第30話 自覚

 翌朝、朝食を食べ終えた私は学校に行く前に神庭へと来ていた。そして神野和の姿になっている事を確認してから神庭にあるゴドフリー君の家に行ってみると、ドアを開ける前に内側からドアを押し開けてゴドフリー君が姿を見せた。



「あ、ゴドフリー君。おはよう」

「ノドカ、おはよう。昨日はよく眠れたか?」

「うん。昨日の配信もバッチリ……あ、そうだ。昨日の配信で日常について話すのはどうかって新神のみんなに聞いてみたら、すごく喜んでくれたから近い内にやってみる事にしたよ」

「お、そうなのか。良かったじゃないか」

「ゴドフリー君が提案してくれたからだよ。まあ本当にプライベートに関わるような事は話せないけど、これで新神のみんなや新規の人達にも喜んでもらえたらすごく嬉しいな」

「そうだな。配信が盛り上がればノドカも更に色々な事をやりたくなるだろうし、少しずつ自信もついてくるんじゃないか?」



 ゴドフリー君の言葉に対しては私は頷く。



「うん……まだ自信がない事ばかりだし、難しいと思う事も多いの。でも、やり過ぎない程度には色々な事をやってみたいって思うし、もっと色々な人を楽しませられるようになりたい。勉強漬けだった頃の私を元気づけてくれたVTuberさん達のようになりたいんだ」

「俺は良いと思うぜ、ノドカ。まあ、俺としてはここの発展に必要なポイントが増えるからっていうのも正直あるけどさ」

「ここの発展……それはたしかに重要だからね」



 私は周囲を見回した。ちょこちょこと開拓をしながら発展レベルを上げているからか花畑や小川しかなかった神庭も今では魔導書などが収められた図書館やゴドフリー君の特訓用の訓練所、他にも武器を作るための鍛冶屋や製鉄所などの戦いに関する物から果樹園やパン屋さんといった生活に必要な物まで様々な物が増えており、ただの箱庭だった場所から少し小規模な一つの街くらいには発展をしていた。



「本当に発展したよね、神庭も。後はゴドフリー君の開拓地をどうにかするだけなんだけど、どういう風にしたいかっていう希望はある?」

「希望……今のところは無いけど、本当にのんびりと暮らせる場所なら別に良いかな」

「そっか」



 そう言いながら私はガーデンコントローラーのゴドフリー君の顔アイコンをタップし、少し前に追加された共探知シンクロサーチの機能を使用した。


 すると、ゴドフリー君の現在の健康状態などの他に私との正確な距離や神庭での位置、他にも現在の感情などが表示され、そこに嬉しさを示すアイコンが出ているのが見えて私も嬉しくなっていた。



「何だかんだで使ってなかったけど、こんな感じになるんだね」

「お、そうだな。絆レベルが上がった事でこの共探知も追加されたわけだし、これからももっと色々な力が解放されていくのかもな」

「そうだね。でも、後は何が解放されるんだろう……?」

「何だろうな……とりあえずそれは解放されてからのお楽しみにして、今は故郷に向かってまた急いでくるよ」

「あ、そうだね。ごめんね、急ぎたいのに長々と話をして……」

「いや、良いって。急ぎたいのは間違いないけど、あまり急ぎすぎてもまたキビツヒコノミコトに焦りすぎだって言われるだろうし、ノドカと話が出来て本当に良かったよ」

「それなら良かった。それじゃあ……行ってらっしゃい、ゴドフリー君。故郷の人達、無事だと良いね」

「ああ。あ、それと……」

「え?」



 その言葉を不思議に思っていたその時、ゴドフリー君は私の前髪を軽く掬い上げると、緊張する私の額に口を近づけた。



「んっ……」

「……えっ!?」



 額に感じた少し湿り気のある柔らかい感触からキスをされた事を認識し、恥ずかしさと嬉しさから途端に私の顔は燃えるように熱くなった。



「ご、ゴドフリー君!? い、一体何を……!?」

「何って口づけだぞ?」

「だ、だぞって……」

「昨晩、女神様が訪ねてきてな。これはノドカの世界なら好き合う男女は普通にする事だから、それをすればノドカも喜ぶって教えてくれたんだ」

「てぃ、ティアさん……!」



 正直、嬉しさはあるのでティアさんの言葉に間違いはない。だけど、あまりにも不意討ちが過ぎたためにまともな反応も取れなかったし、前髪を上げる度にしばらくこの事を思い出してしまいそうで私は少し不安になっていた。



「う、うぅ……た、たしかに嬉しかったけど……」

「あはは……やっぱり少し恥ずかしいよな。でも、これで今日頑張る分の元気は貯まった気がするし、このまま今日の内に故郷まで帰れるように頑張るか」

「……うん、そうだね。ゴドフリー君、改めて行ってらっしゃい」

「うん、行ってきます」



 そう言った後、ゴドフリー君はガーデンコントローラーを操作して青い渦の中へと消えていき、その姿を見送ってから私はキスをされた額を軽くなぞった。



 された瞬間の感触はもう残ってはいなかったけれど、触れた瞬間にゴドフリー君と間接的に触れ合っているように思えて、私の顔は再び燃え上がったように熱を帯び始める。



「……唇同士じゃないから初キスにはカウントしないけど、まさか先に額にキスをされるなんてね。はあ……ティアさんの入れ知恵には困ったなぁ」



 いきなりのハグと言い額へのキスと言い、ゴドフリー君はあまり疑うという事を知らないのかティアさんからの入れ知恵をすぐに実行しており、される側の私としては正直心臓が幾つあっても足りないくらいだった。



「……でも、この熱さは嫌いじゃないかも。たぶんこれが恋の熱さって物なんだと思うし」



 今の私にとってゴドフリー君は友達以上恋人未満であり気軽にキスをするような関係ではない。けれど、今回の件で私は恋人未満ではなくしっかりとした恋人になりたいんだろうという確信を得ていた。



「……私も頑張って学校行ってこよう。秋緋と顔を合わせるのは少し気が重いけど、ゴドフリー君に釣り合う人間になるためにももっと頑張らなきゃいけないし」



 奥底から漲るやる気を感じながら独り言ちた後、私はガーデンコントローラーを操作し、自分の部屋へと戻っていった。

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