第29話 誓い
「皆様、乙神様です。和神VTuberの神野和でございます」
神庭から戻ってきた後、私はいつものように配信を始めた。今日も視聴者の数は多くも少なくもないといった感じだったけれど、変わらずに観に来てくれる新神のみんなや新しく来てくれた人達がいる事に私は嬉しさを感じながら現在の神庭の事やゴドフリー君の事について話を始めた。
「……というのが、現在の状況です」
『教えに来た王宮魔導師の真意によるよな……』
『たしかに』
『というか、下手したらうまく行かずに死んでたかもしれない中でただ謝られたって本当に自己満足って感じだよな』
『本当にそれな』
『けど、自分でも自己満足みたいな物だってわかってるだけまだマシか』
コメント欄を見ながら私はミラベルさんの事について考えていた。ゴドフリー君を裏切った見返りとして自分の御師匠様の代わりに王宮魔導師となったミラベルさんだけど、そうなるとやはり気になるのは元々王宮魔導師をしていたミラベルさんの御師匠様の安否だ。
ミラベルさんが本当は御師匠様を疎んでいて、ゴドフリー君の事を裏切る事すらも別に何とも思っていないような冷血な人であれば話は簡単だった。でも、わざわざ故郷の危険を報せてくれたりゴドフリー君に対して謝罪をしてくれたりした。それなら、本当はその裏切りにも何か裏があるのではないかという疑問が私の中には生まれていた。
「この先の展開として、ゴドフリー君に対しての裏切りに何か裏があるのではないかと思うのですが、皆様はどう思われますか?」
『裏切りの一件に黒幕がいるって感じか』
『そりゃあ王族だろうな』
『よくある展開ではあるよな。王族が地位や金銭を用いて仲間達に対して裏切らざるを得ない状況を作り上げて、後は結託したり告げ口したりしないように圧をかけておくみたいなの』
『あー、たしかに』
『ゴドフリー君の性格に何かどんでん返し的な物が無い限りは、それが一番あり得る話だよな』
「王族が地位や金銭を……」
たしかにそれが一番あり得る話だ。例えば、ミラベルさんの場合は御師匠様に何か罪を被せてあまり素行の良くない人を王宮魔導師にすると言い、ミラベルさんにゴドフリー君を裏切るなら御師匠様の罪を帳消しにした上で自分を王宮魔導師にすると言えば御師匠様を救いたいと考えて泣く泣く裏切る可能性はなくはない。
そして他の人も同じように大切な物を取られてそれを返す対価として裏切らせたのであればこの一件にも納得がいく。もっとも、本当のところはどうなのかわからないけれど。
「……とりあえず、その件については里帰りの後に明らかになると思われます。その里帰り自体も少し展開が怪しくはなっていますが」
『王子が村を襲おうとしてる件だ』
『その王族が極悪過ぎてまったく笑えない』
『これ、他の国がゴドフリー君を早く見つけて自分達で保護すれば済んだ話だよな』
『ほんそれ。恐らく、一番近場だったのがそこだったんだろうけど、これはあまりにも良くない展開だったよな』
『そんな感じじゃないと追放物にはならないとしてもな。神視点の俺達は物語上のスパイスみたいに出来るけど、本人からすればそれどころじゃないわけだし』
「……そうですね。さて、この件についてひとまずここまでにして、お告げの前に皆様に一つお伺いしたい事がございます」
その瞬間、コメント欄には多くのコメントが流れ始める。
『お?』
『何だ?』
『珍しい展開来たか?』
「これまでこの夜会は皆様のお悩みに対して私がお告げをしたり神庭などの事についてお話をしたりという内容でした。なので、雑談配信というわけではないのですが、時々別枠で日常生活の出来事を話したりそれに対しての皆様からの反応を見させて頂いたりする事を考えているのですがいかがでしょうか?」
少し緊張しながらそれを口にすると、コメント欄には再び多くのコメントが流れていった。
『遂に女神様の日常が聞ける時が来たか!』
『これは絵師達大歓喜』
『絵師だけじゃなくても興味はあったからこれは本当に始まったな』
『つまり、神野和様洋装姿みたいな絵を描いても良い事に……!』
「それはいつでも描いて頂いても大丈夫ですよ。たしかに私は和神VTuberですが、洋風や中華風な物も嫌いではないですし、そういった姿の私の絵もお待ちしていますから」
『公式からのお待ちしています頂きましたー』
『ヤマガミとガンキがアップを始めたようです』
コメント欄に色々なコメントが流れる中、ガンキさんからの投げ銭コメントが表示された。
『この度は公式からのお許しと供給を頂き本当にありがとうございます。ヤマガミと共に私達の女神様の日常についてしっかりと拝聴した上でそれを絵に起こさせて頂きます』
「ガンキさん、ありがとうございます。けれど、無理はなさらないで下さいね? お気持ちは嬉しいですが、無理をなさって倒れられるような事があってはご家族やご友人、そして私も心配ですので」
『はい、もちろんです。ヤマガミ、後で相談タイム。これから色々描いていくよ』
『オッケー!』
『アップどころか既にトップスピードだった件』
『これは楽しみだなぁ』
コメント欄は更に盛り上がり、その様子を見ながら私も嬉しくなっていた。私はこの神野和としての活動についてはもっと盛り上げていきたいと思うし、出来そうならもっと色々な事をやってみたい。
でも、だからと言って常軌を逸した行動をする気はない。そんな事をしてみんなの期待や信頼を裏切るのは良くないし、そんな事をしても誰も喜ばないからだ。だから、これからしっかりと気を付けながら活動をし、ゴドフリー君のサポートもしていこう。それが今の私に出来る事なのだから。
盛り上がるコメント欄に反応をしながら心の中でそう誓い、私は神野和として新神のみんなの悩みに答えていった。
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