第51話 幸福の夜
「ふぅ……終わった」
配信がちゃんと終わっている事を確認してから私は呟いた。
隣にいるゴドフリー君に視線を向けると、ゴドフリー君も緊張の糸がほどけた様子で椅子の背もたれに体を預けており、その姿に私は思わずクスクス笑ってしまった。
「ゴドフリー君もお疲れ様。初めてが顔出し配信になったけど、だいぶ緊張したでしょ?」
「それはな……イサミ、いつもあんな風に喋ってるんだな。素直にすごいと思えたよ」
「ありがとう。さてと……これで一時的な休止をする事になったし、後は秋緋の件を片付けるだけだね」
「だな」
ゴドフリー君が体を伸ばしながら答える中、私はふと思った事を口にした。
「そういえば、ゴドフリー君の方はどう? 戦いの準備は順調?」
「ああ、順調だ。おかげさまでな」
ゴドフリー君は嬉しそうに笑う。昨日、ゴドフリー君のところに前の仲間の一人であるミラベルさんが来たようだった。
来訪の目的は王子達が攻めてくるのを伝えに来たという物で、明日には攻めてくるそうだ。それを聞いて私も戦いの準備は手伝っており、以前から手伝いをお願いしていた吉備津彦命様や他の戦神の皆さんにマオークの皆さんの警護や周辺の見廻りをしてもらっている。
そして開拓地の方もだいぶ作業は進んでいて、今では小さな一つの村くらいにはなっているようだった。
「開拓も順調だし、ここもだいぶ発展した。そして戦いの準備だって問題ない。これならいつ攻めてきても問題ないな」
「そうだね。でも、どうしてミラベルさんは攻めてくる事を教えてくれたんだろう? やっぱり例の件について何か私達が知らない事があるのかな……」
「知らない事……」
「うん。もちろん、裏切られた事はかなしいだろうし、許せないと思う。でも、こうして教えにくるって事はやっぱり何かあるんじゃないかな? 別に挑発するような感じじゃなかったんでしょ?」
「そうだな……どちらかと言うなら、表情も言い方も警告みたいな感じだった気がする。こっそり教えに来たから、準備はしておけみたいな」
ゴドフリー君がその時の事を思い出しながら言う中、私はミラベルさんの行動の真意について考え始めた。
もちろん、私はミラベルさんじゃないからたしかな事は言えないし、ゴドフリー君が見た姿が演技の可能性はある。
けれど、もしも本当にただ警告のために来たんだったら、ミラベルさん達の裏切りには何か裏があり、裏切りたくなくても裏切らざるを得ない状況に陥っていた可能性はあるのだ。
「とりあえず、話を聞けそうだったら聞いてみても良い気はするよ。ゴドフリー君の気持ち的には難しいだろうけど」
「……まあな。話さなくて済むならそれが良いと思ってる。アイツらの姿を見た瞬間に怒りが湧く可能性は十分にあるからな」
「うん……」
「でも、せっかくイサミが言ってくれた事だし、少しだけ考えてみるよ」
「ゴドフリー君……うん、ありがとう」
「どういたしまして」
ゴドフリー君がにこりと笑い、それに対して私も笑い返した後、私は携帯電話の時計を確認した。
時間はいつもならそろそろ寝る時間になっており、時間を確認したからか私の口からも小さな欠伸が漏れた。
「ふあ……それじゃあ私はそろそろ家に戻るね。配信機材は自動で家に戻るみたいだから、ゴドフリー君もそのまま家に戻ってもらって大丈夫だよ」
「ああ、わかった。イサミ、お互いにここからも頑張っていこうな」
「うん。それじゃあおやすみ、ゴドフリー君」
「ああ、おやすみ。イサミ」
そしてガーデンコントローラーを操作して家に戻った後、私は着替えをしてからベッドの上に寝転がった。
「はあ……緊張した。今までの配信とは色々違うし、緊張するのは仕方ないんだけど……やっぱり一番の理由はゴドフリー君がそばにいた事かも」
ゴドフリー君は恋人だし、本来なら一緒にいるからこそ安心する存在なのかもしれない。私だって配信中の色々な言動だってゴドフリー君が一緒にいたからこそ出来た事であって、そうじゃなかったら荒らしなどのコメントで潰れていたかもしれない。
でも、大切な人が隣にいたからこそしっかりと出来ている自分を見せたいという思いがやはりあり、それが緊張に繋がったのだろう。
「……大切な人、か。口に出して言うのはなんかちょっとこそばゆいけど、悪くない感じかも」
顔に少しだけ熱を感じながら呟く。私はまだまだ恋愛も女の子度も初心者マークだし、色々間違う事も慌てる事もあると思う。だけど、ゴドフリー君がいれば大丈夫な気がしている。
全部任せきりには出来ないししないけれど、頼りたいと思えたり頼れたりする人がそばにいるというのは本当に幸せな事なんだなと心から実感していた。
「さてと、そろそろ寝ないと。明日だって学校はあるし、色々頑張らないといけないから」
独り言ちた後、私は部屋の電気を消した。そして目を閉じながらゴドフリー君の顔を思い浮かべた後、幸せな気持ちを味わいながら私はまどろみの中へと意識を沈めていった。
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