第11話 知り合い?

 セルビアが俺の勝利を口にすると周りから歓声が聞こえる。いつの間にか俺たちを囲むように人が集まっていたようだ。


 あの攻撃範囲に人がいなくてよかったと少し安心する。


「スゲェー。なんだよ。あの試合。レベル高すぎだろ」

「アイツと当たって勝てる気がしない」

「おい、あの受験者の試合相手、試験官だぞ」

「カッコいい」

「あいつとは当たりたくないなー」


 などいろいろな声が聞こえてくる。


 普段されることのない歓声に俺は恥ずかしさを感じ、注目されるのが嫌でその場から早く離れる為に次の指示を聞く。


「この次はどうすればいいんですか?」

「あー。ユヅキくんは僕に勝てたからもうここではやることないですね。皆が終わるまで少し待ってください」


 セルビアは俺がちょっと周りに視線を向けていた間に気持ちを整えて最初と同じ態度に戻っていた。流石先生。冷静だと感心する。


 セルビアからバッグを返してもらい腰に身に付けて、 


「わかりました」


 と返事をする。


「僕は今の試合のことを記録しに行くからここを離れますが、体に問題があったら近くの先生に声をかけてください」


 まだ少し心配しているのかセルビアはそう言い残して歩いて行ってしまった。


 セルビアが歩いて行った後、生徒も次の試合の為か殆どいなくなっていた。


 一人になり暇な時間ができてしまったので、先程までいた邪魔にならない場所に向かおうと剣を戻しに向かった。すると、背中を誰かにトントンと叩かれた。


「あの、もしかしてユヅキ・アルメトさんですか?」


 振り返るとそこには見たことのないツインテールの俺よりも少し小さな可愛い少女がいた。


 なんで俺の名前を知っているのか?

 と思い少しだけ警戒する。


「そうだけど、君は...?」

「えっと、私、お父さんのガヴェンの娘でヒカリって言います!」


 ガヴェンの娘。


 前に会った時に同じくらいの娘がいると言っていたが、それが目の前の少女のようだ。


 ガヴェンのガタイのいい体からとは全く似つかない華奢で可愛らしい見た目の少女。本当にガヴェンの娘なのかと疑いたくなる。


「お父さんから、一緒に戦っている私と同じくらいの歳なのにお父さんよりも強いダンジョン攻略者がいるって聞いていたんですよ。それでいつか会いたいと思っていたんですけど...、こんなところで会えるなんて」


 ヒカリは目を輝かせて話してくる。会えて嬉しいのか少し興奮気味だった。


「そっか。でもよく、俺だってわかったね」


 会った事がないので見ただけでは俺がガヴェンの言うダンジョン攻略者だとわからないと思うが。


「黒コートの砂使い。高い身体能力とその動きについていける剣技。さっきの試合で見たものがお父さんが話していた内容と同じだったので」


 さっきの試合はセルビアの最後の一撃のせいでかなり注目されていた。最後にユヅキって名前を発していた。事前に俺の見た目と名前を聞いていればすぐにわかってもおかしくない。


「そ、そっか」


 何も返す言葉が見つからなかったので返答に困る。


「でも、何でこんなところにユヅキさんが?」


 そう思うのも無理もない。ダンジョン攻略者になる為に通う学校の試験にダンジョン攻略者がいるのは少しおかしな話だ。


 首を傾げているヒカリに素直に理由を答える。


「君と同じで単純にここに受験しに来たんだよ」

「受験しに?ユヅキさんってダンジョン攻略者ですよね。それにユヅキさんは16歳って聞いたんですけど、16歳ならもう入学しているのでは?」


 結構はっきりというな。まあ、そう思うのも無理もないけど。実際にここにいることは普通だったらおかしいし。


「色々あってな」


 言いたくないわけではないが信じてもらえないだろうし、話すと少し長くなるので濁す。


「そうですか。えっと、では、これ以上は聞かないようにします」


 聞いてはいけないことを聞いてしまったと思いヒカリはそれ以上何も聞かない。なんだか暗い雰囲気になってしまったので話題を振る。


「そういえば、名前、なんて呼べばいい?」

「そんなのなんでもいいですよ?」

「ガヴェン娘…は嫌だよな。」


 ヒカリが嫌だと言うのがもろにわかるくらい首を大きく横に降っていたのでそれはやめる。勿論断られるのはわかっていたの元々決めていた呼び方にする。


「冗談だよ。普通にヒカリでいいか?」

「まあ、それでいいですよ」


 無難な呼び名だったのですんなりと了承せず少し悩んでギリギリ納得したようだった。


「俺のことは今みたいにユヅキでもいいし、他の呼び方でも好きに呼んでくれていいよ。」


 それを聞くとヒカリは少し考え込んで、はっと何かを思いついたのか笑顔になる。しかし、何か問題があったのかまた考え込む。


「何でもいいんだけど。俺は別に呼び方で怒ったりしない。」

「なら、お兄ちゃんで」


 ヒカリは速攻そう返答してくる。


 さっきガヴェン娘なんていう冗談を言ったから、その仕返しだろう。


「妹がいるからそれはやめてほしいな」


 アヤ以外にお兄ちゃんとは言わせない。


「えっと、そうなんですね、じゃ、じゃあ」


 ヒカリは冗談にしてはやけに残念がっているように見え、他の案を必死に考えていた。ヒカリは少しの間下を向き考えていると何かを閃いたのか顔を上げ、


「そうだ、先輩。先輩っていうのはダメですか?」


 と聞いてくる。


「先輩?」


 どうしてそうなったのかわからず聞き返してしまう。俺が聞き返したので怒ったと思ったヒカリは慌てて理由を説明する。


「あ、えっと、ダンジョン攻略者としての先輩ですし、多分ユヅキさん、受かったら二学年に行くかもしれないので。あ、あと呼びやすいので!」


 ヒカリは必死に色々説明をする。理由は特におかしくないし、別に嫌じゃない。寧ろ訳わからない呼び名やお兄ちゃん呼びよりは全然いいので、


「まあ、別に構わないよ」


 と返しておく。


「ありがとうございます。先輩!」


 と笑顔でそう言われると少しだけ自分も嬉しくなった。


「次の試合はいいのか?」

「それなら、もう私の試合は終わりましたから大丈夫ですよ。」


 俺が一試合やっている間に三試合も終わらせたのか。あの短時間で三試合を終わらせるなんて。流石はガヴェンの娘だな。


 と感心しているとすぐに俺の考えていることを察して、


「先輩が今、思っているように三試合も一瞬で終わらせた訳ではないですよ。私はスキルが攻撃系のスキルではなく支援系なのでこの試験は少し免除されていて戦う試合数が少なくて1試合でいいだけですよ。その試合もお父さんから教わった護身術で一瞬で勝利したので今は暇って感じですね」


 と付け足してくる。


 リョクオー学園の入試はスキルによって試験が変わる。この試験は基本対人スキルが有利なテスト内容。支援系のスキル持ちはどうしても落ちやすくなってしまう。


 これだと優秀な支援スキルが落ちてしまうため、それを防ぐために事前にスキルが支援系の場合、対人試験免除してもらえるのだ。


 まあ、その代わり枠は少ないし、対人試験の後に別途試験がある。支援系のスキルも重要だが1人でダンジョンを生き抜ける人間をこの学校は欲しているので、支援系は支援系で大変である。


「この試験が終わった後、支援系のスキルの試験があって終わりです」

「へー。なら、今は暇なのか」

「暇ですね。なので先輩の次の試合をみようかなと思っています」

「残念だったな。さっき、試験官を倒したからここの試験はもう終わりだって言われたよ。だから俺も暇人だ」


 そう言うとヒカリは見るからに残念そうに肩を落とす。


「えー、先輩の試合見たかったです」

「一個前の試合は見たんだろ。あれで十分だろ」

「いえいえ、あれは遠くからだったのでよく見えませんでしたし、先輩かどうかわからなかったのでノーカウントです!」


 ヒカリはさっきまでいじけていたのにいきなり顔を上げてはっきりとそう言って断言する。


「まあ、入学したら見れるだろ。その時まで楽しみにしてな」


 と慰める。するとヒカリは更に明るくなって嬉しそうに笑顔になる。


「そうですよ!いつでも見れるようになるんですよね!」


 そんなに見たいか。


「まあ、いつでもではないけど。そんなに見たいなら今度一緒にダンジョン攻略してもいいよ」

「本当ですか!やった!」


 とヒカリは飛び跳ねて喜んだ。

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