第52話 仲間との朝

「それじゃあ行ってきます」



 翌朝、お母さん達に声をかけてから私は家の外に出た。すると、そこには何故か岩永さんと大和さんの姿があった。



「岩永さん、それに大和さんまで……」

「あ、おはよう。三神さん」

「お、おはよう……」

「う、うん……二人ともおはよう。二人ともどうして家に?」



 その問いかけに岩永さんはにこりと笑いながら答える。



「一緒にガッコに行こうと思ってね。ほら、浦木さんのせいで住所明かされて、実際に襲われたんでしょ? だから、アタシ達も一緒に行こうって大和さんと話したんだよ」

「や、やっぱり三神さんが心配だったから……」

「二人とも……うん、ありがとう。それじゃあ行こうか」

「うん!」

「う、うん……」



 二人が返事をした後、私達は歩き始めた。これまで誰かと一緒に登校というのは、秋緋ともやった事がなかったのでとても新鮮であり、その事が私の気持ちを弾ませていた。


 そうして歩いていた時、ふと大和さんが私に話しかけてきた。



「み、三神さん……」

「うん、なに?」

「昨日の顔出し配信なんだけど……あのいきなり起きた災害ってやっぱり……」

「うん、本当に神様達に起こしてもらった物だよ。自慢とかする事でもないんだけど、神庭を用意してくれたティアさんのおかげで、私はこの三神勇美と神野和のモードを神庭限定で切り替えられるようになってて、それで事前に待っていてもらったの」



 それを聞いた瞬間、二人は心から驚いたような顔をした。



「じゃ、じゃあ……三神さんは本当に女神様になっちゃったんだ」

「あはは……まあ、そういう事になるのかな。元々はゴドフリー君の支援役の女神っていう立ち位置ではあったんだけどね」

「ゴドフリー君……! そういえば、あれが本物のゴドフリー君なんだよね!?」

「うん、そうだよ」



 私が頷くと、岩永さんは少し悔しそうな顔をした。



「私さ、三神さんの配信中の説明で聞いてた情報だけで満足してたけど、実際のゴドフリー君を見て、細部まで想像しきれてなかった事に気づかされて、結構悔しかったんだよね」

「それはわかる。必要な情報はだいたい聞いたから、とりあえずここまで描ければ大丈夫かなとか思ってたけど、実物はもっとキラキラとしてたし、表情も結構豊かだったから、あの後目に焼き付けた顔を元にして描き直したからね」

「大和さんも? そうだよね、服装こそ現代風だったけど、あんなにマジな勇者見せられたら描き直さなきゃってなるよ」

「因みに、ゴド×ノドは描く?」

「描く。というか、付き合ってるのを聞いた瞬間にこういう構図でとかこういう表情でとか描きたい事は浮かんだから、後で擦り合わせしよ。大和さんだって浮かんでるでしょ?」

「もちろん。それじゃスケジュール管理はちゃんとしておく」

「オッケー!」



 岩永さんが嬉しそうに言い、その様子を見ながら苦笑いをしていたその時、周囲から視線を感じて私は目だけを動かしながら周囲の様子を窺った。


 学校に近くなっていたからか周りには同じ学校の子が多く見受けられるようになっており、視線を私に向けながらこそこそ話している姿も目に入ってきた。



「やっぱりあそこまでの事をしたからか結構噂になってるのかな」

「あー……たぶんそうじゃない? 元々、成り済ましアカウントがやってた事も校内には広まってたから昨日の配信を観た子は多いだろうし、そういう子から聞いて更に広まったんだと思うよ」

「短時間とはいえ、力の証明のために各地で災害を起こしたのもあるしね。一応、被害は出てなかったみたいだけど、それでも親族とか友達で怖い思いをした人はいるんだと思う」

「うん、それは本当に申し訳ない事をしたなと思ってるよ。神様達からはそんな事気にする必要はないって言われそうだけど、荒らしとか面白がって乗ってくる人に静かにしてもらうためとはいえ、あれはやり過ぎたなって思うかな」

「本当に神様くらいしか出来ないような真似をしたからね。今頃、本当に三神さんを信奉する新興宗教とかあの現象を科学で解明しようとする人とか出てきてるんじゃない?」

「それはやっぱり困るような……」



 別に私は自分の信者が出来て欲しいわけじゃないし、あの出来事に関してはそういう事があった程度に捉えておいて欲しいと思っている。


 だけど、やっぱり普通に考えたらただのVTuberだと思っていた人が神様の力を借りて自然災害を起こしたという出来事は本当に異質な事で、ファンタジー小説の中の出来事みたいな事なのだ。



「とりあえずゴドフリー君の件が片付いたり秋緋との決着がついたりするまでは配信はお休みするし、それまでにほとぼりが冷めてくれた良いなぁ」

「それは難しそうだけど……まあたしかにそれが一番だね」

「たしかに。さて……浦木さんはどう出るだろうね」

「うん……弁護士の先生や警察も動いてるとは言ったし、何もしないわけはないと思うけど、やっぱり向こうも弁護士を立てて来るのかな」

「それはもちろんだろうけど、頼まれる弁護士も大変だね」



 そんな事を言いながら岩永さんが苦笑いを浮かべる中、私達は昇降口から入って靴を履き代え、そのまま教室へと向かった。そして教室に入った私の目の前には一人の人物が立っていた。



「……秋緋」



 その人物、秋緋の目には明らかな敵意と怒りが宿っていた。

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