第41話 ファンクラブ

「……よし、まずはこのアドレスにアクセスしてみよう」



 数分後、私は自室のパソコンの前にいた。ハルタさん達に助けられた後、私は念のためという事でハルタさんと連絡先を交換した後、家に帰っていた。


 そしてあのぽっちゃり体型の男の人との一件で汚れた制服を見たお母さん達が驚きながら聞いてきた後、その一件について話し、今日だけ調べ物のために休ませてほしいとお願いをした。


 そのお願い事についてもお母さん達は驚いていたけれど、これまでの中で数少ない私からのお願いである事、そして私も危惧していたように学校に行くまでの間にまた同じような事が起きるかもしれないと考えた事でお母さん達は私が休む事を許してくれた。


 因みに、例の男の人の件についてお父さんは烈火のごとく怒っており、それらしい相手を家の近くで見かけたらただじゃおかないと声を荒らげていた。



「……それだけ大切にしてもらってるわけだもんね。お母さん、お父さん、本当にいつもありがとう」



 感謝の気持ちを口にした後、私はパソコンのブラウザを開き、貰ったメモに書かれていたアドレスを打ち込んだ。


 すると、画面はすぐに切り替わり、ガンキさんとヤマガミさんが描いたと思われるファンアートが背景に描かれたサイトに繋がったが、自分が何人目にここを訪れたのかというカウンターやサイト名である“神野和推し隊”の文字などに多少隠された隠しリンクなど色々な工夫がなされていた。



「これ……前にお父さんから聞いた事がある。たしか少し前の個人サイトだとこういう風なのが主流だったって。でも、誰の趣味なんだろう……?」



 その事に疑問は感じたが、私はとりあえず誰かいないかと思いながら掲示板を探した。そして程なくして掲示板を発見すると、神野和に関連した様々な掲示板が目に入ってきた。



「……“神野和ファンアート交換会場”に“神野和の良さを語る場”、それに“神野和推しになって良かった事を語れ”とかもある……なんかこうしてファンクラブの場に自分から来てみると、ちょっと照れるなぁ……」



 照れ臭さを感じながらも私は掲示板のタイトルを色々見ていったが、その中に気になる物があった。



「……“神野和の窮地を救う対策会議”」



 そのタイトルを見て、私はこのファンクラブの人達がすぐに対策を立てようとしてくれたのだと思って目頭が熱くなった。けれど、泣いてばかりもいられなかったため、私はすぐに掲示板へと入り、そのログを見に行った。



「えっと……」

『さて、これを立てたわけだけど、みんなはどう思う?』

『愚問だね、ガンキ。あれは成り済ましに決まってるよ。というか、教室で一番騒いでたのガンキじゃん』

『おつー。ああ、そういえばガンキとヤマガミって同クラなんだっけ』

「ガンキさんとヤマガミさんは同じクラス……じゃあ学校も同じなんだ」



 新たな発見がありながらも私がログを見続けていると、遂に今朝の投稿に辿り着いた。



『あの成り済ましアカウント、本当に引っ込みつかなくなってるな』

『だよな。自分が本物だって主張したり不純な交際の誘いについて書いたり、初めの時点で中々やらかしてたけど、遂には神野和の本名や住所と思われる物まで投稿してたからな』

『因みになんだけどさ。ガンキ、ヤマガミ、本名についてはマジなん?』

『あれはマジだよ。あまりこういう場でも言わない方が良いけどね』

『うん。なんだったら住所もマジ。彼女、連絡先に自分の住所も登録してるからわかるけど』

「……え?」



 その投稿に私は思わず声を上げて驚いてしまった。この発言からガンキさんとヤマガミさんが同じクラスの子である事が判明したからだ。



「え、でも……誰? それらしい人なんてまったく……」

『良いよなー、推しのVと同クラで』

『それに気づいた瞬間、マジかって思ったけどね。その日はちょっと嬉しすぎて夜しか眠れなかったから』

『完全に快眠です。本当にありがとうございました』

『まあおふざけは後にして……今日辺り、犯人が教室でも何かやらかしそうじゃない?』

『わかる』

『とりあえず俺が今向かってる。前も言ったけど、今回の件は俺に責任があるから』

「あ、ハルタさんだ」



 ハルタさんの書き込みを見つけていると、それに対してファンクラブの人達も反応をしていた。



『お、ハルタ』

『ハルタ、おはー。向かうのは良いけど、お前も気を付けなね。たしかにお前のうっかりはあったけど、反省の気持ちは本当に伝わってきたから、同じ新神として心配してるから』

「みんな……」

『ああ、ありがとう。ところで、ここの事って伝えても良いか? これまでは陰ながら応援するスタイルで来てたけど、ここの存在が支えになるかもしれないからさ』

『ここの事か……まあ、良いんでない?』

『私も大丈夫。これまでの色々な事を知られるのはちょっと恥ずかしいし、結果的に正体もバレるけど、そんな事を言ってる場合じゃないからね』

『私も賛成。それじゃあその件については頼んだよ、ハルタ』

『わかった。それじゃあみんな、また後で。ノシ』



 それが今朝の最後の書き込みであり、私はパソコンの前で腕を組んだ。



「……色々気になる事があるけど、まずは無事を伝えたいな。よし……私も書き込もう」



 独り言ちた後、私はキーボードを叩いて書き込みを行った。



『皆さん、乙神様です。和神VTuberの神野和こと三神勇美です』

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