第45話 今後への決意

『いただきます』



 お母さんと声を揃えて言う。時刻はもう正午、目の前のテーブルにはお母さんが作ってくれた美味しそうなお昼ご飯が並んでいる。



「別に具合は悪くないのにこうして学校がある日にお母さんと一緒にお昼食べてるのってなんだか不思議な感じ」

「事情があるから仕方ないわよ。お父さんだって本当は休みを取って近所のパトロールしたかったみたいだしね」

「あんな風に成り済ましアカウントの言葉を鵜呑みにして来る人がいるとは思わなかったしね。とりあえずゴドフリー君にはそれも伝えたし、向こうも順調みたいだから少しは安心かな」

「ふふっ、すっかりゴドフリー君の事を気に入ってるのね。まあ向こうのご両親とも会ったみたいだし、お父さんも今度は向こうのご両親との顔合わせの事で気が気じゃなくなるかもしれないわ。あの人、ちょっと心配性な上に緊張しがちなところがあるから」



 お母さんの顔は少し呆れ気味だけどどこか嬉しそうであり、私はミートソースのスパゲッティをフォークに適量巻き付けながらお母さんに話しかけた。



「お母さん、なんだか嬉しそうだね」

「そう? ふふ、でもそうかもしれないわね。お父さんのそういう所は好きだし、こうやって勇美ともそういう話が出来るのは嬉しいもの」

「やっぱり私に好きな人が出来たから?」

「そうね。これまで勇美はあまり友達を作ろうとしてこなかったし、他人の事ばかり優先したりよく出来てる事でも自信無さそうな顔ばかりしたりしてきたわ。

でも、VTuberを始めてからは少しずつ自分の行動にも自信を持ち始めたし、ティアさんのおかげでゴドフリー君という大切にしたい異性まで出来て、今は女神様としてゴドフリー君を支えながら自分の身に降りかかった災難にもちゃんと立ち向かおうとしてる。そんな姿を見てたらやっぱり嬉しくなるわ」

「お母さん……」

「例の成り済ましアカウントを作って色々やってるっていう子に対しても考えてる事はあるんでしょ?」



 お母さんからの問いかけに私は頷く。



「……うん。もう私達だけで解決するレベルの問題じゃないから、ちゃんと法的な裁きを受けてもらうよ。軽く調べた感じでも成り済ましアカウントはやっぱりルール違反で、その被害の内容によっては犯罪になるようだから」

「そう……仕返しなんていう軽い気持ちでやった事がまさかそこまでの事になるとはその子も思ってなかったでしょうね」

「だと思う。色々な事を遊び感覚でやってきた罰をここで受けてもらうよ。私だけじゃなく他の人にまで迷惑をかけたわけだから、絶対になあなあにはしないしね」

「それがいいと思うわ。問題は向こうのご家族だけど……」

「そこは申し訳ないけどお母さん達にお願いする事になると思う。本当はそこも私が話をしたいところだけどね」

「ううん、大丈夫よ。あ、そうだ……体調不良でお休みしますって連絡を学校に入れた時なんだけど、もしも体調が少しでも回復したようだったら、放課後でも良いから学校に少し顔を出してほしいって言われたわ。たぶん、その件だと思うけど……」



 お母さんが少し心配そうに言う中、私は笑いながら頷く。



「大丈夫だよ、お母さん。私も少し不安だけど、逃げるつもりはないし、しっかりと立ち向かいたい。少なくとも、神野和わたしならそうするはずだから」

「勇美……うん、わかった。とりあえずお父さんが帰ってきてから行ってきた方がいいわ。その間に自分は何も悪い事をしてないっていう証拠は欲しいけど……」

「そうだけど、あまり大事にするとアカウントを前もって削除されそうだし……証拠集めと一緒に力になってくれそうな弁護士さんを探したいな。弁護士さんなら色々な実例からアドバイスをくれそうだし、いざという時にはSNSの人に代わりに連絡をして相手の本名や住所も割り出してくれるみたいだから」

「そうね、それがいいかもしれない。私はそういう事は詳しくないからあまり力にはなれないけど、弁護士の人や警察の人達なら色々力になってくれそうだし、これだと思えるタイミングが来たら警察に被害届を出していいかもしれないわ」

「うん。後は……VTuberとしての今後の活動だけど、実はちょっと迷ってるんだよね」

「迷ってる?」



 お母さんが不思議そうに言う中、私は寂しさを感じながら頷いた。



「私は今後も続けたいし、新神のみんなからもそう言ってもらえたら嬉しいと思うよ。でも、今回みたいな事も起きたし、このまま続けたら私だけじゃなくお母さん達まで別の事件にも巻き込まれる可能性があるなと思ったの。

お父さんだってたぶん会社でこの件については聞かれてるだろうし、お父さんの仕事に何か影響が出るくらいなら、私は続けない方が良いと思う。やりたくて始めた事だけど、お母さん達の身の安全や生活の方が大事だもん」

「勇美……お父さんならたぶん続けて欲しいって言うと思うわ。お父さんも勇美がVTuber活動を始めてから色々良い方へ変わってるって言っていたし、楽しそうにしてるのは良いって言っていたから」

「お父さんが……」

「でも、最終的な判断は任せるわ。私も続けて欲しいとは思うけど、これは勇美が始めた事だから、勇美が決める事だもの。後悔しないようにね」

「……うん、わかった」



 答えた後、私はお母さんと一緒に色々な話をしながらお昼ご飯を食べていった。お母さんが言うようにこれは私が始めた事であり、私自身が色々決めていかないといけない事だ。


 だから、後悔だけはしないようにしよう。どんな結末になろうとも後悔だけはしないように。


 お母さんとのお昼ご飯の中で私は心に強く誓った。

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