第36話 恋人への目覚め

「なるほど、そんな事があったのか……」



 話し終えると、ゴドフリー君は顔をしかめながら言い、静かに私の事を抱き締めてきた。



「……辛い中でも怒りを露にせずによく頑張ったな、ノドカ。本当は犯人だと思う奴に食って掛かりたいところを堪えたのはすごい事だと思うぞ」

「……うん、ありがとう。私的には秋緋が犯人で間違いないとは思うの。あまりにも証拠が多すぎるし、この前も私が秋緋の誘いを断った時にだいぶ怒ってたから、その仕返しみたいなものなんだと思う。ただ、問題は……」

「どうやってノドカの正体を知ったか、だよな」

「うん……学校でも神庭の事とか配信の事とかは考えてたし、それを見て勘づいたんだとすれば説明はつくよ。

でも、VTuberは個人勢を含めたら他にもいっぱいいるわけだし、中には私に近い設定の人だっているはず。それなのに、私が神野和だとわかったんだとすれば、きっとそう確信するだけの何かがあったはずなんだ」

「確信するだけの何か……うっかり話したとかはないんだよな?」



 ゴドフリー君の言葉に対して私は首を横に振る。



「ううん、まったく。そもそも身バレを防ぐために外ではVTuberをまったく知らない風に装ってるし、日本神話や妖怪の事は前々から好きだったから、それだって確固たる証拠にはならないと思う」

「そうだよな……」



 ゴドフリー君が小さく唸る中、不意に私はゴドフリー君に抱き締められている事を思い出し、途端に顔が熱くなった。



「ご、ゴドフリー君……もう大丈夫だから話してもらえると……」

「ん、それもそうだな。悪い悪い、なんか辛そうなノドカを見てたらつい体が動いてさ」

「…………」

「それじゃあとりあえず離れ──」



 その瞬間、私は顔を近づけ、自分の唇をゴドフリー君の唇に重ねた。



「んっ!?」



 突然の事にゴドフリー君が驚く中、私は顔を離してから軽くそっぽを向いた。



「……これで少しは意識した?」

「え?」

「落ち着かせるために抱き締めてくれるのは嬉しかったけど、まだ私を異性として意識しきってないみたいだから」

「ノドカ……」

「今朝だってティアさんに唆されたからおでこにキスをしてきたわけだし、私だけすごく恥ずかしい思いをするのは悔しいの」



 そう言いながら私は顔が更に熱くなるのを感じた。言ってみれば、これは私なりの仕返しみたいな物で、子供っぽい意地を張った結果だ。


 でも、完全にゴドフリー君に恋をしている私と違って私から見ればゴドフリー君はまだそこまでの思いは無いように見える。だから、意識して欲しかったのだ。好きな人だからこそ私の事ももっと好きになって欲しかったのだ。


 そう思いながら唇を軽く噛み、ゴドフリー君に視線を向けると、ゴドフリー君の顔はこれまで見たことないくらいに赤くなっていた。



「あ、あはは……参ったな。今のノドカが今朝よりも愛おしく感じてるからか今すぐにでもノドカともう一度口づけを交わしたりもっと先の事をしたりしたいって思うようになってきたよ」

「……私は別に良いよ?」

「……そっか。でも、今はお互いにやらないといけない事があるし、今の気持ちのままだと変に暴走してノドカを傷つけるかもしれない。だから、今は我慢するよ。俺だってノドカは大切にしたいし、そういうのはもっと雰囲気を大事にしたいからさ」

「……わかった。それじゃあ告白も後日改めてだね」

「だな」



 ゴドフリー君は顔を赤くしたままで笑っており、私も改めてゴドフリー君への恋心を自覚しながら微笑んだ。すると、ガーデンコントローラーが光を放ち始め、友達以上恋人未満となっていた関係性が恋人に変化していた。



「ガーデンコントローラー的にはもう恋人判定なんだね」

「みたいだな。これも女神様の狙いだったのかな?」

「たぶんね。さてと……とりあえず今日は配信はお休みにしたし、ゴドフリー君のお話をいっぱい聞けるよ」

「それは嬉しいけど……本当にそっちは大丈夫なのか? また何か変な事を偽者から言われたりしてないのか?」



 ゴドフリー君が心配そうに聞いてくる中、私は静かに頷く。



「……実はされてるの。あまり表向きには出来ない恋人がいるとかそういう人がいながらも毎日不特定多数の男性と関係を持ってるみたいな事を偽者は投稿してて、更に炎上はしてるよ。

でも、私も本物のアカウントでそれは成り済ましのアカウントで偽者の投稿には根拠はないって言っておいたし、少しは沈静化させられたと思う。もっとも、しばらくは配信もあまり出来なくはなっちゃうんだけど……」

「そうか……それにしても、偽者は本当に許せないな。俺もノドカとは近い立場にいるから尚更許せねぇよ。せっかく、故郷のみんなと再会出来たのに今度はノドカの方がそんな目に遭ってるなんて……!」

「え、故郷の人達と会えたの!?」



 私が驚いていると、ゴドフリー君は微笑んだ。



「ああ。実は昨日に王子達が来てたみたいなんだけど、その時に謎のローブ男が助けてくれたらしくて、そのおかげでみんなも村の全部無事だったんだよ」

「謎のローブ男……一人で王子達を退けたんだとすればだいぶ実力がある人って事だよね?」

「そうなるな。そして今は、キビツヒコノミコト達が見張りをしてくれてて、俺はノドカにマオークの村と開拓地を行き来する手段がないかって相談しに来たんだ。ウチの村にも爺ちゃん婆ちゃんはいるから、遠くまでは歩けないしさ」

「なるほど……あ、それなら良いのがあるよ」

「お、ほんとか?」

「うん。少し前にそれにちょうど良いのがあったはずなの。ちょっと待っててね」



 そう言ってから私はガーデンコントローラーを操作し、ある施設を建設するように選択した。そしてこれまでに貯まっていたポイントを使って私は即完成するようにした瞬間、私達の目の前には鳥居を模した二つの門が現れた。

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