第18話 入学

 1週間が経ち今日は待ちに待った入学式。そして今はアヤと一緒に登校中。


 俺はいつもの服装ではなく制服をしっかりと着て剣は持たず普通の学生の格好をしている。他学生と違うところは腰袋くらい。


「お兄ちゃんと一緒に通えて嬉しいなぁー」


 隣で一緒に歩いている制服を着たアヤがそう言う。


「俺もだよ」


 ダンジョン攻略をしていた頃では想像できなかった。こうして一緒に同じ学校に登校できるなんて夢みたいだ。


「今日から学校。友達できるかなー」

「アヤなら絶対できるよ」

「うう。そうかなー」


 アヤは少し人見知りだ。だが、話せばすぐに打ち解ける。心配はしていない。


「ああ。俺の妹だ。普通に友達作れるよ」

「そうだといいなぁ。」


 それでもアヤは少し心配そうだった。まあ、仕方ないか。そんな会話をしながら歩き続け学校の校門に着く。


「じゃあ、帰りはここで」

「うん」


 そう約束して俺たちはそれぞれの昇降口へと向かった。


 昇降口前のボードにクラス分けの紙が貼られており、その前に人だかりができていた。俺はその中に入っていき、クラス分けの紙から自分の名前を確認する。


「クラスは...」


 びっしりと名前が書いてある紙のその一列目最終行に俺の名前は記載されていた。


 クラス一組


 名前を見つけ自分のクラスを確認した俺は校舎に入って行く。


 ボードの前で友達と話している人が多かったが、やっぱり友達と一喜一憂するのも一つのイベントなのかな。少しやりたかった。


 というか結局、俺は1年からスタートか。一つ年下の中で生活するので少し溶け込めるか心配だ。


 教室に入ろうとすると黙って座っている人、教室の端で数人で話している人がいて全員が一瞬こちらを見るので若干入りづらい。


 教室に入ると試験の時に見た顔がいくつか見たことのある顔の生徒がいる。炎を操る男、障壁を操る男。その2人も教室にいた。2人も俺をじっと見てくる。そして、その2人や他の人が動き出すよりも早く、


「あ、先輩!」


 と試験の時によく聞いた声がここでは俺にしか通じない名を呼ぶ。先輩呼びをする人なんて彼女しかいない。


「ヒカリも同じクラスだったんだ」


 と向かってくるヒカリに向けて少し歩く。


 クラス確認の際に自分の名前しか見ていなかったので誰がクラスメイトかわからなかったが、ヒカリがいるならなんとかなりそうだ。


「同じクラスだったんだって、クラス分け見てないんですか?」

「いや、見たけど、自分のしか見てない」

「そんな。私なんてどうでもよかったんですか」


 ヒカリがわざとらしく悲しそうな顔をする。


「どうでもよくなんてないよ。俺はヒカリが一緒のクラスですっごく嬉しいよ」


 これは本心だ。実際、ヒカリの存在はこの学校で楽しむために必要だと思っている。


 俺の言葉を聞いたヒカリは


「えへへ。そうですかー」


 となんか嬉しそうに屈託のない笑顔を見せる。

 このまま立ち話も嫌なので自分の席を確認しに行く。


「俺の席は」


 そう言って黒板に張り出された紙を確認しようと机の間を通って教室の前まで行こうとすると


「先輩の席はそこですよ」


 とヒカリが左奥の席を指刺す。


「あそこが俺の席なのか?」

「はい」

「なんで知ってるんだ」


 俺が問い詰めると


「私の席とどれだけ近いか気になったからですよ!」


 と言って胸を張る。


「はあ」

「ちなみに私の席は先輩の左前ですよ」


 ヒカリはそう言うとまた得意げな顔になる。

 近いな。近い方が何かと都合がいいし、運は良かったのかな。


「へー。そうなんだ」


 棒読みでそう言ってそのまま自分の席に向かう。光も後をついてくる。荷物を置いて座って少し周りを見ながらぼーっとしようとすると


「先輩」


 とヒカリが後ろを向いて笑い


「これならいつでも話せますね」


 と小さな声で囁く。


 確かにいつでも話しかけられる距離だが、授業中とかは怒られるので勘弁してほしい。流石にしないか。


 そんなことを考えているとヒカリの周りに女子が集まって来る。


 俺はその中に入れないと判断して静かに席を離れる。


 教室の後ろの方に移動すると男子生徒が一人近づいてきた。身長165センチ程のやや小柄の人当たりの良さそうだが、優しそう以外に特に特徴はない、そんな印象の少年。


「君、試験で試験官の先生と戦っていたよね」

「えっと、ああ」


 予想外に話しかけられた俺は一瞬戸惑う。


「あの戦い凄かったよ。遠くから見てたけど目が離せなかった」

「ありがとう」


 とりあえずお礼を言う。


「僕の名前はカイラ。君は?」


 と聞いて来た。


「俺はユヅキだ」


 と答える。


「君から学べることは多い気がする。だから、同じクラスで良かったよ。ユヅキこれからよろしくね」


 と手を差し出してくる。握手を求められているようだ。差し出された手を握り返す。握手をしていると


「カイラ、誰と話してるのですか?」


 とカイラと同じくらいの身長で長く綺麗な髪の少女が近づいてくる。カイラは少女に向かって


「ほらあの試験で試験官に勝った受験生がいたって話したでしょ。その受験生」


 と言うと少女はこちらを見る。そして思い出したように目を見開く。


「あの噂になってた受験生ですか」


 噂になっていたのか。まああれだけ派手に戦えば当然かもしれない。


 カイラは少女が隣に来ると、俺に向き直り自己紹介を始める。


「彼女は幼馴染みのエミ」


 と隣の少女を指す。紹介された少女は


「エミです。これからよろしくお願いしますね」


 と微笑み頭を軽く下げる。


「俺はユヅキだ。こっちこそよろしくな」


 こちらも頭を下げる。それから三人で話しているとチャイムが鳴る。そして先生が入ってくる。入ってきたのは細身の先生...って、セルビアじゃん。


「はいはい。クラスメイトがわかって騒ぐのはいいですが、もう入学式の時間ですよ。全員式場へ行くように」


 教室に入って早々セルビアがそう言うと周りにいたクラスメイトは部屋からぞろぞろと出て行く。


 セルビアはなんかこちらを見てニヤニヤしている。最後に残った俺はセルビアに向かって


「セルビア先生。久しぶりですね」


 と言ってセルビアのいる教室の前まで歩いて行く。


「僕が担任で驚きましたか?」

「まあ、それなりに」


 まさか担任になるとは思っていなかったが、元ダンジョン攻略者だから教える実力はあるため、可能性としては普通にあった。そんなに驚くことではない。普通に驚いたけど。


「まさか僕も君の担任になるとは思いませんでしたよ」

「これからよろしくお願いします」

「さて、挨拶は済みましたし、ユヅキくんも早く式場に」

「はい」


 そう返事をして教室前で待っていたヒカリと一緒に式場まで向かった。


 入学式ではリフィアの父である理事長の話などがあったが特に俺への特別な話はなく終わった。


 そして入学式を終えた俺は教室に戻っていた。


「よし、これから少し明日の話をします。これが終われば解散になるで、入学式後で眠いと思いますが、すこし頑張ってください」


 教壇でセルビアがそう言う。


 教師が入学式を眠いものだと捉えてるのやばくね。と思いながら聞いている。


 明日からの予定か。授業や学校内での決まり事を聞いたり、仕事の分担などをするのだろうか。


「明日からの予定ですがみんなも知っているように明日から一泊二日のオリエンテーション合宿を行います」


 うん?合宿?


「集まる場所はこの学校。1日目の最初、校内探索をし、その後別の場所に移動し、クラス内でゲーム、2日目に他クラスと合同でゲームを行ないます。なので今日の放課後、誰とチーム組みたいか決めておくと明日はスムーズにゲームが始められるので少し周りの人と話し合っておいてください」


 ゲーム?何も聞いてない。でも、楽しそうだ。


「はーい」


 全員が返事をする。そして少しざわざわし出す。


 俺は誰と組もうか。ヒカリと組むとして、他は殆どスキルを知らないし。


 俺が考え込んでいると


「持ち物ですが着替えだけは持ってきてください。初日の最初、学校では制服だが移動した後のゲームは動きやすい服に着替えてもらいます。勿論、次の日のゲームも。なので制服以外で最低二着は持ってくるように。それ以外は特になし。邪魔にならない程度になら何を持ってきてもいいですよ」


 着替えか。適当な服といつものコートを持っていけばいいだろう。


「以上で話は終わりです。今日は解散。お疲れさまでした」


 とセルビアの話が終わる。

 そしてみんなチームを組むために動き出す。


 どっちと組もうかと考えていると、


「あっ、ユヅキくんとヒカリさんはこの後少し話があるので僕のところに来てください」


 セルビアは最後にそう付け足した。


 なんだろうか。


 誰かに話しかけることなくセルビアの所に足を運ぶ。


「俺に何の話があるんですか?」

「ユヅキくん。君はチームを組まないでください」


 えっ。俺だけゲームに参加できない?いや、俺は一人で行動か?

 そう思って若干動揺する。


「何故ですか?」


「君は強すぎるので、チームを組んでしまうとそのチームがダントツになってしまう恐れがあります」


 なら、一人でゲームをする事でバランス調整する的な話か。


「だから、俺は一人でゲームをして欲しいってことですか?」

「いや、まあ、それでもいいかもしれないですが、それだとクラスメイトとの距離を縮めるというオリエンテーションの意味がなくなってしまいます。なので1日目、君には僕と一緒に他の生徒と戦って欲しいと考えています」


 他生徒との戦闘できる可能性がある。協力も悪くないがこれはこれで面白そうだ。


「俺は何をするんですか?」

「ゲームの内容はお楽しみなので当日話すことになっているから詳しいことは話せません。しかし、君でも楽しめると思いますよ」

「そうですか」


 俺も楽しめる内容か。なら安心してもいいのかな。


「とりあえず、明日までチームの話は断ってください」


 学生として楽しみたかったが、俺がクラスの輪を乱すことになりかねない。今回は我慢だ。


「わかりました」


 そう返事をして自分の席に戻る。そして俺と入れ替わるようにヒカリがセルビアの元に向かう。


 すれ違い際に


「なんの話でした?」


 と聞かれる。


「ゲームの話。俺にやって欲しいことがあるらしくてそれを頼まれた」

「へぇー。先輩にやって欲しいことですか。それなら私は治療系の仕事でも頼まれるんですかね?」

「治療系なのか」


 支援系と言っていたが、治療系スキルだったとは。


 スキルは条件を変えて子供に遺伝されることが多い。ガヴェンは自分専用治療系なのでその対象が変わった治療系が遺伝しててもおかしくない。


「ゲームできなくなるのは少し残念ですが、先生からのお願いなら仕方ないですね」


 ヒカリは自分の仕事を理解している。だから、ゲームに参加できなくてもいいとすぐに受け入れている。


「先生を待たせているのでそろそろ行きますね」

「ああ。また明日」

「はい明日ですって、先輩帰っちゃうんですか!」


 歩き始めたヒカリは即座に足を止めて振り返る。


「妹を待たせてるからな」

「えー、放課後先輩とダンジョン行けると思ったのにー」

「いや、今からは無理だろ」


 と言って「じゃあ、俺はこれで帰るよ」と言ってクラスから抜け出す。ヒカリは残念そうにしていたが今回は放って帰ることにした。


 教室から出るまでにカイラ含めて何人かに同じように誘われたが「ごめん」とだけ言って昇降口まで走った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る