第12話 気になる戦い

「光も暇か。しょうがないから、目の前の試合を見ようぜ。人の試合を見ることで学べることもあるから何もしないよりは有意義な時間になるはずだよ」

「おお。流石は先輩です。時間を無駄にせず常に戦いのことを考える。これが先輩の強さの秘密なんですね」


 単純に暇潰しをしようと思っているだけだが、人によってはそう捉えるか。常に戦いのことを考えているってなんか戦闘狂っぽいな。


 適当に話しながら前で戦っている人達を見る。


 色々なスキルがぶつかり合っていて見ているだけでも楽しい。


 大勢の人たちの試合を見ていると、一試合だけ異様に目立つ試合を発見する。


「先輩。あれ、凄いですね」


 ヒカリが指を指す方向は俺の目に止まった試合と同じ方向。気になったのは同じ試合だ。


 その試合で戦っているのは炎を操る少年と透明な盾で炎を防いでいる少年だった。


 それだけ聞くと別にそんなに目立つようなものではない。


 攻守がはっきりしている試合。


 炎を操る少年の放つ炎は容赦なく最大であろう高火力を連発している。その炎は一瞬で人を消し炭にすることができるレベルである。


 多分、炎を生み出す力だろう。属性系のスキルはシンプルだが、それ故に小細工なしに強力である。だから炎使いが有利であるように見える。


 だがそれは違う。


 最大火力のスキルを連発するというのは魔力の消費が半端じゃないのでやろうと思って出来る人は少なくない。確かに目の前の少年は威力も回数も他よりも優れている。しかし、体力の限界が来ているのが呼吸や額の汗から現れ始めている。このままだとすぐに疲れて撃たなくなるだろう。


「あの試合、どちらが勝つと思う?」


 ヒカリが何を凄いと感じたのか知りたくなり質問を投げる。


「防御側でしょうか」


 流石はガヴェンの娘だな。見る目がある。


「どうして?」

「炎の人の攻撃は凄いです。私だったら一瞬でやられてしまいます。でも、それ以上にその攻撃を防いでいる障壁の人の方が上手くスキルを使えていると感じたので」


 スキルの練度。これに関しては自分のスキルの練度が一定以上ないと気が付かないもの。これに気付けたということはヒカリの実力はかなりのものだと想像できる。


 俺が最初に気になったのも障壁の少年のスキルの使い方だ。


 全てを焼き尽くさんとばかりの威力の炎を全て薄い膜のような盾で防ぎきっている。普通だったらまず破壊される。破壊されずに防げているのは使用者が炎の当たる場所それぞれで威力が変わってくることを知っていて威力の高い場所を中心に強度を変えているためである。15でそんな繊細なことができる実力。只者じゃない。


「もうじき試合が終わるな」


 炎使いの少年は炎を放つほどにその威力が弱まっていく。そしてついさっき放たれた炎は先程のような最大火力ではなく弱々しく今にも消えそうになっていた。


 そもそもスキルを発動する為には体を動かす時のように体力が必要になる。そして勿論体力は無限ではない。炎を操る少年は最初から飛ばしすぎて体力の消耗が激しかった。長距離走を最初から全力で走る感じ。


 大体の人間なら最初の一撃で勝負が決まるが障壁のやつは違う。


 障壁の少年は的確なスキルの使い方によって負担を軽減し、効率の良い体力の消費で強度の高い障壁を生み出すことができていた。これを行い守りに徹することで長時間の戦闘になる。今回は炎の少年が相手を見誤ったって感じだな。


 相手のスキルによって戦い方が大きく変わる。

 一撃目のスキルは警戒し使い所を考えなければいけない理由がよくわかる。


 少年は炎の威力が落ちてしまったがそれでも諦めずに炎を放ち続ける。もう一人はさっさと試合を終わらせるためか、さっきまで一歩も動かず守りに徹していたその場から炎を放つ少年に向かって一歩ずつ進み始める。弱々しい炎を簡単に防ぎ、あっという間に目の前に立つと炎使いの少年に何かを囁き、その直後、炎使いの少年が降参する形で試合は終わった。


 最後は一方的な試合になってしまい俺は言葉が出なかった。


 少し甘く見ていた。あんな凄い技術を持った人間が一個下にいるなんて思ってもいなかった。


 流石に今の自分が負けることはないがダンジョン攻略者になる前であんなことができる人間だ。ダンジョン攻略を始めたらかなりの実力者として名を馳せ、もしかしたらいつか負けるかもしれない。


「試験って、あんなに凄い人が沢山いるんですかね?」


 少し弱気になったヒカリがそう聞いてくる。


 あんな試合を見せられてしまっては自分が受かるのか心配になってもおかしくない。


「あれは例外だな。あの歳であそこまでスキルを扱える人はそうそういないと思う」


 あのレベルが大勢いるのならもっと多くの人間がダンジョン制覇をしている筈だ。


「心配なら他も見てみればいいよ」


 そう言ってヒカリは周りを見渡して他の試合も見てみる。他のどの試合を見てもあの障壁の少年程の実力者はない。あの少年1人が別格だった。


「あれがトップか」


 多分、近いうちにあの少年と授業内で戦うことになる。その時はどんな戦いをしようかなと考えながら俺は時間を潰すために他の試合を眺めていた。

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