第30話 sideヒカリ
ユヅキがスケルトンに向けて走り出す少し前、ヒカリは目の前にいる男のせいでユヅキの戦う姿が見れないことを残念に思っていた。
そんな中、ユヅキは一人、
「流石だな。広範囲で遠近両方に対応できるスキル、二、三層とはいえこんなにも早く攻略できるなんて」
と呟いた。
ユヅキの言っていることはまさにその通りだった。
一撃でモンスターを焼き払えるだけの高火力な威力。複数体のモンスターに囲まれても全てのモンスターに当てられる範囲。そして、近づかなくても当てることができる射程の長さ。それらに対して文句などなかった。
「これだと俺たちの出番なさそうだな」
という発言にヒカリは本当にそうなってしまうのではないかと強く感じてしまった。
「それはそれで試験の点数的に有利なので嬉しいですけど、せっかくの先輩との初めてのダンジョン攻略で先輩の戦う姿を見れないのは嫌です。」
奇跡的にユヅキと組めたので戦って欲しいという気持ちの方が強いが、このまま何もしなくてもいいかもと思ってしまう自分もいた。
「そうだなー。でも、あと少ししたら彼も疲れてくるだろうから、そしたら俺がやるよ」
本当に疲れるのか。
疲れで威力が少し落ちてきてはいるがモンスターを一撃で倒すことができる威力はある。それを見ているとただ私を慰めているだけなんじゃないかと思ってしまう。
ネガティブな思考を持ってしまったヒカリはそれから三層攻略の終盤まで何も発することはなかった。
ダンジョン攻略をし始めてもう三層を攻略し終わる頃、目の前では未だにモンスターが出現すると炎を放っていた。それは未だに一撃でモンスターを焼き払えるだけの威力を持っていたが、
「そろそろだな」
と不意にユヅキが呟いたが何がそろそろかわからなかったので聞かなかったことにする。
それからも何度か魔物が現れるがユヅキが動き出す前に男が倒している。しかし、男の息は上がっていてかなり疲れているのを感じられた。それを見てやっと本当にユヅキの戦う姿が見れるかもと思えてきた。
そして、四層へと続く階段を見つけた時、男の前に骸骨の魔物が現れる。
父から聞いたことのあるその魔物の名前はスケルトン。確か、その身体能力は低いが炎などのいくつかの耐性と再生能力が他よりも高いという能力を持ち、コアを破壊しなければ倒すことができない魔物。
しかし、そんな魔物でもまだ三層レベルの魔物だ。今回も一撃で倒すと思っていた。でも、そんなことはなかった。放たれた炎を直接くらって倒したと思ったスケルトンは炎の中から姿を変えずに現れる。それから何発も炎を放っているが全く効く気配がない。
「なんで効かないんだよ!」
と男が叫ぶが無情にもスケルトンは迫りくる。
助けに行こうとするが男に文句を言われないようにと距離を取って歩いていたため、助けに入るには時間がかかる。
このままじゃ、間に合わない。そう思った瞬間、スケルトンに向かって剣を振り抜こうとするユヅキの姿が映った。
その姿に、
「嘘」
と声が出てしまった。
ついさっきまで自分の隣にいたユヅキが一瞬で男の隣にいるのか疑問が湧いてくる。
スキルなのかそれとも身体能力なのか。
どちらにせよそれは後で教えてもらえる筈だ。今はユヅキの元に駆け寄らなければ。ヒカリはそう考えて、駆け足で男の元に向かう。
ヒカリが移動している間にユヅキはそのまま剣を振り抜き、スケルトンを吹き飛ばす。
「悪いけど、こいつは俺が倒させてもらう」
ユヅキがスケルトンを剣で殴り飛ばして背後にいる男に向かって振り向いてそう言う。
男はユヅキがそこにいることが信じられないく、
「どうやって」
と呟いた。
そんな男に対して、
「やばいと思ったから走っただけ。あれくらいの距離ならすぐだよ」
と先輩は当たり前のことのように返す。
一瞬で移動した。距離はそうでもなかったが速さがおかしかった。あんな速くたどり着ける訳ない。
男は詳しくの話を聞こうと口を開こうとするが
「話をするのはあいつを倒してからだ」
と遮って、動き出すスケルトン目掛けて走り出す。その間にヒカリもその間に男の元へたどり着く。そして、男に向かって、
「怪我はないですか?」
と尋ねた。
しかし、男の意識はユヅキの方にあり、何も言わずにただユヅキの方だけを見ていた。見た感じ男に怪我はなさそうなのでヒカリもユヅキの方を見る。
もうその時すでにユヅキはスケルトンが完全に動き出す前に間合いに入り一撃でスケルトンを倒していた。
スケルトンを倒す姿は試験官と戦っている時とは違うように見えた。
その後、帰ってくるかと思いきや、
「あっちもか」
と少し奥の方へ向かって走っていく。
ユヅキの走る先には何がいるようだったがよく見えなかった。
それから少しして帰ってくるユヅキ。
そんなユヅキを見てこれが自分と同世代のダンジョン攻略者の実力であるのかと驚愕した。
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