第38話 復讐の始まり

「えっと……ゴドフリー君、そちらの皆さんは?」

「ああ、俺の両親とマオークの村の長老だよ。例のワープゲートも問題なく起動して他のみんなは開拓地まで避難させたんだけど、三人からノドカに直接お礼を言いたいって言われたから、ここまで連れてきたんだ」

「長老さんとゴドフリー君のご両親……」



 呟いてから私はゴドフリー君のご両親に視線を向ける。短い黒髪をして軽く浅黒い肌をしたゴドフリー君のお父さんはがっしりとした感じでありながらも細身であり、少し緊張した顔をしていたけれどその顔つきはやっぱりゴドフリー君に似ていた。


 そして色白で長い黒髪を麻紐のような物で纏めたお母さんは同じく細身でありながらも別に細すぎるわけではない体つきをしており、顔つきはゴドフリー君のようではなかったけれど穏やかで優しげな雰囲気はゴドフリー君っぽさがあった。



「は、初めまして……ここで息子さんの支援をさせて頂いている神野和と申します……」

「なるほど、君が……初めまして、俺はゴドフリーの父親のグレン・ガードナーといいます」

「私は母親のノエル・ガードナーです。まさかこんなに可愛らしいお嬢さんがウチの息子の支援をしてくれているだなんて……ふふ、ゴドフリーも隅に置けないわね」

「可愛らしいだなんて……」

「だろ? ノドカはすごく頼りになるし、色々相談にも乗ってくれる自慢の女神なんだ」

「ご、ゴドフリー君!?」

「へへ、だってほんとの事だろ? まだ告白はしてないけど、さっきの一件で俺達は友達以上恋人未満から恋人にはなってるし、自慢の女神で恋人くらい紹介させてくれよ」



 ゴドフリー君が自慢気に言い、その言葉を聞いた私の顔がまた熱くなる中、ノエルさんはクスクスと笑う。



「あら、これまでそういう噂すらなかったゴドフリーがそこまで言うなんてね。けれど、こんなお嬢さんがゴドフリーの恋人なら私達も鼻が高いわ」

「そうだな。ノドカさん、まだ気は早いかもしれないが、ウチの息子の事を末永くよろしくお願いします」

「こ、こちらこそ……えっと、それでそちらがマオークの村の長老さんなんですよね?」

「いかにも。ワシはビル・ジンデル、マオークの村の長老であり村長じゃ。ゴドフリーを助けてくれた上に村民達の移動の手助けまでしてくれた事、本当に感謝しておる。ありがとう、若き女神よ」

「いえ、私がしたくてやった事ですし、これも全部こちらのティアさん、ゴドフリー君に祝福を与えた女神様のお力ですから」



 そう言ってティアさんを手で指し示すと、ビルさん達は驚いた様子でティアさんに視線を向けた。



「なんと、こちらが……!」

「初めまして、皆さん。和さんにご紹介して頂きましたが、私がエリクシオンの女神の一柱、ティアーユです」

「あ、本当はティアーユさんというんですね」

「はい。ですが、他の神々からは愛称としてティアと呼ばれているので、和さんにもそう呼んで頂いていたのです。さて……グレンさん、ノエルさん、この度は本当に申し訳ありませんでした。私がご子息を勇者として選んだばかりに彼に辛い思いをさせ、皆様にも命の危機をもたらしてしまいました」

「い、いえ……そんな謝られるような事では無いですよ。ウチの息子が勇者に選ばれたのはとても光栄な事ですので……しかし、例の王族達のやり方はやはり気に食わないです。ゴドフリーから聞きましたが、仲間だった人達まで裏切らせた上に勇者の地位まで奪い取るなど……!」



 グレンさんが怒りを見せる中、ティアさんは哀しそうに頷いた。



「例の王子がいくら己が勇者だと言っても、そこに証拠はありません。私が祝福を与えた勇者にのみ現れる紋章を以て、初めて勇者足り得るのですから。

そしてその事は周知の事実なのですが、その王族達が無理にその紋章を偽って身に刻んだ場合、中には本当にゴドフリーさんから勇者の地位を継承したのだと勘違いする者も出るかもしれません」

「そうなったら一大事ですよね……」

「くそっ……何とかならないのかな……」



 ゴドフリー君が悔しそうにする中、私はある事を思い出し、それを話す決意をしてからゴドフリー君に視線を向けた。



「ゴドフリー君、もしもなんだけど、王族達に何か不幸があったらそれは悲しい?」

「不幸が?」

「……なるほど。例の件ですね?」

「はい。実は、ティアさんから前にゴドフリー君には内緒で、その王族やかつての仲間達に対して何か罰を与えて欲しいとお願いされてたの。それで、お母さん達とも話はしてて、まずは王族と城の人達の数人に体調を崩してもらって、その話が王都中に広まってきたところで国民の人達にもそれより軽い物に罹ってもらおうとしてたんだ」

「なるほど……それは女神様の怒りに由る物で、王族やミラベル達が勝手な事をしたからそんな事になったんだと思わせるわけか」

「うん。王族への反感が高まったところでそういう噂を流せば確実に国民達からの王族やかつての仲間達への反感は爆発するし、もしかしたらゴドフリー君が助けてきた人達からの非難の声も上がるかもしれない。そうすれば、少なくとも悔しい思いはすると思うの」

「そういう事か……」



 ゴドフリー君が納得顔で頷く中、私は話を続けた。



「ただ、これには続きがあって、今回マオークの村を襲おうとした以上、そんな目に遭ったら王族達はたぶんまたマオークの村やあの開拓地まで攻めてきて、ビルさん達やゴドフリー君の命を奪おうとすると思う。事実ではあるけど、その件をゴドフリー君達の仕業だと感じてね」

「そこで、俺が迎え撃って倒す事で完全に復讐完了ってわけか」

「うん。その時には私の方からも軍神や戦神の皆さんにお願いはするし、ティアさん以外の神様達も力を貸してくれると思う。どう……かな? この作戦に乗る気はある?」



 私が少し不安を感じる中、ゴドフリー君は微笑みながら頷いた。



「もちろん。ノドカの言い方だと好き好んで命を奪うつもりは無さそうだし、俺も一泡ふかせてやりたいとは思ってた。だから、その作戦に協力するよ」

「ほんと!?」

「ああ。父さん、その時は他の奴らと一緒に母さん達や小さい奴ら、後は長老達の事を頼む。戦いは俺達が引き受けるからさ」

「わかった。それにしても、勇ましくなったな、ゴドフリー。これもノドカさん、いや“ノドカ様”のお陰か?」

「の、ノドカ様って……私は別にそこまでの存在じゃ……」

「いや、ここまで助けてもらったワシらにとっては村の守り神も同然じゃ。きっと他の者達もそう言うじゃろうて」

「う、うぅ……」



 その言葉を聞いて少しだけ恥ずかしくなっていた時、ゴドフリー君は私の手をギュッと握ってきた。



「ノドカ、絶対にアイツらに目に物を見せてやろうぜ」

「……うん! 頑張ろうね」



 まだ私の方も問題は解決していないし、本当にうまく行くかはわからない。けれど、ゴドフリー君の女神になって、ここまで頼ってもらえている以上、私はちゃんと頑張りたい。いや、頑張るんだ。


 握られた手から感じる温もりに安心感を覚えながら私は心の中で強く誓い、その後、みんなで今後の事についての話し合いを始めた。

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