第19話 オリエンテーション

「アヤ。お待たせ」


 そう言って校門近くの木に寄りかかって待っているアヤを見つけて駆け寄る。


「お兄ちゃんお疲れ様」

「アヤもお疲れ」


 軽く言葉を交わしながら歩き出す。


「どうだった?学校?」


 少し興味深そうな顔で聞いてくるアヤ。


 今日の学校か。特に変わったことはなかったがあの教室の空気は良かった。友達と会話して、先生の話を聞いて、なんか当たり前なのかもしれないけど学校を感じた。


 だから、


「楽しかったよ」


 と素直にそう言えた。そんな俺を見てアヤは嬉しそうにする。


「アヤは?」

「うーん。まあまあ?」


 首を傾げながら答える。その様子からあまり楽しくなかったわけではないようだ。ただ何か思うところがあるみたいだ。


「まあまあか」

「お兄ちゃんみたいに最初から知っている人とかいないから話せる人がいないからまだ楽しいかどうかわからないんだよね」


 なるほど。いきなり知らない人に話しかけるのって結構勇気がいることだもんな。俺だって今日、自分から話しかけてないし。


「そっか。でも、みんな同じような感じだったんじゃないか?」

「うん」

「なら、大丈夫だよ。みんなアヤみたいに緊張してるんだ。だから、話しかければ仲良くなれるよ」


 俺はアヤの頭を軽く撫でながらそう答える。


「本当?」


 撫でられながらも上目遣いでこちらを伺ってくる。こういう時のアヤは本当に可愛い。


「ああ。自分から話すことができなくてもオリエンテーションとか実践系の授業とかあれば自然とそこで友達ができるよ」


 アヤは緊張して話しかけることが苦手なだけでコミニケーションは取れる。だから誰かと何かをしなければいけない状況、そんな状況になれば自然と話し始めることができる。そうすれば友達だって出来るはずだ。


「わかった。じゃあ、明日のオリエンテーションから頑張るね!」

「ああ。頑張れって、アヤも明日からオリエンテーションなのか」


 同じ日にオリエンテーションがあるということに少し驚く。


「うん。お兄ちゃんもなの?」

「そう。俺も明日からオリエンテーション合宿があるんだ。急な連絡だったから驚いたよ」

「あー。その話をしてたの試験前の説明会だったからお兄ちゃん知らなかったのかー」


 アヤが思い出したように言う。

 そのタイミングか。だから俺は知らなかったのか。


「だからか」

「知らなかったってことはお兄ちゃん、荷物の準備もしてないの?」


 アヤが心配そうに尋ねてくる。

 していないというかできなかったというか。


「してないな」

「じゃあ、早く帰って支度しなきゃ!」


 アヤは笑顔で俺の手を引いて家に帰った。


 帰ってからすぐに始めた準備は

「バッグはこれ。服はこれ!」

 とアヤが主導権を握り、殆ど任せる感じになりあっという間に終わらせることができた。


 ◇


 そして次の日、今日はオリエンテーション合宿当日。昨日と同じようにアヤと登校し、別れた後は一人で教室に向かう。教室はざわついていて皆、これからのオリエンテーションを楽しみにしていた。


 ヒカリはまだ学校に来ていなかったので自分の席に座る。


 座っているとカイラに話しかけられる。


「おはよ」


 と適当に挨拶をするとカイラは軽く挨拶を返して


「僕とチームを組んでくれないかい?」


 と聞いてくる。


「悪い。俺は無理だ」


 と即答する。


「そっか。他にも組みたい人が多いし、少し遅かったかな」


 カイラは残念そうに呟く。

 誘ってくれるのは嬉しいんだけどなー。仕事がなければ普通にチームを組んでた。


「いや、誰かと組むわけじゃないよ。俺は仕事があるから無理なんだ」

「仕事?」


「そう。ゲームの間、少し先生に仕事を頼まれたんだ」

「そうなんだ」


 カイラはそれを聞いて納得してくれる。だが、それでもまだ少し残念そうだ。


「もしかしたら、途中から参加はできるかもしれないからその時はチームに入れてくれ」


 そう言うとカイラは


「勿論」


 そう言ってくれる。


「じゃあ、他の人を誘ってみるよ」


 そう言ってカイラはエミのところまで歩いて行くと首を振り俺の勧誘の結果を話していた。


 俺がカイラと話している間にヒカリも登校してきて、


「今日から楽しみですね!」


 と俺の隣に来てウキウキしていた。

 クラスはずっとざわついていたが


「皆さんおはようございます」


 とセルビアが挨拶をすると静まり返る。


「えー、これから軽く学校の設備や教室を見て周ります。皆さん荷物を持ってついてきて下さい」


 そう言って教室から出て学校内を歩き始めた。


 対人試験をした際に使用したスキル訓練場や治癒室などダンジョン攻略のための施設がしっかりと揃っている。


 他にも図書館や魔道具補完室など面白そうな場所があったが今日は時間がないのでと軽くしか見れなかった。


 それに一部屋だけ何故か見せてもらえなかった。


 学校を一周し終えた俺たちは昼ごはんを食べてセルビアの指示で次の場所に移動する。


 その前に着替えを行った。俺はいつものコートと腰袋を身につける。


 次の場所、それは学校外らしく学校を出てそのまま街の外に出る。


 街の外にはダンジョンが多く存在する。街にあるダンジョンよりも大きく、難易度の高いダンジョンが多い。神格ダンジョンもそうだ。転移を使っていたので街の中みたいな感覚だったが街の外に存在するダンジョンだ。


 ダンジョンの近くにはダンジョンから漏れ出したエネルギーのせいで魔物が湧く。ダンジョン外の魔物は大体が一層レベルでダンジョンに向かう攻略者に討伐されるので街に影響はない。


 ちなみに街の中にあるダンジョンは小さいため、エネルギーも少なくそんなに魔物は湧かない。


 街の外に出た俺はなんとなくダンジョン攻略でもするのかなと思った。


「はい、ここまでくれば大丈夫でしょう」


 そう言って前を歩いていたセルビアは立ち止まる。

 そして振り返ると


「これから宝探しをしてもらいます。なのでまず10分あげるので5人チームを組んで下さい」


 そう言った。

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