 俺はそう思っていた。


「その疲れを癒すための休憩って感じで今はダンジョン攻略を控えているんだ」

「はー、そう言うことか。ならしっかり休憩しないとな。あ、でも、また攻略するってなったら一緒にダンジョン行こうな。ユヅキともう一度、ダンジョンに潜りたいからさ」

「わかってる。ダンジョン攻略をやめたわけじゃないからな。暇な時には顔を出すよ」

「頼むぜ」


 ガヴェンは俺の肩に手を置いてニッと笑った。


「そろそろ行かないとメンバーとの待ち合わせに遅れちまう。悪いな。話し込んじゃって」

「いや、俺も久しぶりに会えて嬉しかったし、話せてよかったよ」

「おう。じゃっ、またな」


 そう言って手を上げながらガヴェンは仲間のいるところへと向かった。


「あいつは変わらないな」


 俺はそう呟いてギルドの受付へと足を運ぶ。受付には年上の綺麗なお姉さんが立っていた。


「ようこそ。ギルドへって、ユヅキくんじゃん」


 最初は敬語であったが俺だとわかると受付嬢は口調を変える。目の前にいる受付嬢は俺がダンジョン攻略者になってからずっと面倒を見てくれた人物である。名前はリラ・コーディネ。ギルド歴5年の20歳のお姉さん。


「リラさん。お疲れ様です」

「おはよー。今日は何しに来たのかな?」

「いつも通り依頼を貰いに来ました」

「わかった。依頼ねー。ちょっと待ってね。今日の分、用意してあるから」


 それを聞いてリラさんは裏に書類を取りに行く。


 リラさんが持ってくる依頼はどれも難易度的にも無理がなく程よくお金が稼げる物で俺は安心して依頼を受けることができる。


 リラさんは何枚かの書類を持ってきてその場で依頼内容を見比べて少し考え込んだ後、


「これとかどうかな」


 と1枚の依頼書を机に置く。


 内容は


『ミナーヴァにある黒石と呼ばれる鉱石を20個回収して欲しい』


 というもの。


 ミナーヴァのダンジョンは全部で50階層を超えるが黒石があるのは10階層付近である。


「どうかな。他にもいくつかあるけど」


 10階層であればミナーヴァの序盤。ミナーヴァは神格ダンジョンであるが序盤であればそこまで難しくない。この依頼ならアヤに言った通り昼頃には帰れそうだ。特にダメな理由もないので俺はこの依頼を受けることにする。


「これでいいですよ」

「じゃあ、回収できたら私の元に持ってきてね。いつも言ってるけど、くれぐれも無理はしないように」


 リラさんはそう念を押してくる。


「わかってますよ」


 そう言って俺はは依頼の書類を内ポケットにしまい、ギルドから出てミナーヴァへと向かう。


 ミナーヴァは町の外にあるためそこそこ遠いのだが、《転移》の魔道具を使えば簡単に移動できる。


 転移の魔道具は自分の見たことのある場所に転移できるというものであり、ダンジョン内で一度きりしか使えないものでも平均月収と同じくらいの値段である。


 しかし、帰る時にも元いた階層に戻る時にも使うため転移の魔道具ダンジョン攻略の必需品の一つであった。


 俺は途中から帰ることをしなかったため全く必要ない代物だったが。


 俺が持っている《転移》の魔道具はとあるダンジョンを完全攻略する少し前に手に入れたもので、ダンジョンの最深部に近いところで手に入れたものだ。そのため時間を空ければ何度でも使えるという破格のスキルである。


 そんなスキルを使うために俺は腕につけていたブレスレットタイプの転移の魔道具を使用する。ブレスレット前に出し、13階層をイメージして、


「転移」


 と呟く。


 その瞬間、視界が真っ白く染まり、何かが見えたと思った時には13階層にたどり着いていた。


「やっぱり転移の魔道具は便利だな」


 一瞬でダンジョンについた俺が魔道具の有用性を感じて立ち止まっていると前方から狼のようなモンスター、魔物が襲いかかってくる。


 俺は黙って左の腰の鞘から白い剣を抜き、一振り素振りをする。


 その瞬間、音を立てることなく狼が真っ二つに斬れる。


 スキル《鎌鼬》


 俺の持つ剣はスキルを持つ魔道具であり、魔剣と呼ばれている。そしてこの剣が持つのは斬撃を飛ばすことができるスキルである。威力は10階層くらいなら一撃で倒せるくらいであり何度でも使うことができるというもの。距離に限界はないが、遠ければ遠い程威力は弱まる。雑魚処理が楽な使い勝手の良い魔剣である。


 心臓部を切られて動けなくなった狼が完全に動かなくなり砂のようなものになって消えていき、濁った宝石のようなものだけが残り地面に落ちる。


 落ちたのは魔石。スキルの元となる魔力が込められた石。これを使うとスキルが使えるようになるというものではなく、加工して武器や日常生活で使う汎用魔道具のエネルギー源として使われている。


 魔物を倒すと魔石か魔道具が落ちるので今回は外れというわけだ。ここら辺の魔物は弱いので魔道具を落とす確率もその分低くなっている。


 今回の目的は魔道具ではないので魔道具が落ちなくても特に悲しむことはない。


 落ちた魔石を拾い、気を引き締めて黒石を探す。


 たとえ魔物を瞬殺できると言ってもダンジョン内にいることに変わりはない。ダンジョン内にはトラップが多くあり、油断していると実力者でも命を落とすことがある。


 それにダンジョンではごく稀に希少種と呼ばれる必ず魔道具を落とす魔物が現れる。希少種は自分達のいる階層のレベルよりも遥かに高く、普通にダンジョン攻略をしている人ではまず倒せない。今の俺みたいに自分よりもレベルの低い階層を探索していて出会えたのなら嬉しい魔物。そのため基本的には出会ったら逃げるようなトラップ扱いの魔物とされている。


 また、希少種以外にもダンジョン内には魔道具を目当てに攻略を襲う攻略狩りもいるためどの階層でもレベルに見合わない事故、事件が起きる可能性がある。油断していていたらいつ命を落とすかわからない、それがダンジョンだ。


 そんなことを考えて俺は


「さて、さっさと終わらせて、ご飯でも作りますか」


 と気合を入れた。



 そんなことを言ってから15分、俺は未だに黒石を1つも見つけられていなかった。


「不味いな。このままだと帰るのは昼過ぎになってしまう」


 どう考えても誰かが黒石を回収したような跡があるため同じ目的の人に先越されてしまったと考えられる。なので、ここら辺には殆どないと考えるのが妥当だ。


 そう判断した俺は


「もっと奥に行くか」


 ここまでないと流石に探すのめんどくさいなぁと感じながらも13階層の奥へと潜っていった。

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