第4話 安否

 胴体があった部分に魔石とは違うどんな能力があるかわからない石のようなものが落ちる。


 戦いが終わった俺は剣を鞘にしまいながら石を拾いポケットにしまって辺りを見渡す。俺の周りには倒れている人が数人いて1人が重傷、1人は意識がなさそうで、残りは3人は軽症のようだった。


 人数は全員で5人なのでここを攻略中パーティー全員が襲われた可能性が考えられる。


 とりあえず、全員助けたいのでまずは近くに倒れていた少女の元へ向かった。


「大丈夫か?」


 俺は近くに居た倒れている長い髪の少女に近づいて怪我を確認する。


 気を失っているだけで息はある。気絶しているが大きな傷はないため下手なところを触らないように見える範囲の近くの岩陰に運び楽な姿勢で寝かす。


 少女の安全を確保すると希少種の攻撃を受けていた男の元へ向かいしゃがむ。


 男は俺を前にして、


「女の子は?」


 と聞いてくる。男は腕と足を負傷しているがなんとか状況を把握しようと俺に迫る。


「無事だ。他の仲間もまだ見てないがおそらく生きている」


 一人一人見て回っていないが、倒れていたのは目の前にいる男と少女。その他2人は意識があり、しゃがみ込んでいただけだった。


 今、目の前にいる男が一番怪我がひどいため、この男が最優先に助けるべき人間である。


「そっか。良かった。助けられたか」


 その反応から少女を助けるために立ち向かった。そんな感じだろう。


「まさか、アイツを倒してくれたのか」

「ああ。もちろん」


 俺がそう言うと男は良かったと少量の涙を流す。


「ああ、もうあいつはいない。お前たちは助かったんだ。だから、安心して休め。あとは俺がなんとかする」

「良かった」


 そう呟くと男は安心して力を抜いた。


「ちょっと待ってろ」


 男にそういうと腰につけていた腰袋からアイテムを取り出す。


「これだな」


 そう言って取り出したのは怪我を治すための魔石の一種である回復の輝石。それを男の胸元に持ってゆくと


「リカバリー」


 と呟いた。


 すると輝石が眩く光り砕け散り、その光が男を包み込む。光が消えた時にはすでに傷が完全に治っていた。


「嘘だろ。一瞬で傷が」


 目を丸くして驚いている男を見て輝石がちゃんと使えたことに安心する。


「言っただろ。後は俺がなんとかするって」


 そう言って立ち上がると他の人にも輝石を使い傷を治していった。


 幸いなことに死人は出ることはなく全員が輝石を使って傷を癒すことができた。


「全員、動けるな。なら、このままこれを使って帰りな」


 そう言って使い切りの転移の魔道具を最初に助けた男に渡した。男は魔道具を触って何か確認する。最初は不思議そうに魔道具を角度を変え見ていたがスキルを確認してその手が止まる。


「これ、転移の魔道具だろ。さっきも輝石を使ってもらったみたいだしこんなの貰えるわけない」

「別にそれくらいはいい。金で命は変えないからな。それにダンジョン内では助け合いをしなきゃ生きていけない。だからただの人助けだと思ってくれればいいよ」


 せっかく助けたのに死なれては困る。金はあるので最後まで面倒みたいと俺はそう思っていた。


 俺が引くことはないと感じた男は、


「申し訳ない。ありがとう」


 と感謝をして魔道具を受け取るとバッグから何かを取り出す。


「これ殆ど金にならないけどよければ持っていってくれ」


 そう言って汚い小袋を差し出した俺の手の上にのせる。袋を開け中を確認すると黒く光を反射することのない石がゴロゴロと入っていた。中に入っていたのは探していた黒石。


「本当にくれるのか?俺はこれを探すためにここに来たんだ。貰えるなら凄く嬉しいよ」


 正直一番欲しいものなので貰えるなら貰いたい。俺は素直に男から黒石を受け取る。


「ありがとう。これで依頼完了できる」

「いや、礼を言わなければならないのは俺たちだ」


 男達は一列に並び、


「ありがとう」


 と深く頭を下げてお辞儀した。


 残った少女は俺が起きるまで守ればいいだろう。こいつらは先に帰して休ませた方がいい。


「後は俺がどうにかする」


 俺がそういうと、男は少女の姿を一度確認して自分たちでは何もできないと感じて、


「少女を頼む」


 とお願いしてくる。


「ああ、わかってる。お前らも気をつけろよ」


 俺が一言そう告げると男達はお互いの肩に手をのせて真ん中の男が転移と呟くと一瞬で姿が消え、地上へと戻っていった。


 広いダンジョンの奥地で俺は男達がいなくなってもまだ意識が戻らない少女をどうすればいいか悩んでいた。


 このまま地上に帰すべきか、ここで待っているべきか。


 転移の魔道具が意識のない人にも使えるかわからないため使えなかった場合大変だし、ここもダンジョンなのでもしものことがないとは言えない。


「どうしようかな」


 と言いながらも結局は、ここで少女を守っていた方が安全なので少女が起きるまで待つことにする。


 たまにこちらに魔物が近づいてくるが、スキルで一撃で倒して何も近づかないようにする。


「正直、やることがなくて暇だ」とか「早く起きてくれないとアヤが先に帰って勝負に負けちゃうな」など考えていると少女が目を覚ます。


「ここは…」


 そう呟きながら少女は目覚めるとすぐに意識が覚醒し、はっと我に帰り、とっさに立ち上がり剣を持ち構える。


 こちらをじっと睨むとすぐに周囲を警戒する。

 一度、周囲を見渡した後、


「あいつは」


 と俺を睨む少女と目が合う。


「俺は敵じゃないよ」


 警戒心丸出しの少女を前にして俺は剣を鞘にしまって両手を広げてこちらに攻撃の意思がないことを主張する。


「あなたは?」


 少女は俺が剣をしまったことで警戒を少し緩めるが完全には信用していないようで剣を構えたまま、俺の近くまで歩いてくる。


「そんなに警戒しなくてもいいよ。俺は君に危害を加える気はないから」


 そう言ってもまだ完全には警戒を緩めないのでとりあえず自己紹介とこの状態に至った経緯を話しておく。


「俺はユヅキ・アルメト。ただのダンジョン攻略者。えっと、君が襲われていたから助けた。その後、地上に返そうかなと考えたけど、難しそうだったから、ここで魔物が来ないように見張っていた。以上だ」


 それを聞くと周りに魔物がいないことを自分で確認して少女は警戒を解いて剣を鞘にしまう。


 俺が一通り状況を話したことので少女は今の自分の状況を理解する。


「そうですか。助けていただきありがとうございます」


 と礼儀正しく一礼する。


 俺はその姿を見ながら何処か怪我していないか心配になる。輝石を使っていないので怪我を治したわけじゃない。見えない傷があったら治さなきゃいけない。


「ちゃんと動けるか?」


 少女は腰を捻り見える範囲で怪我をしているところを探したり手足を曲げ伸ばししたり跳ねたりして怪我がないことを確認する。


「あっ、えっと。大丈夫みたいです」

「なら、良かった」


 とホッと胸を撫で下す。これで一安心。


 あとは帰るだけだと転移の魔道具の使用回数を確認しようと少女はポツリと、


「やはり本当に存在するのですね」


 と呟いた。


「何が」


 なんのことなのかさっぱり分からず聞き返してしまう。


「私と同い年くらい歳でダンジョンの深層を攻略する冒険者です」

「そんなことか。そんな珍しいことじゃないと思うけど」


 若くしてダンジョンを始めることは特別なことじゃない。現にかつて一緒にダンジョン攻略をしていた剣士にも今の俺と同じくらいの歳の人間がいた。だから、普通に存在すると思うのだが。


「そうですか」


 少女は少し考えて納得すると、


「あ、あの助けてくれたお礼なんですけど何がいいですか?」


 と少女は唐突にそう聞いてくる。いきなりお礼を聞いてくるか。


 俺は何かを貰うために助けたわけではないので、


「お礼なんていらないよ。さっきの人から欲しいものは貰ったし」


 と断る。


 それでも引かない少女はぐいぐい迫ってきて、俺の両肩に手を乗せて、


「そんなこと言わないで下さい。私のプライド的にもこのまま助けてもらったのに何もしないわけには。本当に何かないですか?」


 と聞いてくる。


 俺は必死に欲しいものを聞き出そうとする姿に押されて何か考えるが特に見つからず本当に特にないしなーと軽く頭を掻く。


 頭をフル回転させて欲しいものを探す。


 何か欲しいもの。欲しいもの。ない。

 強いて言えば、今欲しいもの。


 青春。


 そんな単語が俺の頭の中に浮かんでくる。


「学校。いや、今のは何でもな。」


 頭の中で思いついたことを口に出してしまい咄嗟に手を振って否定する。


「学校? 教育施設が欲しいんですか?」

「いや、その違くて、学校が欲しいんじゃなくて、学校に行きたいというか、なんというか」

「えっと、まさか、学校通ってないんですか?」


 なかなか心にくる言葉を口にされ、言い訳のようにその理由を話す。


「ああ。通ってないよ。去年はずっとダンジョンにいたし。でも、無理な話だと思うけどダンジョン攻略だけでなく一度は学校に通ってみたかったなって。まぁ、そんなの君に言ってもどうこうできないと思うから忘れてくれ」


 強いていうなら同期の友達みたいなのが欲しかったけど、まあ、目の前の少女に言うようなお願いじゃない。


 そんなことを考えていると、少女は少し考えてから


「なら、それをお礼にしましょう」


 と呟いた。


 俺はそれを聞いて一瞬だけ学校に通う夢を見てしまうがすぐにそれが無理なことを認識する。


「はあ?そんなの無理に決まってるだろ。もう試験を受けられる年齢は過ぎてるから俺はどうあがいても学校に通えないんだよ」

「私ならできます。こう見えても私の父は学校の理事長なんです。だから、私を助けてくれた、優秀な実力をもつあなたのことを話せばきっと何かしてくれます」


 できたとしてそんな不正入学的なことしていいのかと考えるがこんな機会はそう滅多にない。そこら辺が危なかったらやめればいいかと考え、この話が自分にとってメリットであると捉えて俺はその話にのる。


「できるなら頼みたいな」

「わかりました。帰ったら父に聞いてみます」


 と返答して少女は俺の前を歩いてダンジョンの出口まで歩いて行こうとした。

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