第14話 朝のギルド

 次の日、俺は昼寝や普段より早く寝たためか朝早くに目が覚める。


 すぐに着替えてリビングに向かう。

 アヤの姿はない。まだ寝てるみたいだな。


 それからアヤを起こさないように静かに身支度を整えて家から出て行く。ギルドに行くだけでも緊急で依頼を受けるとかもしれないので、剣や腰袋はしていく。


 今日の予定はギルドに行ってしばらくの間ダンジョンに潜らないことを伝えて帰る。ダンジョン攻略を辞めてもほぼ毎日のようにギルドに顔出していたので顔を出さない日が多いと心配されてしまう可能性がある。一応、伝えておかなきゃいけない。


 ギルドに着いたが朝早すぎて殆ど人がいなかった。いつも担当してくれているリラさんもいないので待つしかない。


 とりあえず、時間を潰すために依頼を見に行く。


 鉱石系、魔物討伐系、救助や探索系。さまざまな依頼がある。


 朝早いから殆ど全ての依頼があるんじゃないかと思うくらいに多い。


 簡単にこなせる物なら待っている間にこなしてしまおうかなと考えていると隣に3人の男がやってくる。


 おっさん。3人。全員見覚えがある。1人は昨日見たことある奴。


「ガヴェンたちか」


 1人は昨日話しかけてきたガヴェン。残り2人はキンドとナイガ。ガヴェンとパーティを組んでいる人でガヴェンとパーティを組んだ時はいつもいた。


 キンドは少しゴツい大剣を使う剣士。ナイガはサポート兼遠距離攻撃をする。


「久しぶり」


 とナイガがガヴェンの隣から顔を出して手を振ってくる。キンドは一言、


「久しぶりだな」


 とだけ呟く。俺も


「久しぶり」


 と返す。


「ユヅキがこんな朝早くにギルドにいるなんて珍しいな」


 とガヴェンがそう言う。


 昔はずっとダンジョンに潜っていたので朝ギルドにいることは珍しかったし、最近も昼頃からダンジョンに潜っているので朝ガヴェンと会うことは少なかった。


「昨日寝過ぎた」

「昨日って。あっ、そういえば昨日のリョクオー学園の入試にいたみたいだな。ヒカリがユヅキに会えたこと嬉しそうに離してくれたわ」

「ああ」

「大変だったんだってな。教師との対決があったとか。まあ、ユヅキなら余裕だっただろうけど」


 ヒカリ、昨日のことしっかり話してたのか。親子仲良いみたいだな。


「そうでもなかったよ。試験官の男、元ダンジョン攻略者でそれなりの実力者だった」

「へー、元ダンジョン攻略者が相手か。レベル高いな」

「俺だけ特別にな」

「ほえー、でも、どうして試験を受けていたんだ?」


 一つ歳が違う。通常なら受験資格のない俺があの場にいるのは不自然。変に嘘をついていてもヒカリからすぐに筒抜けになってしまうので事実を伝える。


「前に話したあの時、ガヴェンには学校に通っているって言ったけど、それは嘘で本当はダンジョン攻略の実績から特例で今年受験を受けられるようにしてもらっていたからそれまでの間、学校に通うための勉強をしていたんだ」


 最後の方は嘘だが特に問題ないだろう。それにこの説明の方が説得力があるはずだ。


「はー。そういうことだったのかー」


 とガヴェンが納得しているのと同時にナイガは


「えっ、ユヅキくん。学生だったの!?」


 と驚く。一番奥にいるキンドはどうでも良さげで何も言ってこない。


「ああ。言ってなかったな。一応、歳は16だよ」


 昔、色々あってダンジョン攻略者には敬語を使わなくなってしまった。年上とかじゃなく実力が全ての世界。そんな上下関係などないと今は考えている。


「そうなんだ。学校を卒業してダンジョン攻略しているのかと思ってたよ。すごいなー。キンドもそう思うよね」

「ダンジョン攻略に学校卒業や年齢はあまり関係ない。実力が全てだ」


 流石ストイックキンド。いいこと言うな。

 戦えればそれでいいのがダンジョン攻略者だ。学校に行ってなくても現地で覚えることができる。それをどう活かすかで強さは変わる。年齢とか学歴じゃ測れない世界なんだ。


「だが、お前の年齢であそこまでできる奴は殆どいない。だから、お前は凄いんじゃないか?」


 キンドはそう続けて言った。


 キンドさん。あまり口数が多くないから、心情とか考えてることがわかりづらいけどいい人なんだよな。


「ありがとうございます」


 少し照れ臭くて思わず敬語になってしまった。そんな俺のことは気にせず横からガヴェンが


「今年入学ってことはヒカリと同じ学年か?」


 と聞いてくる。


「それはわからないな。歳的に2年生の可能性も考えられる」

「そっかー。まあ、学年が違くても一緒の学校ではあるだろ? 仲良くしてやってくれよ」


 ガヴェン娘は今のところ俺の数少ない話せる相手だ。慣れない学校生活を少しでもより良いものにしたいのでヒカリと仲良くしない理由はない。


 なので


「わかってる」


 と普通にそう返す。


「でまた話は変わるけど何しにギルドに来たんだ?」


 ガヴェンがそう聞いてくる。


「俺は顔出せなくなると思うからそれを伝えに。ガヴェンは?」

「俺はこいつらと攻略するからその前に俺たちが攻略しようとしている階の依頼があるかの確認をしにきたんだよ」


 ガヴェンは後ろの2人を指差してそう答える。

 攻略しようとしている階層。何処ら辺なのだろうか。


「今、何階を攻略しているんだ?」

「今は40だな」


 40か。かなり攻略が進んでいるな。俺は30階でガヴェンたちのパーティを抜け、そのあとはソロだったり、別の人とパーティを組んだりしながら下層を攻略していった。


 前にガヴェンたちに会った際に、40階を攻略したことは伝えたのでガヴェンたちは別れた後の俺の実力をある程度知っている。


「ならもうボスか?」


 ボスとは階層ヌシのことで5階や10階など区切りの良い階層に出現することが多い魔物だ。


 それまでの魔物よりも強く多くのダンジョン攻略者を苦しめる存在で強い代わりに魔道具を落としてくれる確率が高くなっている。


 誰かが倒すと一度消えるが一定期間後に復活してしまう。普通のダンジョンならその期間が一ヶ月や一年と長い為、一度倒されたら他の人も次の階層に行くことができるが、神格ダンジョンは一日で復活してしまう。その為、殆どの人が一度倒さなければいけない魔物となっている。


 一度倒せば次の階層の《転移》の円盤を更新できるようになるのでスルーできるので何度も再戦する必要はない。


「ボスにはもう何回か挑んだ」

「でも41に降りてないってことはまだ倒せてないのか」

「ああ。そうだ。何度か挑んだがあれにはまだ勝ててない」


 40階のボス。確か、蛇だった気がする。確か、ガヴェンのスキルならあの蛇と相性良かったと思うが。


「あれの攻略方法とかって知ってるか?」

「うーん。攻略法かー。俺が戦った時は攻略法ガン無視みたいな。ごり押しだったんだよな」


 俺が戦った時は相手の行動無視して砂で撹乱し、特殊攻撃が来る前に一撃で仕留めた。それができるのなら勝てる。


「そっかー。その時のゴリ押しするとなるとやっぱり3人じゃきついか?」

「一応、攻略前に全攻撃パターン把握したけど、ちゃんと攻撃パターンを知ってれば楽に、とまでは言わないが勝てる魔物だった筈だ。3人でもゴリ押しはできると思う」

「そうなのか?」

「ああ。まぁ、でもかなりギリギリだけど」


 魔物の範囲攻撃を無効にできる人間がいれば確実に倒せると思うが、ガヴェンたちの中にそれができる人間はいない。その為、俺の時より難易度が上がる。


 ガヴェンは少し悩んで答えを出す。


「なら、攻撃パターンを聞いて一度だけ挑んでみるか?」


 ガヴェンは他の2人と相談を始める。それに2人ともすんなり了承する。


「今日これから行く気か?」

「あー、どうしようかな」


 俺は今日予定がない。どうせ暇なら手伝うって言うのも悪くない。試験でストレスが多少なりとも溜まったのでダンジョン内で身体を動かしたいし。


「もし今日行くなら俺もついていこうか」

「ユヅキも一緒に戦ってくれるのか?」


 ガヴェンは少し意外そうな顔をした。


「そっちが良ければな」

「それだったらついて来てほしい。あっ、でも、今はダンジョン攻略を休んでるって言ってなかったか?」


 確か前会った時にダンジョン攻略は控えてるとか言ってた気がする。その時なんて言ったか忘れたがここで一部訂正しておいた方がいいだろう。


「ああ。言った気がするな。けど、今ダンジョン攻略を控えているだけでダンジョンの依頼とかで潜ってるから気にしなくていいよ」

「そっか。なら同行お願いするよ。2人ともいいだろ?」


 ガヴェンがそう聞くとナイガは笑顔で、キンドは腕を組みながら


「ああ」「問題ない」


 と同意する。


 久々にガヴェンたちとダンジョンに潜る。ガヴェンたちとのダンジョン攻略はどのパーティよりも楽しかったので今回も楽しみだ。


「2人ともOKみたいだからユヅキ頼む」

「了解だ。早速だが準備はできているか?」

「俺たちは勿論準備万端だ」


 ガヴェンたちの方を確認するとガヴェンは鎧を着てるし、他2人もしっかりと武器を持ち魔道具を身につけている。依頼を受けてすぐダンジョンに潜るのだから準備できてるのは当然か。


「ユヅキはどうなんだ?」

「俺も準備万全だよ」


 剣とコート。いつも通り。念の為に装備を整えて来て良かった。


「あー。そういえば、お前はいつも軽装だっけ」

「そうだよ。俺は動きやすさ重視だからな」


 最悪当たらなければ防具なんていらないし、スキルがあれば剣などいらない。もうこれ以上の装備はいらない。


「全員準備OKと...。なら早速40層に行くか」

「おおう」


 そう言って俺たちはギルドから出る。俺はギルドから出てすぐにダンジョンに向かうために


「じゃあ、これで転移するぞ。」


 と腕を捲り転移の魔道具を見せる。


「まさか、それ、使い切りじゃない転移の魔道具か!?」


 ガヴェンたちはミナーヴァの優秀なダンジョン攻略者。見ただけで使い切りではない転移の魔道具だと理解する。俺の腕を凝視しかなり驚いているけど。


「そうだよ。あまり人に見られるのは嫌だし、さっさと行くぞ」


 俺、一人なら少し人目を避ければあまり注目されずに使えるが、4人だと流石に街の中だとどこでも注目される。幸い朝早く、今はあまり人がいない。タイミングを測れば注目されることなく使えそうだ。


 そして、今がそのタイミング。近くに人1人もいない。


「さっ、転移するから俺の肩を触ってくれ」

「お、おう」


 そう言ってガヴェンが俺の肩を触り、ナイガとキンドも続いて肩に触る。


 3人の手が触れたことを感じて目を瞑り、40層を想像して


「行くぞ」


 と呟くと、俺たちは40層ボス前へと転移した。

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