第55話 裏切りの理由

 戦闘開始からおよそ一時間が経った頃、俺と神様達はカルヴィン達の攻撃をいなしたり受け止めたりしながら優勢に勝負を進めていた。


 元山賊という事もあって体格も良くて一回一回の攻撃が重いマーカス・テニソンや盗賊ギルドの首領だった頃を活かして素早い攻撃を多い手数で行ってくるスティーヴ・ファロン、そして隣国の姫でありながら自分も騎士団顔負けの剣術を扱ってくるプリシラ・セネットに王都の教会のシスターで旅の時にはその回復術と格闘術に何度も助けられたモーリーン・クック、と相手は全員が実力者ではあった。


 けれど、俺もそれには負けずにマーカスとスティーヴの速さの違う波状攻撃を躱したり受け止めたりし、プリシラの軽やかな動きやモーリーンの速くも重い一撃をいなしながら神様達と共に戦い、徐々にマーカス達を押していった。


 そんな中、王子は自分から戦うわけではなくマーカス達や少数の兵士達、騎士達にとんちんかんな指示を出すだけで、それもあって自分達が劣勢になっている事にはまったく気づいていないようであり、その姿にミラベルのそばにつくカルヴィンや戦ってるマーカス達は確実にイライラしていた。



「あの男、将としての器ではないな。将が討たれては軍の士気も下がるため、討たれないように心掛けるのは間違いない」

「しかし、指示も間違い続けている上に支援すらせずに味方に守らせてばかりいる。そんな事では誰もついてはこないというのがまったく理解出来ていないようだな」

「そうだな。この調子だと、王子が先にダウンした方がみんな喜ぶんじゃないか?」



 向こうの様子を見ながらタケハヤスサノオノミコトやイザナギノミコトと話をしていた時、マーカス達も遂に体力の限界が来たのかその場に膝をつき始めた。



「はあ、はあ……」

「手強いな……」

「ゴドフリーさん……確実に私達と一緒だった時よりも強くなってます……!」

「そばにいらっしゃる神様達も本当にお強いですし、このままでは私達が勝てる見込みなんてとても……」



 マーカス達の顔に焦りの色が浮かぶ中、それを見た王子は怒りに任せて叫び始めた。



「お前達だらしないぞ! そんな奴ら、お前達の力だけで問題はないはずだろう!」

「うるせぇぞ、バカ王子! てめぇも戦いやがれ!」

「……実に不快」

「貴方のように品のない方に“仕方なく”従っているのですから、それくらいやっても──」

「ぷ、プリシラさん……!」



 プリシラの言葉をモーリーンが遮り、プリシラは何かに気づいたようにハッとした。



「仕方なく……?」

「あ、いえ……その……」



 プリシラがしどろもどろになっていたその時だった。



「もう良いわよ! プリシラ!」



 ミラベルが突然大きな声を上げ、それに対してカルヴィンは慌てた様子を見せた。



「み、ミラベル……!」

「カルヴィンだってもうこんな事嫌でしょ!? 仕方ないとはいえ、ゴドフリーに敵意を向けて、殺そうとしないといけないなんて……!」

「そ、それはそうだけど! けど、そうじゃないとお前の師匠や俺の両親が!」



 ミラベルとカルヴィンが言い争う中、マーカス達も悔しそうな顔で俯き、それを見た王子は忌々しそうな顔をした。



「ちっ、最後まで務めを果たせないとはな。所詮、勇者パーティと言ってもこの程度か」

「……どういう事だよ」

「どうせお前達はここで死ぬのだ。だから教えてやろう。コイツらがお前を裏切って追放した理由、それは僕とお父様がコイツらの家族や仲間達を人質に取っているからだ」

「人質に……だから、みんないきなり俺を罵倒し始めたり勇者に向いてないって言ったりしたのか」

「そういう事だ。だがまあ、務めを果たせない者には罰を与えないといけないな。よって、お前達を殺した後、人質もみんな殺すとしよう」



 その言葉を聞いてカルヴィン達が絶望した顔をする中、俺は王子に話しかけた。



「ところでなんだが、人質に取ったのは誰なんだ?」

「カルヴィン・スティールは両親、ミラベル・クロウは王宮魔導師だった師。マーカス・テニソンは山賊時代の手下達、スティーヴ・ファロンは盗賊ギルドのメンバー、そしてプリシラ・セネットは王と女王である父親と母親、モーリーン・クックは父親代わりの神父だ」

「……なるほどな」

「ご、ゴドフリー……?」

「それじゃあ問題ないな」



 そう言った瞬間、王子はニヤリと笑い、カルヴィン達は信じられないといった顔をした。



「ご、ゴドフリー……!?」

「はっはっは! それはそうだろうなぁ! お前からすれば裏切り者達の家族や仲間達が死ぬだけ──」

「いや、取り零しがないとわかってホッとしただけだ」

「……なに?」



 王子が不思議そうな顔をした後、俺は隣に立っていたイザナギノミコトに声をかけた。



「イザナギノミコト、そろそろ良いぜ」

「承知した」



 イザナギノミコトは頷くと、持っていた矛を地面に刺した。すると、イザナギノミコトの隣に青い渦が現れ、そこから何人もの人々が現れた。




「え……あ、あれは……!?」

「師匠!」

「お父様! お母様!」



 青い渦から現れたそれぞれの人質を見て、ミラベル達は安心と嬉しさが入り交じったような顔をした。

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