第17話 合格発表

 転移でギルドに戻ると受付にリラさんがいた。


「お疲れ様です」

「こんにちわ。ユヅキくん。今日は何しに来たのかな?」


 今は昼過ぎ。リラさんは俺がダンジョンに潜っていたことを知らないようだった。変に話すと説教されそうなので言わないでおこう。


「今日は学校に通うことになったので少しの間ギルドに顔出さないかもしれないってことを伝えに来ました」

「そっかー。それは残念だ。毎週ユヅキくんから元気をもらってたけどそれがなくなっちゃうのかー」


 ギルドに年齢を登録しているので今年入学のことに疑問を持つと思っていたが、かなり呆気なくけ受入れられてしまった。

 もっと何か聞かれると思って身構えていただけに肩透かしを食らった気分になる。

 だがまぁ変に詮索されて色々説明しなきゃいけなくなるよりはマシか。


「なんですかそれ。おじさんみたいですよ」

「おじさんって失礼だなー。元気な少年からはその元気をわけてもらうことができるんだよ」


 と訳の分からないことを言って胸を張る。


「そうですか」


 若干、困惑する。そんな俺を見てふふっと笑う。揶揄われてるのかな。


「そんな真に受けなくていいのに」

「はあ」


 俺、そんなに元気だったか?と思うがきっとリラさんには子供だった俺のことが元気な街の少年に見えていたのだろう。若干複雑な気持ちになるが気にしない方がいい話だろう。


「それにしてもユヅキくんも学校に通うのかー。なら、少しアドバイスするね」


 アドバイスか。なんだろう。


「学校はしっかり楽しんだ方がいいよ」


 当たり前だ。青春するために学校に通うんだ。楽しむに決まっている。まだ全然想像できてないけど。


「あっ、でもくれぐれもダンジョン攻略みたいに無茶しないように」


 リラさんは何度でも釘を刺すように言ってくる。


「学校で無茶することなんてないですよ」


 ダンジョンと違い無茶するようなことはないだろう。俺が無茶するくらいの出来事があったら子供への被害などから学校が社会的に危なくなるだろう。だから絶対、そんなことにはならないような警備や配慮がされているだろう。


「じゃあ、時間ができたらまた来ますね」

「うん。お姉さんいつでも待ってるよ」


 と手を振るリラさんの笑顔を見て俺はギルドから家へと戻った。


 家に戻って剣の手入れや腰袋の整理などしながらダラダラと1日を過ごしその日は終わる。


 次の日はアヤと買い物に出かけ、服屋やアクセサリーショップ、魔道具屋などを見ながら、アヤの買いたいものを全て買って回った。久しぶりの買い物だったのでとなんでも買っていいと言ったこともあってかアヤのテンションは終始凄く高かった気がする。


 アヤの笑顔が見れただけでも買い物に行ってよかったと思う。


 そしてその日も終わり今日はもう合格発表日だ。結局、今日も寝れずに早起きしてしまった。合格の可能性が高くても心の奥で緊張していたみたいだな。


「ついに合格発表か」


 合格しているという自信はかなりある。だから大丈夫だ。


 俺がソワソワしながら朝ご飯の準備をしていると


「お兄ちゃん。おはよー」


 眠そうに目を擦りながらアヤがリビングに入ってくる。


「おはよ」

「お兄ちゃん。今日も早いねー」


 そう言いながら椅子に座る。そして、机に伏せて寝てしまう。


「夜ふかしでもしたか」


 適当にご飯を作り終えて、アヤの隣まで行きそう聞いてみる。


「おにぃーちゃんの合格発表日ってこと考えてたら寝れなくてー」


 エヘっと笑うアヤ。完全に寝ぼけている。


「眠いならまだ寝てていいよ」

「やだよー。寝たら合格発表見れなくなっちゃうもーん」


 と足をバタつかせて抗議する。


「なら、ご飯食べる前に顔洗ってきな」

「うん。そうする」


 そう言ってアヤは目を擦りながらゆっくりと部屋から出て行く。


 ちょっとするとアヤが戻ってくる。何故か少し顔が赤気がする。


 アヤが戻って来て丁度ご飯を並べ終えたので


「アヤ、早くご飯食べて行こうぜ」


 と言うと


「う、うん」


 と頷いて椅子まで行って座り、ご飯を食べ始める。


 素早くご飯を食べ終えた俺は軽く準備を、アヤは自分の部屋に戻って着替える。先に戻ったのと元々俺は着替え終わっていて受験票と剣や腰袋の準備だけだったので俺の方が早く準備が終わった。


 アヤを待っている間もなんか心配で早く結果を見に行きたい気分になる。昨日の夜のアヤも同じような気持ちだったんだろうな。


「終わったかー」


 少し長いなと感じた俺はアヤの部屋に聞こえるように大きな声でそう聞いてみる。


「あと少し待ってー!」


 そんな返事が返ってきたので待つことにする。

 それから数分で着替え終えたアヤがリビングにやってくる。白のスカートにピンクのカーディガンと昨日買った服を着ていた。

 めっちゃ可愛い。


「似合ってるぞ」


 そう言ってあげると


「えへへ。そうかな」


 と照れる。


「準備はできたか?」

「うん。もう行けるよ」

「なら、行こうか」


 そう言って俺たちは家から出て学校を目指す。


 学校に着くと既に人が大勢いて張り出されている紙に自分の名前があるか確認している。


「俺は何番だっけ」


 受験票を見て自分の番号を確認し、張り出されている紙を見る。


「俺の番号は」


 そう呟いて張り出されている紙から番号を探し始める。一番最初の番号を確認するとそこに書いてあったのは俺の番号。


 明らかに他とは違う番号なのですぐにわかる。


 自分の番号と紙に書かれた番号を再度確認して、隣にいるアヤの名前を呼ぶ。


「アヤ。確認できたぞ」

「えっとー、お兄ちゃん、どうだった?」


 アヤは心配そうに俺の方を向く。


「合格だったよ」


 そう言うとアヤは安心したようにホッと胸を撫で下ろす。


「よかったー。これでお兄ちゃんと同じ学校に通えるんだ」


 これで一安心だ。


「これから手続きしに行かないといけないけどアヤはどうする?」

「私もついてくよ」


 そう言われたので俺はアヤを連れて受付まで歩く。


 入学手続きをするための受付に着くと後ろから


「せーんぱい!」


 と声をかけられる。先輩呼びの人間は1人しかない。


「ヒカリか」


 振り返るとそこには俺の予想通り制服姿のヒカリがいた。


「先輩。先輩のお陰で合格できましたよ!」


 ヒカリはそう言うが俺は何もしていない。


「自分の実力だろ」

「そんなことないですよ。あの時先輩が私を安心させてくれたから特別試験、上手くできたんですから!」

「そうか。なら良かった」

「はい!えっと、ところで隣にいるその女の子誰ですか?」


 ヒカリを見た瞬間、後ろ隠れたアヤを見て不思議そうな顔をしている。


「あぁ、この子は、俺の妹のアヤだよ」

「先輩の妹さんですか」


 そう言うとヒカリはアヤの前に立ちアヤの顔の高さに合わせて腰を落とす。


「私はヒカリです。よろしくお願いしますね」


 そう言って微笑むヒカリに、


「よ、よろしくお願いします」


 とアヤもおずおずと顔を出して挨拶をする。


 アヤは年上相手だとどうしても警戒してしまう。だが、ヒカリの自己紹介がありもうそれもなくなり前に出る。


「私はお兄ちゃんの妹のアヤ・アルメトです。よろしくお願いします」


 アヤはそう言って頭を下げる。


「アヤちゃんって言うんだ! 可愛い名前だね」


 とヒカリはアヤに微笑む。アヤは可愛いと言われて照れている。その間にヒカリは俺に向き直り、


「先輩、今日この後空いていますか?」


 と聞いてくる。


 何かあったか考えてみる。今日はアヤと俺の合格祝いをする予定がある。今日は無理だ。


「すまん。空いてない」


 そう返すと


「えー。先輩とダンジョン攻略したかったのにー」


 不満そうに返答してくる。


「まあ、多分これから一緒にいる時間が増えるんだ。今すぐじゃなくて少しずつ楽しんでいこう」


 そうなだめると


「そうですね!なら、来週お願いします」


 と切り替えて頭を下げる。来週か。すっごいせっかちだな。

 入学後どうなるかわからないのでとりあえず誤魔化すように


「入学してからな」


 と言っておく。そして、下手に日にちを決められないように


「じゃあ、俺は手続きがあるからまた」


 と俺は受付に向かう。アヤはヒカリにペコリとお辞儀をして俺についてくる。


「また学校で会いましょうね!」


 アヤは手を振って俺を見届けていた。入学手続きはすぐに終わり俺たちは家に帰ることにする。校門まで歩くと門の中央でリフィアが待っていた。


「合格おめでとうございます」

「リフィアか。ありがと」

「あの、この人は?」


 アヤは隠れる前にそう聞いてくる。


「この人はリフィア。俺が入試を受けられるようにしてくれた人だよ」


 と説明すると


「あ、そうなの!」


 と驚く。そしてリフィアの方を向くと


「あの、ありがとうございます」


 と大きく頭を下げる。


「いえいえ、あなたのお兄さんのお陰で今の私があるのでこれくらいは当然ですよ」


 とアヤを見て微笑む。


「それでもありがとな」


 俺は改めて礼を言う。リフィアには感謝しかない。彼女がいなければ学校に通うことなんて一生できなかったのだから。


 リフィアはそんな俺の言葉を聞いて照れ臭そうに笑う。そして俺の方を向いて


「これからは一学生としてよろしくお願いします」


 と言った。俺は大きくうなずく。


 それから俺たちはリフィアと別れる。


「さあ、帰ってご飯を食べようぜ」


 そう言って俺たちは家に帰った。


 学校があって友達がいる。そんな時間を俺はこれから過ごすことができる。


 ここから俺の学園生活が始まる。

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