第54話 開戦

「……さて、来たな」



 マオークの村の中心に立って近づいてくる奴らを見ながら俺は独り言ちた。待ち構えているのは、俺や村のみんなを殺そうとしに来る王子に兵士や騎士達、そしてかつての仲間達だ。


 ノドカが呼んでくれた神様達に手伝ってもらって事前に手に入れた情報を参考にするなら、開拓地の方には多くの騎士や兵士達が向かっていて、こっちには大将である王子やかつての仲間達が来るようだった。


 そしてその情報は合っていたようで、見慣れた顔ぶれがそこには揃っていた。



「……来たか、お前達」

「ゴドフリー……」

「こうしてお前に刃を向ける時が来るとはな、ゴドフリー」

「それは俺のセリフだ、カルヴィン」



 最初の仲間だったカルヴィン・スティールを見ながら俺は言う。王国の一兵士だったカルヴィンも今となっては豪華な装備に身を包んでおり、他の奴らも旅の時よりも上等そうな格好をしていた。


 そしてミラベルやカルヴィンが唇を噛む中、その中心で宝剣を腰に差していた王子がバカにしたような視線を俺に向けてきた。



「逆賊ゴドフリー・ガードナー! 勇者の名において、今ここでお前を討ち果たしてやろう!」

「なにが勇者の名においてだ、女神様の祝福も無視して勇者を名乗っておいて。それに、村のみんなから聞いたけど、お前達は謎のローブの男にボコボコにされたんだろ? そんな奴に俺が負けるわけがないんだよ」



 その言葉を聞いた瞬間、王子の顔が歪む。



「あ、あれは意表を突かれただけだ! 突然の事じゃなければ、あんなよくわからない男一人にこの僕達が負けるわけが……!」

「負けてる時点で終わりなんだよ。城でぬくぬくとしてきたお前にはわからないだろうが、俺達はいつだって命の取り合いをしてきたんだ。

突然の事でも対応しないといけないし、勝つためにはどんなに辛い事だってしないといけなかった。そんな覚悟も強さもないお前なんかに俺は負けない。村のみんなの他にも俺には守るべき相手がいるんだからな!」



 そう言いながら俺が剣を抜いたその時、ミラベルはショックを受けたような顔をした。



「ま、守るべき相手……!?」

「そうだ。俺の事を色々な事で支えてくれて、今日まで生かしてくれた大切な相手がいる。今この場にはいないけど、アイツだって自分のいるべき場所で戦ってるはずだ。だから、俺はソイツのためにも負けられない。お前達に勝って、それを報告するためにもな!」

「ご、ゴドフリー……」

「はあ……ミラベルのショックは大きそうだな」

「……同意」

「仕方ありません。カルヴィンさん、ミラベルさんをしばらくお願いします」

「……わかった」



 カルヴィンが返事をしてミラベルと一緒に後ろに下がると、王子と共に四人の人物が前に進み出てきた。



「……マーカスにスティーヴ、それにプリシラとモーリーンか」

「久しぶりだな、元リーダー」

「……しかし、今は敵」

「貴方には我が国の件も含めてお世話になりましたが、今だけは刃を向けさせて頂きます」

「お、お覚悟を……!」

「……覚悟、ね。それはお前達にも言いたい事なんだよな」



 マーカス達を見ながら俺が言ったその瞬間、俺の隣には幾つもの青い渦が現れ、そこから何柱もの神様達が姿を現した。



「なっ……!?」

「な、何だコイツら……!」



 王子やカルヴィン達が驚く中、神様達は俺の隣に並び、その内の一柱が俺に話しかけてきた。



「ようやくその時が来たか、ゴドフリー。我らが愛娘、神野和の頼みに応じてお前の手助けをしてやろう」

「ああ。タケハヤスサノオノミコト、イザナギノミコト、タケミナカタ、ニニギノミコト。お前達の力を借りるぞ」

「御意」

「愚か者に裁きを与えよう」

「どれ程の強者が見せてもらうぞ、異世界の者達よ」



 神様達がそれぞれ威圧感を漂わせながら言うと、着いてきていた兵士達は一瞬にして震え上がり、カルヴィン達も警戒と恐怖が入り交じったような顔をした。



「な、何だよソイツらは……!?」

「……ここにいるのは、俺の助っ人の神様達だ。俺一人でも戦えるけど、俺の大切な人が助っ人としてここにいる神様達を寄越してくれたんだよ」

「か、神だと……!?」

「か、神様を相手にしないといけないなんて……!」



 隣にいるのが神様だと知って、カルヴィン達はますます恐怖と警戒を強めたようで、俺は更に言葉を続けた。



「因みに、俺に祝福を与えてくれた女神様が言うには、このエリクシオンにいる他の神様もお怒りになってるそうだ。自分達神を蔑ろにして下界の奴らが調子に乗ってるからってな」

「な、なにが神だ! そんなもの、勇者の力の前には……!」

「そういう態度がみんなを怒らせたんだよ。そして、その神様達も今は色々な国に働きかけたり開拓地のサポートに行ってくれている。だから、俺は何の心配もせずに戦えるってわけだ」

「くうっ……!」



 王子は一瞬怖じ気付いた様子を見せたが、すぐに自分を奮い立たせるように大きな声を上げた。



「そ、総員! あの逆賊共にかかれー!」



 そう言って走ってくる中、俺は持っていた剣を握り直した。



「さあ、始めるか。みんな、行くぞ!」



 その声と同時に俺達も戦いのために走り出した。

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