第43話 勇美の決意
『岩永さんがガンキさんで大和さんがヤマガミさん……って、二人は本名を言っても大丈夫だったの?』
『うん、大丈夫。この非公式ファンクラブはもう何回かオフ会してて、そこで本名も顔もお互いに知ってるんだ』
『だから、ハルタの連絡先も知ってて、さっき連絡が来たの。三神さんが不審者に襲われた事やここの存在を知った事の』
『不審者……あー、やっぱりそういうのが出たのか』
『はい……成り済ましアカウントの投稿を鵜呑みにして来たみたいで、後ろから抱きつかれたりちょっと言い返したら乱暴な真似をしてきたりしました』
『完全に事件じゃん。ネットってやっぱりそういうのが多いよな。書いてる事を鵜呑みにして自慢げにしたり変に行動力を発揮したりして他人に迷惑をかけた挙げ句、悪いのはソイツだって責任転嫁しかしない奴』
『そうですね……』
それがネットの怖いところだ。一見信憑性のない事でもそれを見た人が面白半分や悪意でそれを広めればそれはいつしか真実であるかのように世間に認知され、それによって身に覚えのない濡れ衣を着せられたりその情報が湾曲した形で更に広まったりするのだ。
インターネットというのはそれが顕著な場所で、匿名性が高いからこそ現実ではおとなしくてもネット上では乱暴な振る舞いをするネット弁慶なんていう言葉も生まれているし、責任などを考えずに簡単に誹謗中傷などを発信出来てしまう。それくらい本当は怖いところなのだ。
『今回はハルタさん達が来てくれたから助かりましたけど、そうじゃなかったら本当にどうなっていたか……』
『少なくとも、考えたくない事にはなってたよな。とりあえずソイツについてはもうほっとくしかないとして、問題は成り済ましアカウントの奴だよな。それが誰かわかってるし、ソイツのせいで本物が被害を受けた。だから、被害届は出せそうだけど……』
『問題はどうやって罪を認めさせるか、だね。どうせ自分は関係ないってしらばっくれるだろうし、こっちには今のところ証明出来るだけの証拠もない。だから、どうにか証拠を集めないといけないんだけど……』
『先手を打たれてアカウントを削除されたらどうしようもないからね。そうされる前に何とかしないと……ハルタ、たしか彼女なんでしょ? 何か方法はないの?』
『彼女って言っても恋愛感情はまったくない遊びレベルだからな……ただ、一応仲間が今朝勇美さんを襲った奴の名前と連絡先を控えていたから、いざとなればそれは使えると思う』
『お、有能。ところで勇美、勇美はこの件を最終的にはどうしたい? ただ謝らせてそれで終わりにするか?』
その問いかけに対して私は一度考え始めた。秋緋がやった事は間違いなく許されない事だ。勝手な逆恨みで本来は私達に関係ない人にまで迷惑をかけたし、今だって悪びれることなく成り済ましを続けている。つまり、秋緋からすればこれは私へのただの仕返しに過ぎなく、遊び感覚でやっているような事なのだ。
だからこそ私は秋緋が許せない。私が大切にしてきた神野和を汚した上に両親や新神のみんなも不安にさせ、その上で決して自分の非を認めずに私のせいにする姿が容易に想像がつくからだ。
『……法の裁きを受けさせます』
『法の裁きって事は……ちゃんと事件として警察に届けるって事だね』
『うん。ただ私にだけ何かしてくるならまだ話し合いで済ませたよ。でも、今回の秋緋のやり方は明らかに度を超してる。だから、法の裁きを受けて自分の罪と向き合い、その上で罰を受けてもらう。そうじゃないとやっぱりダメだと思うの』
『私も良いと思う。自分でも後悔する程の何かがないとまた同じような事をして、別の人を不幸にしそうだからね。今回の件でそういう人間なんだってハッキリとわかったしさ』
『そうだな。付き合ってて俺も感じたけど、アイツはあまりにも幼稚で、責任感なんて言葉からかけ離れた存在っぽいしな。勇美さん、俺も全力で手伝いますよ』
『はい、ありがとうございます』
ハルタさんの言葉に嬉しさを感じながら答えていたその時、ガーデンコントローラーの画面は白く光り、ゴドフリー君からのメッセージを通知した。
「あれ、なんだろう……?」
不思議に思いながらメッセージを開いて中に書かれていた事を読んだ後、私は計画がしっかりと進んでいる事を確信した。
『今、ゴドフリー君から連絡があって、向こうの世界で進めていた計画がしっかりと進んでいるとの事でした』
『お、マジか』
『前に話してたざまぁ展開に向けて少しずつ動いてたのか』
『はい。実は……』
私はみんなに計画のあらましを話した。そして話し終えると、みんなからの書き込みが表示された。
『つまり、水質汚染による軽い病気の流行で王国民や他国から向けられる王族や裏切った仲間達へのヘイトを貯めて、それをゴドフリー君のせいだと感じて攻めてきたところを迎え撃って、完全に敗北させる事で復讐を完了させるわけか』
『そういう事です。そうすれば、私達側が訴えかけなくても更に不信感は高まって、王族達は失脚して裏切った仲間達も後ろ指を指される事になると思うんです』
『たしかに魔王を倒すために集まった奴らのはずなのに自分達が追放した勇者一人にパーティを壊滅させられてたらコイツらには任せてられないってなるし、理由はどうであれ追放した事実も追求されるか』
『たしかに……あ、そろそろホームルーム始まっちゃう』
『だね。ごめんね、みんな。私達、一度抜けるね』
『あ、それじゃあ私もちょっと神庭に行ってこようかな。ゴドフリー君とも直接話してきたいし』
『お、彼氏とのデートか?』
その書き込みが表示された瞬間、岩永さんと大和さんの書き込みがすぐに表示された。
『三神さん! 世間には出さないから、後で三神さんとゴドフリー君のファンアート書いて良い!?』
『捗る……これは捗る……!』
『あはは……うん、別に良いよ。それじゃあ行ってくるね』
そう言ってから私はファンクラブをブックマークし、パソコンを一度閉じた。そしてガーデンコントローラーを操作して神庭に出発するを選択し、光に包まれる中で神庭へと出発した。
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