第50話 配信の終わり

『今後の活動……』

『もしかして、和様辞めるとかか!?』

『そんな!』

『成り済ましアカウント、許せねぇ……!』



 コメント欄にそんなコメントが流れる中、私は小さく息をついてから口を開いた。



「大丈夫です。引退はしません。ただ、こうして顔出しをして配信をした以上、日常生活に影響が出る事は免れませんし、家族や学校の友達にも何かしらあるかもしれません。

なので、一時的に活動を休止して、この件が落ち着いたりまた始めても大丈夫かなと思えたりしたその時にはまた活動を始めようと考えています」

『引退じゃないのか……よかった……』

『けど、やっぱりあの成り済ましは許せねぇよな』

『明らかに面白がって周りを煽るような事ばかり言ってたし、然るべき罰は受けるべきだよな』

「そうですね。なので、私もあの成り済ましアカウントに対しては既に弁護士の先生の力を借りており、警察にも被害届を出しています」



 そう言った瞬間、コメントがすごい速度で流れ始めた。



『警察沙汰キター!』

『よっし、勝ち確来たな』

『【朗報】成り済ましアカウント、神罰決定【ざまぁ】』

「もっとも、前から犯人については予想がついていて、その人の恋人だった方からも犯人はその人だという話は聞いていました。その恋人だった人は既に別れを告げたようですけどね」

『更なるざまぁだな。俺もそんな奴とは縁を切りたいし』

『それな。因みに、その犯人の詳細ってここで発表はするん?』



 流れてくるコメントを見ながら私は首を横に振った。



「いえ、ここでは詳しい事は話しません。ただ、一つだけ言える事があるとすれば、その人は私が友達だと思っていた人で、成り済ましが出る数日前にちょっとした諍いがあったのですが、その仕返しのつもりでそんな事をしたらしいという事だけです」

『つまり、喧嘩した結果だな』

『うわ、ソイツバカじゃん。ちょっと喧嘩しただけで犯罪に手を染めるなんて』

「そうですね。ただ、私に一言不快だったと言ってくれたら良かっただけなのにそんな事をするなんて本当に考えが足りないと私も思います。

そして、この件は刑事事件として立件され、近日中には犯人のお家に警察から連絡がいくとの事です」

『そうか……因みに、和様的にはやっぱり反省してほしいと思う?』



 そのコメントを見た後、私は小さく頷いた。



「はい。このような事態になった以上、私はこの先の人生でその人とはもう関わる気はありませんし、関わらないのが一番だと思っています。けれど、その人の人生はもうそこで詰んだとは思ってほしくないというのも正直なところです。

なので、この件をしっかりと悔いて反省し、また違った環境で自分なりの人生を生きてほしいと思っています」

『和様、優しすぎ』

『けど、これが俺達の女神様だからな』

『それな。ところで、ゴドフリー君はどう思ってる?』



 そのコメントにゴドフリー君は少し戸惑った様子を見せた。



「お、俺か……そうだなぁ、イサミの言う通りではあるかもしれない。個人的には犯人に対してしっかりと怒りたい気持ちはあるし、直接会って説教だってしたい。でも、イサミがそれを望んでないのもわかってるから、俺はしない。そもそも俺はイサミと同じ世界には行けないしさ」

『あー……そういう制約があるのか』

『和様はエリクシオンに行けなくて、ゴドフリー君はこっちには来れない。二人が会えるのはその神庭だけってわけか』

「まあ、そういう事だな。ただ、こっちの女神様の力でイサミが呼んでくれた神様はエリクシオンに呼べるし、今も頑張ってもらってる。本当にありがたい事にな」

『お、これは第二のざまぁ入るフラグか?』

『和様、その件については何かしらの形で俺達に報告してもらえるんです?』



 私はそのコメントを見ながら頷いた。



「はい。現時点ではこの配信を最後に一度活動を休止する事にはしていますが、その報告のための配信は一度だけ設けようかなと思っています。因みに、この配信でゴドフリー君や神庭の事を初めて知ったという方は、お手数ですが以前の配信を観て頂けたらありがたいです。説明するのが一番ですが、この枠はそろそろ終わる事にしているので」

『あ、もう終わりか』

『たしかに今日は報告回だったしな。それで和様、改めて確認したいんだけど、和様とゴドフリー君は付き合ってるって事で大丈夫なん?』

「……そうですね。ちゃんとした告白こそまだですが、お付き合いはしています」



 その瞬間、コメント欄は今日一番の盛り上がりを見せた。



『よっし、ノド×ゴド確定!』

『いやいや、これはゴド×ノドだろ、jk』

『どっちにしても絵師が過労死するのは確定したし、ファンアートが楽しみだな』

『和様、頑張ってくださいね!』

『ゴドフリー君もウチの女神様の事をよろしくなー!』



 そんなコメントがどんどん流れ、それに対してゴドフリー君が困惑する中、私はクスリと笑ってから話し始めた。



「皆さん、突然の事だったのに受け入れて下さり、本当にありがとうございます。いつになるかはわかりませんが、またみなさんと元気な姿で会えるように頑張りますので、今後ともよろしくお願いします」

『こちらこそー』

『和様、無理せずに頑張れよー』

「ありがとうございます。皆さんは本当に素晴らしい新神……いえ、友神だと思っています」

『友神……あ、もしかして新しいファンネームか?』

「その通りです。ただ、この件については次回の配信でお伝えしようと思います」



 その言葉に対してコメント欄に了承の意味のコメントが表示された後、私は静かに口を開いた。



「それでは、本日の配信を終了します。ここまでのお相手は和神VTuber神野和の魂、三神勇美と」

「えっと、エリクシオンの元勇者のゴドフリー・ガードナーでした」

「皆さん、乙神様でした」



 そしてコメント欄に乙神様というコメントが流れてくる中、私は数分程度終わり用の蓋絵を表示し、その後に配信を切った。

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