最年少のダンジョン完全攻略者はダンジョン攻略を辞めて学校に通いたい
吹雪く吹雪
第1話 ダンジョン攻略者
ダンジョン
それは世界各地に存在する様々な種類のモンスターが出現する地下に深く広がる危険な迷宮。
そんなダンジョンには未知の資源が多く存在し、魔石や魔道具と呼ばれる特別なアイテムを手に入れることができる。それらを手に入れるために多くの人間がダンジョンに潜る。そんな人間をダンジョン攻略者通称攻略者と呼ぶ。
攻略者はモンスターと戦い、ダンジョンの深層を目指す。ダンジョンは地下に潜る程、強力なモンスターが攻略者に襲いかかってくる。
攻略者はモンスターを押し除け、最新部に存在する神器という他の魔道具を寄せ付けない強力なアイテムを手に入れることを最終目標としている。それは一攫千金のためかそれともただ強くなる為か。人それぞれであるが、全ての攻略者はその神器を手に入れる為に日々ダンジョンに挑んでいる。
つい最近まで攻略者の一人であった剣士、ユヅキ・アルメトは家の外を制服で歩いている人を見て羨んでいた。
「はぁー。楽しそうだな」
普通の人はダンジョン攻略を始める前に攻略の基本を学ぶために三年間、学校に通う。基本的にダンジョン攻略を始めるのは一般的に18歳。だが、俺はとある理由から13歳の時にはすでにダンジョン攻略を始めていた。
それから3年経って今は16歳。
今頃、学校に通って友達と仲良く学校生活を送り青春を謳歌しているかもしれない未来があったと思うと周りの人が少し羨ましい。
一人で窓の外を眺めていると、
「ごめんなさい。お兄ちゃん」
と後ろから声がする。声の主の姿を確認するために後ろに振り返る。そこには小さなおさげの少女、妹のアヤが立っていた。
「聞いてたのか」
聞かれたくないことを聞かれてしまった。
アヤが謝る理由。それは俺がダンジョン攻略を始めた理由にアヤのためにお金を稼がなければいけなかったということが含まれているからだ。
「いや、あの時はダンジョンに潜らないといけなかったし、それほど後悔してないから」
そう言って俺はアヤの近くまで歩いて行く。
正直言うと今日みたいに学校に通っている人を見かけると、学校に通ってみたかったと考えてしまうこともあるが、あの時、ダンジョン攻略を始めなければ間違いなく後悔していた。だから、あの選択が間違っていたなんてと思っていない。なのでアヤにはあまり気を遣って欲しくない。
「それでも!」
俺はアヤの前に立つと「どうしても」と強く拳を握るアヤの頭をやさしく撫でる。
「アヤ。何度も言ってるけど、俺がダンジョン攻略を始めたのは自分のためだ。だから、何も謝らなくていいんだ」
「本当に?」
上目遣いでそう聞いてくるアヤにグッとくるものがあったが堪えて笑顔をつくり
「ああ。本当だ」
と自信満々に言った。アヤはそれを聞いて手に入った力を抜き少し安心したような様子を見せる。
「ってか、こんな話している場合じゃないだろ。今日はアヤの入学試験なんだから早く着替えてきなよ」
「あっ、そうだった」
とアヤは部屋から出て行く。
アヤは今の12歳。
今年からアヤは、俺も一年だけ通っていた、ダンジョン攻略のためでなく、社会に出るために必要なことを学ぶための学校である初等学校に通う。
今日はその試験日。
そしてアヤが試験を受けるのはここら辺では有名な学校であるリョクオー学園の附属学校、リョクオー初等学校だ。
俺はアヤが部屋から出て行くのを見届けると
「さてと、俺も支度しなきゃな」
と呟いて自分の部屋へと向かった。
部屋で部屋着から攻略者であった時の服に着替えて、壁に立てかけていた剣の中から白い剣を一本とって腰に、ウエストバッグを右に装備し、最後にクローゼットに掛けられたコートを羽織る。
中に着ている服は普通通りのなんの変哲もない服だが、コートは《金属化》という金属製の防具と同じ防御力を持つというスキルを持つ魔道具である。
スキルというのは人や魔道具が持つ特殊な力のことである。
スキルは大きく分けて金属化のように魔道具に付与されている武器スキル、人の持つ特殊な力である固有スキルと呼ばれるスキルの2種類存在する。
武器スキルは魔道具に1つ付与されており、1つの動作のみ行うことができるようになっている。ダンジョンの難易度や階層によって魔道具のスキルも強くなることが多く、凄腕のダンジョン攻略者になるほどより良い魔道具を持っている。
次に固有スキル。固有スキルは基本的に操作系と生成系、特殊系と3つに分かれている。操作系とは《水を操る力》のような物体を動かすスキルで、生成系とは《水を生み出す力》のような物体を生み出すスキル、特殊系とは癒しの力であったり、消去の力であったり、やれることが限られるが特別なスキルが使えるものとなっている。
そしてこれらのスキルを纏めたようなスキルが存在する。
それが
《支配する力》
これは操作系、生成系を合わせたものでその名の通り支配し、なんでもできるスキルになっている。
武器スキルと固有スキル、2つのスキルの違いは同じ効果のスキルの有無。武器スキルは同じ効果で同じ名前の効果を持つスキルがいくつも存在する。対して、固有スキルはそれぞれの人がもつオリジナルのスキルで全く同じスキルは存在しない。
そんな金属化のスキルを持つコートは鎧と違って重くなく動きやすいく、ダンジョン攻略する際に重宝している。
また、ウエストバッグも魔道具で《収納》という荷物を見た目の数百倍持ち運べるというスキルを持っている為、手軽に必要なだけ持ち運べる装備となっている。
この装備が俺の最も実力を出せる動きやすさ重視の基本装備。
「よし」
と一言だけ呟いて全身、ダンジョン攻略していた時と同じ服に着替え、最後にタンスの上の腕輪を左手首につけてさっきまでいたリビングまで戻った。
リビングにアヤの姿はまだなかった。女の子だから支度に時間がかかるのだろうと思った俺は適当にご飯を準備する。とは言ってもパンと卵を焼いただけの簡単なものだが。
作り終わったご飯を机に並べていると、
「お待たせ、お兄ちゃん。準備できたよ」
とアヤが小走りで部屋に入ってくる。アヤの方を見ながら椅子に座り、
「なら、早くこれを食べて行こうか」
と提案する。
俺が心の中でいつもとは違う制服姿の初々しいアヤの姿に感動しているとアヤは机を覗き込み何があるか確認すると、
「急いだのに」
と少し頬を膨らませながら呟く。
今日の朝ごはんはアヤが作る予定だったため俺に作らせてしまったことに少しがっかりしたようだ。
「そんなこと言って立ってるとご飯さめるぞ」
「はーい」
アヤは俺の言葉に素直に従い元気よく返事をして目の前の自分の席に座る。
「ありがとう。お兄ちゃん」
俺はその言葉が嬉しくて少し照れてしまう。
「いただきます」
と二人で同時に言ってご飯を食べ始めた。
ご飯を食べ終わりすぐに片付けを終わらせた俺とアヤは一緒に家を出る。二人で一緒に出る必要はないのだが、ただ俺がアヤと少しでも一緒にいたいからと言うこともあって一緒に家を出ることになった。
「お兄ちゃんは今日、何するの?」
「俺か。俺はギルドに行って少し依頼をこなすだけだよ。だから、昼頃には家に帰れる」
「そっか。私も時間は午前中だけだから同じくらいだー」
アヤは俺と一緒にいる時間が増えたことが嬉しく俺を見て微笑む。
「なら、先に帰れた方が昼ご飯を作るってのはどうだ?」
俺がふとそんな提案をするとアヤは
「なら、早く帰らなくちゃ」
と呟いた。
アヤは朝ごはんを作って貰ったため今度は自分が早く帰って作らなければならないと意気込む。
俺はアヤの作ったご飯食べたいし遅く帰ろうかなと悩んだが、試験を受けて疲れているアヤにそんなことはさせられないなと思い急いで帰ることを決意する。
分かれ道で二人はは立ち止まり俺は
「じゃあ、ここまでか。試験頑張れよ」
と言ってアヤを見届けた。アヤはこちらを向いて
「お兄ちゃんも依頼頑張ってね」
と手を振る。
アヤからの応援を受け取った俺は
「よし、今日はいつも以上に頑張るか」
と意気込んでギルドに向かった。
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