第44話 穏やかな時間
神庭に着いた私はまずゴドフリー君の姿を探した。ここにいるとは限らなかったけれど、いたならさっきの件について話したかったし、ゴドフリー君からも色々な話を聞きたかったからだ。
そしていそうだと感じて家まで行き、ドアを軽くノックすると、中からゴドフリー君の声が聞こえてきた。
「ノドカか?」
「うん、そうだよ」
「わかった。ちょっと待っててくれ」
そんな声と近づいてくる足音が聞こえた後、玄関のドアがゆっくり開くと、そこには優しい笑みを浮かべるゴドフリー君の姿があった。
「昨日ぶりだな」
「うん、そうだね。ふふっ」
「ん、どうした?」
「ううん。告白こそまだだけど、恋人同士になったからかこうしてゴドフリー君の顔を見られるとすごく安心するし嬉しくなるなぁって思ったの」
「ノドカ……へへっ、俺もだよ。さあ、上がってくれ」
「うん」
答えた後に私は家へと上がり、リビングまで来て二人分の飲み物の準備をした後、ここまでの出来事についてゴドフリー君に話した。
秋緋が作った成り済ましアカウントの発言によって襲ってきたぽっちゃり体型の男の人に対してゴドフリー君は怒りを見せていたけれど、ハルタさん達が助けてくれた事や非公式ファンクラブのみんなが力になってくれる事を話した時には安心したような笑みを浮かべていた。
「そうか……ソイツらには本当に感謝しないといけないな。ノドカの事を助けてくれたのもそうだし、力になってくれる事もそうだしさ」
「うん、そうだね。そういえば、マオークの人達はどう?」
「ノドカが用意してくれたワープゲートで今はみんな開拓地に移動してるよ。流石にすぐに家までは建てられないから飯の時や夜には村に戻るけど、キビツヒコノミコト達が見回りはしてるしノドカが呼んでくれた他の神様達もいるからどうにか安心出来てる」
「それなら良かった。あ、そうだ……ゴドフリー君って配信には興味ある?」
「配信? ノドカがやってる奴に俺も出るって事か?」
ゴドフリー君の疑問に対して私は頷いてから答える。
「そう。ファンクラブのみんなもゴドフリー君の姿は観てみたいようだし、私が考える配信にはちょっとゴドフリー君の力も借りたいから」
「なるほどな……もちろん良いぜ。これもノドカのためだしな」
「うん、ありがとう。問題はここで配信が出来るかなんだけど……」
「それは可能ですよ、勇美さん」
「え?」
その声に驚きながら声がした方へ顔を向けると、そこにはいつの間にかティアさんが立っていた。
「ティアさん……もう、毎回驚かさないで下さいよ」
「ふふ、すみません」
「それで、配信は可能なんですよね?」
「大丈夫ですよ。勇美さん、ガーデンコントローラーを見てみて頂けますか?」
「ガーデンコントローラーを? はい、わかりました」
私は返事をした後、ガーデンコントローラーに視線を向けた。すると、メニュー画面に見慣れない物が増えていた。
「あれ、何だろうこれ……ライブモード?」
「その通りです。これを使う事で神庭に勇美さんが普段お使いになっている配信環境をそのまま持ち込め、ここでも配信活動が可能になるのです」
「へー……」
「それじゃあこの屋内だけじゃなく、外でも出来るって事ですか?」
「出来ますよ。なので、勇美さんが考えていらっしゃる“顔出し配信”も問題なくここで行えます」
それを聞いた瞬間、私は小さく息をつき、ゴドフリー君は何がなんだかといった顔で私達を見回した。
「顔出し配信ってなんだ?」
「簡単に言えば、いつものVTuberとしての姿じゃなく、実写、つまりはそのままの姿で配信をするって事だよ。私の場合は、神野和じゃなく三神勇美として出てくる感じだね」
「なるほどな。でも、それって本当は危険なんだよな?」
「まあそうだね。顔出しする事で視聴者さん達には顔バレしちゃうし、それがきっかけで身バレに繋がる事もあるから。でも、私がやろうとしてるのは、この姿での顔出し配信なんだ」
「この姿での……」
「うん。いつもはVTuberとして神野和での配信をしてるけど、ここでなら私は本当に神野和として配信が出来るし、いざとなれば神様達にも力を借りられる。本名も住所も晒されはしたけど、だからと言って本当の姿まで晒す理由にはならないからね」
「たしかにそうだな。けど、俺はこっちでのノドカしか姿を知らないし、向こうでのノドカもちょっと見てみたいな……」
ゴドフリー君が少し残念そうに言うと、それを聞いていたティアさんがクスクス笑った。
「では、この件が終わったら神庭でも勇美さんとしての姿になれるようにしましょうか」
「え、出来るんですか?」
「可能ですよ。その間、神野和としての力は使えない事にはなりますが、姿を勇美さんとしての物にする事は出来ます」
「あ、やっぱりそういう制約はあるんですね。でも、ここに来られるのは私達三人や私達が連れてきた人だけですし、まだ安心なのかも」
「俺もノドカも危険な相手を連れてくるわけがないからな。それにしても、本当に楽しみだな」
「そんなに楽しみ?」
私の問いかけにゴドフリー君は大きく頷く。
「ああ! 大切な恋人の事だし、色々知りたくなるのは当然だろ?」
「まあたしかにね。その時にはウチの両親も連れてこようかな」
「あ、そういえばまだノドカの両親には会った事なかったしな……それはそれで緊張するような……」
緊張した様子でゴドフリー君が言う中、私とティアさんは顔を見合わせてから笑い合った。そしてお昼ごはんの時間になるまでの間、私達はゴドフリー君の家で話をしながら楽しい時間を過ごした。
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