第40話 新たな味方

「ど、どうして……」



 私は目の前にいる大春さんを見ながら呟く。秋緋と一緒にいた時に見た大春さんはただただ軽そうな人という感じで、こういう状況を助けてくれるような人には見えなかった。


 だからこそ、目の前の現実が中々受け入れられず、私は目の前で微笑みながら後ろに少しガラの悪そうな人達を連れた大春さんに話しかけた。



「あの、大春さん……ですよね?」

「そうっすよ、俺達の女神様。はあ……ほんとぎりぎりで助けられてよかったです」

「やっぱり大春さんだったんだ……って、女神様?」

「まあ今の状況的にはあまり言われたくないと思いますけど、貴女が神野和なんですよね?」

「は、はい……」

「俺、実は貴女の配信のファンなんです」

「え、そうだったんですか!?」



 その言葉に驚いていると、後ろにいた人達はクスクス笑い始めた。



「俺らとつるんでる時も配信の話ばっかりするからな」

「そうそう。観始めるまではいっつもつまんなそうな顔してたのに観始めてからは神野和の事ばかり話すからアタシ達もまた始まったって感じに思ってるんだよ」

桂太けいた、前に彼女と一緒にアンタに出会った時に声ですぐに気づけなかった事、それと気づけなくて色々言った事をずっと後悔してたんだ。一ファンとして気づけないなんて恥ずかしいってすっごく悔しがってるの面白かったな」

「まあ後悔してるのはそれだけじゃねぇみたいだけどな」



 その言葉に大春さんは表情を曇らせながら頷く。



「……今、神野和が炎上気味になったり成り済ましアカウントが出てきたりしたのは実は俺が原因なんです」

「大春さんが……」

「貴女と出会ったあの日、秋緋を連れてそのまま歩いていた時にそういえば聞き覚えのある声だったなと思って色々考えていたら、貴女が神野和だという事に気づいて、うっかりそれを秋緋の前で口に出してしまったんです。

それで、貴女に色々言われて腹が立っていた秋緋がそれを聞いて仕返しのために成り済ましアカウントを作ったり本物の神野和を中傷するための投稿したりし始めたようなんです」

「そっか……ティアさんが言ってたのは大春さんだったんですね」

「ティアさんって……ああ、あの配信内で色々紹介していた神庭を作ったっていう……」

「はい。詳しくはちょっと話せないんですが、ティアさんは大春さんが原因になっていた事に気づいていて、その事を私に教えてくれてたんです」

「そうだったんですか……」



 そう言いながら申し訳なさそうにする大春さんに対して私は小さく息を吐いてからその手を軽く握った。



「え……」

「たしかに大春さんがうっかり口に出した事が原因かもしれません。けど、私は怒りませんよ。ちゃんと後悔もしていて今だってピンチだった私を助けてくれた。そんな人を責めるなんて出来ませんよ」

「和さん……」

「別に本名の方で良いですよ。もう本名は知っていて、今の私は神野和じゃなく一般人の三神勇美に過ぎないですから」

「勇美さん……はい、ありがとうございます。俺、貴女を推してきて本当に良かったと思ってます」

「こちらこそいつも配信を観て頂きありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね」

「はい!」



 大春さんがようやくしっかりとした笑顔を見せる中、仲間の人達も安心したような笑みを浮かべた。



「まさに神対応って感じだな」

「たしかに。それで、そこのデブはどうする? 今は桂太の一発くらって気絶してるっぽいけど、起きたらまためんどくさくなるでしょ?」

「だな。桂太、とりあえずどっかに拉致っとくか?」

「そうだな……とりあえず危なくないとこに運んで、この件については口外しないようにだけ言って逃がしとけ。コイツだって他所に漏らしたら、自分のやった事を晒す事になるから言うわけにはいかないって流石にわかるだろうしな」

「りょーかい。んじゃ、その子の事は任したぞ」

「ああ」



 大春さんが答えた後、仲間の人達は協力してぽっちゃり体型の男の人を運んでいき、その場には私と大春さんだけが残された。



「はあ……まさか朝からあんな事に巻き込まれるなんて……」

「世の中、あんな風に身勝手な奴がやっぱり多いって事ですよ。さて……俺は完全に貴女の味方をするつもりですし、こんな事をした以上、秋緋の事は見限りますけど、貴女はどうしますか?」

「……当然、秋緋には後悔してもらいますよ。住所と本名まで勝手に公開して、今回みたいな事件にも発展しましたから、証拠も集めた上でしっかり法の裁きを受けてもらいます」

「……ええ、それが良いと思います。あの時は俺達が完全に悪いのに今回みたいな事をしたのは完全に逆恨みですからね。俺もちゃんと協力しますよ。もちろん、他の新神達も」

「ありがとうございます。でも、しばらくは配信を自粛するつもりですし、荒らしが出る可能性もあるので新神のみんなに協力を依頼するのは難しいんですよね……」

「それなら大丈夫ですよ」



 そう言うと、大春さんはポケットから一枚の紙を取りだし、それを私に渡してきた。



「これ、非公式の神野和ファンクラブのアドレスです。これはファンクラブのリーダーであるガンキとヤマガミがこれだと思った相手にしか教えてないとこなので、新神以外が来る可能性はありませんよ」

「非公式のファンクラブ……そんなのまで作られていたんですね」

「それだけ神野和が俺達にとって大きな存在になってるって事ですよ。昨日の内に俺がこの件の原因になってるのは伝えていて、怒られはしても除名にはなってないので、ここでも貴女の助けにはなれますよ」

「大春さん……ありがとうございます。因みに、大春さんのハンドルネームって何ですか?」

「ハルタです。あまりコメントはしないのでもしかしたら記憶には残ってないかもしれませんけど……」

「ハルタさん……あ、もしかして前に友達の事についてお悩みを話してくれた方ですか? 友達がバイト先でトラブルを起こしがちでどうにかしたいと思っているって話していた」



 それを聞いた大春さんはとても驚いた様子で目を見開いた。



「そ、それです! すごい……それを話したのはもう一年も前の話なのに……」

「私、実は新神のみんなの悩みと名前はノートに書いて残していて、たまに見返してるんです」

「そんな事までしてるんですね……これはますます推したくなるな……」

「あはは、ありがとうございます。それにしても……さっきみたいな事があるなら、学校に行く途中、後は校内でも何かトラブルに巻き込まれそうだし、お母さん達に相談して今日は休ませてもらおうかな……」

「それが良いと思います。俺が護衛しても良いですけど、また良からぬ噂を広められたり秋緋に見られて更に逆恨みされたりする可能性はありますから」

「そうですね。それじゃあそうしてみます。ハルタさん、本当にありがとうございました。改めてこれからもよろしくお願いしますね」

「こちらこそこれからもよろしくお願いします」



 目の前で嬉しそうに笑うハルタさんの笑顔に私は安心感を覚えると同時に秋緋のやり過ぎた仕返しに対して強い怒りを感じていた。



「……絶対に後悔させてやる」



 怒りの中で私は呟いた。

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