第6話 報酬
俺が目を開けるとギルドの入り口にいた。俺の小指には触られている感覚があり、隣を見るとて必死に目を瞑っている少女の姿があった。少女も一緒にダンジョンから出られたようで一安心する。
「もう、目を開けていいぞ」
と少女に教えるとゆっくりと目を開けて、
「凄い」
と一言だけ呟いた。
初めて魔道具を使えば誰でもその凄さに感動する。俺は少しの間、何も言わずに黙って少女を少し眺めていた。
俺も初めて使った時はなんか転移の円盤とはまた違う自分の望む場所に行けるという感じ素直に感動した。今だって少し思ったり。
初めての感動を邪魔しないようにある程度時間が経ってから、
「俺はこれからギルドで依頼完了の報告に行くからちょっと待っててくれ」
と少女に伝える。黒石を渡すだけなのでそんな時間はかからない。
「一度、父と連絡を取りたいので私も行きます。」
そう言われたので二人でギルドに入り、受付まで一直線で歩いて行く。
昼過ぎだったためギルドにはあまり人がいなかった。みなダンジョン攻略をしてるのだろう。
誰かに話しかけられることなく受付にたどり着く。勿論、受付はリラさんのいるところである。
「取ってきましたよ」
そう言いながらバッグから黒石を出してカウンターに並べる。
諸星さんは黒石の数を数えて、
「お疲れ様。流石、ユヅキ君だね。じゃあ、詳しい鑑定をしてくるからちょっと待ってて。」
と裏に黒石を持って行った。
「後は、報酬を貰うだけだから君はお父さんに連絡してきなよ。俺はここで待ってるから。」
後ろにいる少女にそう言うと
「わかりました。では行ってきます。」
と他の受付に向かった。
一人近くの椅子に座りリラさんに呼ばれるのを待つ。
「本当に学校に通えるのかな」
学校に入学するための入試は15歳しか受けることができない。
だから、これは入試を受けられなかった俺にとって最後の機会である。そんなことを考えていると
「ユヅキ君」
と呼ばれる。
「鑑定、終わったんですね」
そう呟き受付に歩いて行く。
「鑑定結果に問題なかったよ。これが報酬ね」
とお金を渡されて、ズボンのポケットの中にお金をしまう。
「次の依頼はどうする?」
いつも早く依頼が終わったら次の依頼を受けていたので、リラさんは今日も次の依頼に行くと思い書類を探しに行こうとする。
「今日はこれくらいにして、また今度にします」
そう返すとリラさんは探すのをやめる。
「ユヅキ君も体調管理ができるようになったみたいだね。お姉さん嬉しいよ」
と意地悪く冗談を言ってくる。
「嬉しいも何も俺はいつもできてますよ」
「ふふ。昔はそう見えなかったけどね」
「あの時は若かったので」
2年前なんかは何も考えずただひたすらにダンジョンに潜っていた。でも、今はそんなことする必要はない。
「では、今日はこれで帰ります。あ、いや、一応、あれは話しとかなきゃいけないか」
念の為に希少種がいたことをギルドに伝えておかなきゃいけない。倒したとはいえ、危険があったことに変わりはない。
「何?」
「さっきミナーヴァ14階で希少種らしき魔物と遭遇しました」
「えっ、希少種!?」
リラさんは俺の想像以上に驚いている。何かあったのか。
「はい。見たことない猫のような希少種がいました」
「ユヅキ君も遭遇したんだ」
「俺もですか」
「最近、色んなダンジョンで希少種の出現が増えてるんだよね」
希少種が増えている? そんなことがあるのか。
「どんな魔物だったか詳しいことわかる?」
「特殊攻撃のない硬くて速い魔物でした。多分30層くらいの魔物だと思います」
見たことない魔物だったので、攻撃パターンを確認するためにできるだけある程度手加減を入れて、最大攻撃などを引き出そうとしたが特殊な攻撃はしてこなかった。あれは単純な能力値が高いだけの魔物。
最近は瞬殺ばかりに慣れて、様子見しながら戦うことができていなかったので、本当に相手の全部を確認できたわけじゃなさそうだが。
「そっかー。他と接点はなさそうだねー。気になったこととかあった?」
「特になかったと思います」
普通に戦ってしまって全く変なことはなかった。言われていればもっと注意深く戦ったのだが。
「わかった。ありがとね。なんかあったらまた教えてね」
「はい。まあ、もうないと思いますが何かあれば」
そう言って受付から離れた椅子に座る。後は少女がくるのを待つだけだったのだが、椅子に座ってからすぐ
「ユヅキさん!」
と少女が慌てて走ってくる。その姿を見て何か問題があったのかと焦ってしまう。
「どうした?」
「えっと、父がユヅキさんに話したいことがあるから呼んできて欲しいと言ってまして」
「わかった。すぐ行くよ」
これはすぐに行かないといけないと感じた俺は少女について行った。
少女の父にかかっているであろうギルドにある《連絡》のスキルを持つ魔道具を取る。
「今、変わりました」
「君がユヅキくんかい?」
と魔道具から太い男の声が聞こえる。
「はい」
「娘から話は聞いているよ。娘を助けてくれてありがとう」
そういえば、少女の名前を聞き忘れていたなと思いながら話を聞き返答する。
「いえいえ、人を助けるのは当然のことですから」
言葉を選びながら下手なことを言わないように心がける。
「そう謙遜しなくていい。ダンジョン内では自分だけが頼り。見捨てる人も多いからね。それでも助けた君には感謝しかない。だから、お礼をしたいのだけど、本当に君の欲しいものは学校に通う権利だったかな?」
「えっと、はい。無理かもしれませんがそれが今の自分の一番欲しいものです」
「そうか。なら、君には明日行われるリョクオー学園の入試を受けられるようにしておく。入試もなくしてあげたいくらいだが、流石に私情でそこまではできないので我慢してくれ」
助けた少女がまさかリョクオー学園の理事長の娘とは。
学校の入試が受けられるだけで嬉しいのにリョクオー学園。
驚いて一瞬何も考えられなくなる。アヤと同じ学校。そんな学校の入試を受けられる。それだけで嬉しかった。
「それだけでも十分です。ありがとうございます」
喜びから右手で小さくガッツポーズを作る。そのまま俺は続ける。
「それに僕の実力がこの学校に合っているか見せることができるいい機会なのでむしろ好都合ですよ。そもそも僕が助けたかどうかということを信じてもらう必要もありますし」
その発言に男は軽く笑い、
「面白い。ならば君の実力を見させてもらおうか」
と返した。
そして最後に、
「他に何かあったらリョクオー学園に連絡してくれ」
「わかりました」
「明日、頑張ってくれ」
少女の父はそう言うと魔道具のスキルを止めた。
後ろに振り返り少女を見る。
「ありがとな。まさか、君がリョクオー学園の理事長の娘だったなんて思いもしなかったよ」
「あっ、そういえば、まだ、自己紹介してなかったですね」
少女は胸に手を当てて誇らしげに、
「私はリフィア・ステイスです。さっき父からも話があった通り、リョクオー学園の理事長であるフラント・ステイスの娘です」
と名乗った。
「これで伝えることは全て伝えました。後は明日、頑張ってください」
と言って出口へと向かう。そんなリフィアに俺は立ち止まって
「ああ。こんな機会は最後なんだ。リフィアから貰ったこの機会を無駄にする訳にはいけないし、明日は必ず合格するよ」
と伝えるとリフィアは俺を見て
「ユヅキさんの実力なら余裕ですよ!」
と振り返り微笑む。それを見て俺もギルドから出る為、再び歩き出した。
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