第10話 vs元ダンジョン攻略者

 駆け出した俺はセルビアの前まで一直線に走り剣を振り落とす。セルビアその攻撃を剣で受け止め、お互いに剣を弾いて後ろに下がる。


 対人戦闘の場合、相手のスキルがわからないため初めは相手のスキルを探ることが必要となる。スキルは自分たちだけが持つ最強の武器。相手のスキル次第で対処の仕方、動き方が変わる。


 逆にいえば、スキルを使った一撃目、それが一番相手を追い詰めることのできる手となる。


 守りと攻め、どちらにとっても最大の注意が必要な序盤は常に警戒し、隙を見せないことが重要になる。


 それを理解していて様子見をするためにお互いがわざとスキルを使わずにに攻撃をした。


 そんな感じだ。


 地面に足がつくと休むことなく突進し、勢いに任せて剣を振る。その攻撃も受け止められるが俺の方がワンテンポ早かった為、セルビアを軽く飛ばすことに成功する。


 速さは俺の方が速い。

 力の強さは...同等ってところか。


 同等の強さなら力の押し付け合いでは体力が鍵になる。だとしたら、俺が有利。


 手加減されていたのなら話は別だが、今の相手の剣技だけなら負けることはない。


 なら、今注意するべきはスキルのみ。


 軽く飛ばされたセルビアが動き出す前に攻撃を入れる。またしても受けきれずに飛ばされ体勢を崩す。


 後、2、3撃入れれば俺の勝てる。


 そんな状況であるのにもかかわらずセルビアの表情に焦りはなかった。


 体勢を崩したセルビアはそのままの状況で剣を大きく振りかざす。俺との距離は少し空いているため、その剣は当たることはないし、その剣で何かを防ぐことはできない。その動きに俺は違和感を覚える。


 焦りが見えないのに何故、先走って剣を振ったのか。

 剣を振った直後は剣を戻す為に多少攻撃防御の動きが止まる。つまり隙が生まれる。だが、実力のあるものが無闇やたらに隙を作ることはない。


 だとしたら、


(スキルがくる)


 直感でそう感じた俺は攻めるのをやめて軽く後退する。セルビアが大きく剣を振り下ろすと全身の危険を感じて振り下ろした剣の直線上から離れる。


 その直後、腕に何かが横を通り過ぎるような風の動き感じがした。風を感じたそこには何もない。そして後方を確認しても何もない。


 セルビアは俺が周囲を確認している間に体勢を立て直すと、


「よく避けましたね」


 と呟いた。


 やはり何かを飛ばしたようだ。

 遠距離系のスキル?接近では不利か?

 まだわからないが視覚できないスキルは何のスキルであるか断言するのに時間がかかるし、次の攻撃がわからないので警戒が解けない。


 そう判断して距離を取る。


「さて、次は僕から行きますよ」


 そう言ってその場でセルビアは剣を軽く振る。


 何のスキルかわからない為、今は避けるしかない。


 今わかっているのは剣を振った直線上にいてはならないということだけ。


 スキルがわかってないので他に変な動きがないか確認しながら、セルビアの剣を振った先に自分がいないように俺は一定間隔をとり避け続ける。


 スキルに当たってこれがなんなのか確かめることもできないし、だからと言ってこのタイミングでまだ相手に見せていないスキルを使用したくないので様子見するしかできない。


 正直に言えば、セルビアのスキルがなんであれ本気を出せば一瞬で終わるだろうが、対人による手加減なんてした事がないため、セルビアを殺す可能性がある。

 できる手加減は攻撃的な固有スキルを使わないようにするくらい。


 避け続けている間、セルビアが行動パターンを変えることはなかった。ただ、剣を振るだけ。そして、それは直線上にいなければ当たらない。


 このパターンが変わらないなら、このまま体力が奪われるだけ。そう判断して大きく後退する。


 セルビアに他に使い方があったとしても、使ってこないならこのパターンの間にスキルを暴く!


 俺は再び地面を強く蹴って直進する。


 そのまま、


『砂弾』


 意を決してスキルを使う。


『小さな物を支配する力』


 島セルビアスキルを避けながら一瞬で無数の小さな砂の弾を作り出し一気に放つ。それを見たセルビアは一瞬、驚きはしたもののすぐにどうすればいいか判断する。


 セルビアは何か考えがあるのか剣を近くに投げ、両手を前に勢いよく突き出す。その瞬間、砂の弾は壁にぶつかったように粉々になり風に吹かれて押し返され消えてゆき砂の塊は何一つセルビアには届かなかった。


 これがセルビアのスキルの他の使い方。


 まあ、そこまでは想像の範囲内だ。


 砂が飛ばされ、砂の塊から石が出てくる。


「まだだ」


 飛ばされた石を一度動かして、セルビア目掛けて飛ばす。


 セルビアは屈みながらスキルを使うことなくそれを避けて、近くにあった剣を拾う。


 その間に俺はセルビアの目の前に迫る。セルビアは何とか俺を遠ざけようと剣を振り下ろすが、それでもお構いなしに前傾姿勢から一気に剣を振り上げる。俺の剣はセルビアの剣に当たる前に何か別のものに押されるがそれを押し返す。


 そして、二つの剣がぶつかり合う。しかし、咄嗟に振り下ろしたセルビアの剣には力がこもっていなかったためそのままセルビアの剣は俺の剣に押し負けて弾かれ手から離れる。


 このまま決める。


 隙だらけのセルビアを前にして振り上げていた剣を一気に振り下ろす。完全に決めたと思った。しかし、セルビアはまだ諦めていなかった。


「まだ、負けませんよ」


 セルビアはそう呟くと剣を持たない手で俺を押そうと腕を前に出す。その手も先程の剣同様に俺の体に届くことはなかったが、その直後、微かに押された感じがして最後の一撃を外した。


 ヤバ。空振った。


 元々今の一撃で決める気だったので大きく剣を振った。しかし、外したせいで動きに大きな隙ができてしまう。その間にセルビアは体勢を立て直して剣を横に振る。


『砂壁』


 スキルで砂の壁を作り迫り来る衝撃を砂に吸収させる。出現させた砂の半分以上は吹き飛ばされるがそれを利用する。


『砂隠れ』


 周りに吹き飛ばされた砂はすぐに体を隠し、辺り一面を砂煙が覆う。


 俺は砂の中、セルビアとの距離を詰める。


「目眩しですか。しかし、そんなもの僕には効きませんよ」


 セルビアは俺のスキルを見ても未だに余裕そうに位置を変えずに立っている。


 これは単なる時間稼ぎにすぎない。この時間稼ぎの今は考えを纏めるためのものだ。


 今はセルビア優勢の状態。


 だが、今の一連の流れでセルビアのスキルがどんなものであるのか大体わかった。剣を振った際に飛んでくる何か。剣で押し返した時に感じたのは風。一瞬重さを感じたが、こちらが勝った瞬間ふわっとなくなった感じがした。多分、風圧を変える力。手や剣を振ることで発生した風の強さを変えられる。だから、剣を振った一直線上に見えない攻撃を放つことができたし、砂の塊を吹き飛ばすことができた。


 スキル名は多分、


『風圧を増幅する力』


 実際に存在する風の力を操る操作系の力。操作系であるのでスキルによる風の生成はできない。だから剣を振る動作が必要になっている。また、操作するのは威力の操作であるため、放たれた風の方向などを操作することはできないだろう。操作できるなら四方八方から風が飛んでくる筈だ。


 能力は俺の自身が使っている魔剣の《鎌鼬》の上位互換って感じ。


 さて、大体情報を整理できたので攻撃に移るか。


 俺はスキルを予測し一気にセルビアとの距離を詰める。セルビアは砂煙によって視界が悪くなり、その場で大きく腕を振り、足を踏み鳴らして自分の周りから砂を消しとばす。


 セルビアが足踏みすると共に地面を蹴って、視界が晴れる前にセルビアの頭上を越える。


 視界を確保したセルビアは俺を探すが、彼の目に俺が映ることはない。


「消えた?」


 セルビアがそう呟いた時にはもうすでに背後を取っていた。しかし、彼は気づいていない。


 多分この後すぐに俺を探すために振り返る。振り返った時に発生する風を利用されたら負ける可能性がある。確実に仕留めるなら、その背後を取って相手の動きを確認してからの方がいい。


「今度こそ決める」


 俺のわざと聞こえるように呟いたその声の方向に対してセルビアは振り返り拳を握り咄嗟にスキルの発動をする。


 セルビアのスキルの弱点。それは一度剣や腕を振らなければならないというもの。それは外すたびに大きな隙が生まれるということ。その間に背後を取るくらいは簡単にできる。


 セルビアが振り返る間に死角を探し、体を縮めてセルビアの視界に入らないように動く。スキルの発動までにかかるわずかな時間でそのまま懐に入り衝撃波に当たらないように横を通り過ぎる。


 スキルの発動は拳からのみ。


 俺はそれを確認して再び背後をとる。


 死角に入ったことも知らずにセルビアは拳を突き出し、風圧を強化して放ち地面をえぐり飛ばす。


 一度見失った強者にいつのまにか背後を取られている恐怖、それが相手の思考回路を鈍らせる。


 放たれた風は加減を誤っており、受験生に対して放ってはいけない威力のものであった。その一撃は障壁の魔道具では受けきれない威力。


 そんな爆風を感じながらそっと斬り込みを入れて障壁を破壊する。


 スキルを発動したセルビアはその場に突っ立っていた。


 セルビアがスキルをぶっ放した方向に俺の姿はない。彼はやってしまったと動きを止めていている。そして、動き出したと思ったら、俺の安否を確認する為に風を飛ばした場所を探している。


 俺は真後ろにいたというのに。


 セルビアは完全にやらかしてしまったとパニック状態になっているようで、自分の障壁が破壊されていることにすら気づいていないようだった。


「あの、これでいいですよね」


 歩いてセルビアに近づき背後からそう尋ねる。彼は恐る恐る首を回して俺のことを確認する。額からは汗が止まらず、本気で焦っていたようだ。


「ユヅキくん。君はあれを避けたんですか?」

「避けたというか、あれくらいならスキル発動前に予想できたんで、放たれる前に攻撃範囲外に移動したんですよ」


 あれくらい余裕だ。一応、それなりの実力を持つダンジョン攻略者だ。甘く見られても困る。


「そうか。はは。流石だね」


 そう言うとセルビアは完全に気が抜けていた。


「あの、障壁破壊したんで俺の勝ちでいいですよね?」

「あっ」


 俺に言われてやっと障壁が破壊されたことに気づく。


「勿論、俺の障壁は破壊されてないですよ」


 そう言って障壁の魔道具を渡す。それを受け取ったセルビアは軽く笑って


「やられたよ。君の、ユヅキくんの勝ちだ」


 と宣言した。その言葉によって俺の勝利が確定した。

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