第3話 vs希少種

 それからというもの一向に黒石は見つからず、ダンジョンの13階層を降りて14階層を探していた。


「見つからないなー」


 見つからなすぎて帰ろうかなと諦めかけていた時、ふと俺の耳に叫び声が聞こえてくる。


 念の為、俺は声の聞こえた方向へ走り出す。


 走りながらも最初は気のせいかもしれないと思っていたが、その後も悲鳴が何度か聞こえ、それは確信へと変わる。


「まさか」


 複数の声の悲鳴がすることから相手はかなり強い魔物。だが、10層近くでそこまで強い魔物は存在しない。


 存在するとするなら、低確率出現の希少種。 


 それがこの近くにいる。


「そんな偶然あるかよ」


 にわかに信じがたいが、俺は声のする方へ洞窟を一気に駆け抜ける。


「間に合えよ」


 狭い道を魔物を気にせずに走り抜け、大きな部屋らしき場所にたどり着く。


 そこで俺の視界に映ったのは明らかに10階層クラスには見えない魔物。身体は俺の2倍以上で二足歩行の猫のような見た目をしている。


 見たことない魔物。


 そんな魔物が腕や足を負傷し動けなくなった攻略者を鋭く尖った爪で斬り殺そうしていた。


 助けに入る前に一瞬で周りを確認する。周りには少女が一人、男が三人倒れている。


 そして走りながら咄嗟に《鎌鼬》を発動する。

 見えない剣が希少種に飛んでいく。そして、鎌鼬が希少種の腕に直撃する。しかし、そのダメージは殆どなく、浅い傷がついた程度。


 今のが効かないなら最低でも30階層クラス。もしくはそれ以上か。この階層にしてはかなり強力な魔物だ。


 だが、所詮は鎌鼬で傷つけられるレベル。


「俺の敵ではないな」


 俺はそう呟いて希少種まで止まらず走った。


 希少種はそんな俺を見て攻略者の目の前で腕を振り下ろすのをやめて周囲を確認する。そして、大きな雄叫びを上げた。


「くるか」


 傷をつけたことで真っ先に倒さなければいけない敵と判断し完全にヘイトが俺に向いた。その為、希少種は方向を変えて迷うことなく俺を目掛けて走りだす。


 完全に希少種の標的となった俺は剣を強く握り走りながら、走り襲いかかってくる希少種の動きを確認する。


「遅いな」


 と言葉など通じるわけのない希少種に対して若干挑発する。


 ギリギリまで近づいた希少種が大きく両腕を振りかぶる瞬間に地面を蹴って希少種の真横を飛び抜ける。それと同時に自身の持つ固有スキルを発動する。


 固有スキル《小さきものを支配する力》


 その名の通り小さいものを生み出し操作することができるスキル。


 小さなものというのは使うものによって様々だが基本的には自分の掌より小さいくらい。触れば操ることもできるし、知っているものならスキルを行使する魔力が尽きるまで無限に作り出すこともできる。


 そして、今回生み出したのは石弾30個。


 それを横を通り過ぎていく前傾姿勢になった希少種の顔目掛けて放つ。石弾は希少種の顔に当たるとバラバラに砕けて周囲に散らばる。


 希少種は目への直撃を避けるために目を瞑ったが、その間に俺は背中へと近づく。


 それの気配に気づき目を開けた希少種だったが砕けた石によって視界を遮られ、動きは鈍っている。その間に俺は無防備な背中に向けて大きく剣を振る。振り下ろした剣は希少種の背中に深く入りこむが、背中が思っていた以上に硬い骨に覆われて致命傷にはならなかった。


 希少種が突然の痛みに大きく暴れ回ったためそれ以上の攻撃はできずに後ろに軽く飛んだあと、何歩か下がり希少種との距離を取る。


 取り暴れている希少種を見て、


「あんなに暴れるなら、最初から一撃で仕留める気でいけばよかったかな」


 と呟く。


 撹乱以外は剣だけでの攻撃で倒そうと思っていたが、見立てが甘かったようだ。下手な攻撃は敵を刺激するだけ。手こずるのはめんどくさい。少しだけレベルを上げるか。


 俺はそう考えて一度仕切り直すためにも大きく深呼吸し、


「次で決める」


 と気持ちを切り替えて強く地面を蹴った。


 希少種は暴れるのをやめて周りをぐるっと一周見て動き出した俺を捉えると怒りをぶちまけるように雄叫びをあげる。


「うるさいな」


 そう呟いて希少種の正面まで走っていく。走りながら、スキルで無数の鉄を生み出し、一気に放つ。


 希少種はそれを見て俺を止めようと地面に手を突っ込み地面を掘り起こし、俺目掛けて投げる。それによって鉄は地面に突き刺さって止まってしまう。


「これがこいつの遠距離か」


 そう呟くと刺さった鉄を再び操作して、一つだった地面を複数に砕く。


 大小さまざまにばらけた岩や砂が俺に飛んでくるが、足を止めることなく走り続ける。そして、迫りくる岩や砂煙に向かって剣とスキルを使い防ぐ。


 俺はスキルで小さな石、剣で大きな岩などに当たらないように弾く。そしてすぐに粉々にした岩や砂が砂煙となって俺を覆い隠す。


 希少種は攻撃が当たったと確信して追撃をいれようと迫ってくる。それを確認して、砂煙から出て行く。希少種は砂煙に入っていこうとするが、突然砂煙の中から俺が現れたことで動きを止める。


「ここはもう俺の距離だ」


 身の危険を感じた希少種は尽かさず左腕を振り下ろす。それを気にせず俺は軽く跳んでガラ空きの胴体目掛けて剣を突き刺す。


 やはり、腹の防御力はそれ程高くない。だが、これだけでは仕止めきれない。


 腹を刺された希少種はそれでも左腕を振り下ろすのをやめない。それどころか剣を突き刺したことで希少種は力み更に力が入っている。俺は一度突き刺した剣を抜き、一度下がる。


 そして、力一杯振り上げて希少種の腕を弾き、そのまま後方へ高く跳ぶ。


 その直後、無数の斬撃が希少種の体を襲う。


 そのまま希少種を見下ろして、


「スキル《鎌鼬》」


 と呟いた。


 配置型の時間差斬撃。


 砂煙の中、俺は自身の持つ固有スキルでその砂煙を操っていた。


 小さなものの対象である砂を操り、攻撃を防ぐと同時に自らを隠して《鎌鼬》を発動する。その鎌鼬の速度を自分の移動速度より遅くする事で遅れて攻撃するように配置し、追撃を準備しておく。


 砂煙によって鎌鼬を隠し、俺自身が直接攻撃をする事で希少種の意識から鎌鼬を遠ざけていた。


 これが時間差で斬撃を生み出した原理。


 鎌鼬による追撃を受けた希少種は腹を無数に切り裂かれ一、二歩後退すると片膝をつく。


 弱くても傷はつけられる威力。体勢を崩すくらいなら容易にできる。


 その瞬間を逃さず着地後すぐに追撃をする。


 最後までは抵抗しようと腕を振り続けるが全て弾き態勢を崩し、傷だらけの腹に思いっきり剣を振り下ろす。


「俺の勝ちだ」


 その一撃で希少種は力尽き前に倒れ、その後、希少種は砂のようになり消えていった。

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