第16話 vs40層のボス(後半)
大蛇はそのまま倒れる。
脱皮がくる。
倒れた大蛇の皮が剥けると首と腹の傷が回復していく。全て回復すると大蛇は起き上がり大きな鳴き声を上げた。
「ナイガそのまま目に向かって残りを放ってくくれ」
俺はそう言いながら先程放った鉄を頭上に集め、
『鉄の雨』
と言う呟きと共に大蛇の目元に向かって一斉に放つ。ナイガも俺に言われた通りエネルギー弾を放つ。
大蛇が鳴き止み動き出そうとした直後にその目元にエネルギー弾と鉄が命中し、大蛇は暴れ出す。
上手く言った。後は大蛇が暴れるのを避けながら攻撃すれば勝てる。
そう思った瞬間、俺の全身が動かなくなった。大蛇の能力による硬直。緊張ではない。今、俺は奴に見られて動けなくなっている。
目を潰せなかった。やばい。逃げろ。
そう他のメンバーに言いたかったが声を発することができない。
それに気がづくこともなくガヴェンは最後の攻撃をする為に大蛇に近づく。ガヴェンは攻撃を仕掛けようとするが、大蛇が軽く尻尾を振っただけで一瞬で吹き飛ばされる。それだけの攻撃だったがガヴェンはそのまま動けないほど強く壁に叩きつけられた。
俺の目で捉えるのがギリギリな速さ。
それが脱皮後の大蛇のスピード。
しくった。
大蛇に見られているスキルも使えないし動けない。大蛇は物凄いスピードでナイガと俺の元に向かってくる。
止められない。
そう思ったがそんな大蛇の背後にキンドが刀を持ち迫る。
「アイツらのところには行かせない」
そう言って大蛇の背中に切り込みを入れる。しかし、そんなにダメージは入らない。
大蛇はキンドを捉えると思いっきり尻尾を叩きつける。一瞬で大盾に変えるが防ぎきれずそのまま地面に倒れる。
そして、再びナイガを狙う。そんな大蛇の顔にエネルギー弾が命中する。
ナイガは大蛇がキンドを狙っている間にエネルギーを溜めており、大蛇が狙いを戻す前に放っていた。
溜める時間が殆どなくダメージは入らなかったが、時間稼ぎにはなった。
後は俺が。
大蛇がキンドを狙っている間に、大蛇に向かって走りナイガから距離を取る。まあ、殆ど時間がなかったので視界に入ってしまい動けなくなるが、ナイガがエネルギー弾を放った瞬間に再び動けるようになったので大蛇の背後まで走り抜ける。
エネルギー弾を受けて大蛇狙いはナイガに向いている。ナイガから離れた今、俺は大蛇の視界には入らない。
「ありがとう」
そう呟いて俺は走りながら意識を集中させて無数の溶岩を生成する。
『凝熱岩』
俺のスキルは小さなものであればなんでも生み出せる。ただし、ものによって消費する体力が変わる。この溶岩の温度は数千℃。下手に扱うことのできないものであり創造と操作どちらにおいてもかなりの体力を消費する。
念の為、砂を纏い視界に入っても動けなくならないようにしたが、大蛇に気づかれることなく背後までたどり着いた俺は勢いを殺すことなく大蛇に向けて跳ぶと大蛇がナイガに辿り着く前に生み出した溶岩を一斉に放つ。
大蛇は溶岩を防ぐことができずに全身を焼き貫かれその場で悶え苦しみ出す。
脱皮がないので再生をすることはないが、生命力が高くまだ殺しきれていない。
悶えながらも大蛇は振り返り、毒を吐き俺を見て俺の動きを止めてくる。ナイガは溜めが必要なスキルなのでこのままじゃ仕留めきれない。
だから最後はお前が決めろ!
俺が頭の中でそう呟くと大きな剣を持った男が大蛇の背中を登って行くのが見える。ガヴェンだ。
ガヴェンは不死身。俺たちが各自の攻撃で時間をかけている間に回復し戻ってきた。
ガヴェンは大蛇の頭まで登ると
「これで終わりだ!」
と叫んで大剣を振り下ろし大蛇の頭を切り裂いた。
頭を切り裂かれた大蛇はその場で少し暴れたが直ぐに力尽きてその場に倒れる。ガヴェンは大蛇の頭の上に乗っていたが、大蛇が暴れたことで地面に落ちて尻餅をついていた。
大蛇を倒したことで動けるようになった俺は周りを見る。ナイガ、ガヴェンは無事。
ガヴェンは大蛇から落ちた程度じゃ死ぬわけないので放っておいて、キンドを確認しなければ。
キンドが飛ばされた方を見るとキンドはその場で座っていた。無傷とはいかないが無事そうだ。
「お疲れ」
ナイガがこちらに歩いてくる。
「お疲れ様です」
俺はナイガを待ってから、一緒にキンドの元まで歩いて行く。
「いやー、目。破壊できなかったねー」
「すみません。少し急ぎすぎました」
あの時、半分半分にしないでもっと溜めてから打てば目を破壊できたかもしれない。
40層程度と甘く見てしまっていたか。
「まあ、その後のイレギュラーに対応してくれたから勝てたわけだし、結果オーライだね」
「ガヴェン、キンド、ナイガが俺が動く隙を作ってくれたから勝てたんですよ」
「ユヅキくんがいなければ脱皮すらさせられてないし、最後の攻撃で弱らせることもできなかった。そうだよね。キンド」
と言いながらナイガは輝石をキンドに投げる。
「ああ。ユヅキ、助かった」
キンドはそう言いながら輝石を使って回復し立ち上がる。
「キンドもナイス刀攻撃」
「あまり意味なかったけどな」
「いや、あれが無ければ隙を作れず負けていた。意味はかなりあった」
そう言うと
「ならよかった」
と僅かに笑った。そんな俺たちのところに
「おいおい。俺を忘れるなよ。最後の一撃を決めたMVPだぞ」
と歩いてくる。
「あの大剣、わざわざ刀から大剣に変化させて渡したのはキンドのだし、大蛇を弱らせたのはユヅキくんだし、ガヴェンはいいとこ取りしただけじゃないのかい?」
かなり冷たいことを言うなー。事実だけど。
「うっ。だけど俺がいなきゃ!」
なんかガヴェンがムキになりそうだったが、
「嘘嘘。あそこで立てたのはガヴェンだけだったからね。ナイスファイトだよ。お疲れ」
と笑いながら返したことで落ち着く。
全員40歳くらいなのに子供っぽい。なんか一緒に戦ってた時と変わらないな。
「ガヴェンもお疲れ様。それじゃあ、ボスは倒したし俺はギルドに戻るよ」
「もう戻るのか」
「特に41層でやることもないし、41層なら3人でも余裕だよ」
「そうか。なら、俺たちはそんなに装備とかダメージ受けてないから41層を見てから戻る。それでいいよな?」
「いいよ」「ああ」
ここで別れか。久しぶりだったが楽しかった。後は3人で頑張ってもらおう。
「卒業までこのダンジョンは潜らないつもりか?」
ガヴェンがそう聞いてくる。
「多分。授業や友達と潜るってなる以外は基本潜らないと思う」
「そっか。なら、卒業したらもう一度、一緒に攻略しような」
と手を前に出す。
「ああ。またな」
そう言って手を握った。
「次は50層。いや、3年だから最深部ボス戦の手伝いかな?」
ナイガがそう言ってくる。3年。キンドならそれだけ有れば最深層まで辿り着けそうだな。
「最深層か。なら、それまでに学校で色々学んで俺も強くならないとだな」
ガヴェンたちは俺がミナーヴァをどれだけ攻略したのか、ミナーヴァがどれくらいの層でできているのか知らない。それに...。
「最深層に通用するよう鍛えておけよ」
ガヴェンがそう言うと
「ガヴェン。鍛えるのは俺たちだ」
とキンドが突っ込んで、
「そうだねーw」
と笑いながらナイガが返した。
「じゃあ、また」
そう言って転移の魔道具を使う。
「じゃあねー」
と言うナイガの声。
「学校楽しめよ」
というキンドの声。
「ヒカリを頼んだ。あ、頼んだって言っても娘に手を出したらお前でも許さんからな。学校での話はいつでもヒカリから聞くから変なことするなよ」
というふざけたガヴェンの声。
それを聞いて俺はギルドまで転移した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます