第27話 疑念
「……よし、到着っと」
夜、私は夕食と入浴を済ませてから神庭へと来ていた。来た理由はもちろん、日中の出来事をゴドフリー君に話したり逆に里帰りの事について聞いたりするためだ。
黒い空には綺麗な青白い星が瞬いていて、静かな雰囲気の中では髪を優しく撫でるそよ風が吹いていた。
「……良い夜。でも、午後は本当に嫌な目に遭ったなぁ……」
頭の中で本屋さんでの出来事を想起する。前々から秋緋はどこか強引なところがあり、歯に衣着せぬ物言いをする事が多いと感じていた。でも、今日のは幾らなんでもやりすぎだと思う。
こっちがダメだと言っているのに無理やり連れていこうとしたし、その事について謝る様子すらなかった。そして、意外な事にもっと強引にしてきそうな大春さんが先に折れてくれたため、私からすれば秋緋への嫌悪感が更に増す事となっていた。
「秋緋……前まではそんな子じゃないと思ってたけど、色々な人と付き合う中で考え方も変わってきたのかな」
そう考えて少し悲しさを感じていた時、目の前に青い渦が現れ、その中から吉備津彦命様達と一緒に暗い表情のゴドフリー君が姿を現した。
「あ、ゴドフリー君。それに皆さんも」
「……ノドカ」
「ゴドフリー君、どうしたの? 向こうで何かあった?」
「……まあ、な。みんな、今日はありがとうな。明日もよろしく」
「うむ。ではな、ゴドフリー、和」
「ああ」
「あ、はい……皆さん、お疲れ様でした……」
そして吉備津彦命様達が姿を消した後、私はゴドフリー君に近づいて話しかけた。
「それで、どうしたの?」
「……さっき、前の仲間の一人に出会ったんだ」
「前の仲間……もしかして何か酷い事でも言われたの?」
「いや、そういうわけじゃない。むしろ、謝られたんだ」
「謝られた……?」
ゴドフリー君が頷く中、私はその事に疑問を覚えた。ゴドフリー君の話を聞く限りでは、元勇者パーティの面々は自分達からゴドフリー君を裏切り、提示された物や地位を受け取ったという感じで、その事を後悔していないと思っていた。
けれど、謝ってきたという事は少なくとも後悔はしているという事になるし、自分達の行いが悪かったと感じている事にもなる。だとしたら、どうしてそもそもゴドフリー君を裏切りなんてしたんだろうか。
「謝られただけ?」
「いや、故郷が危険な事も報せてきた。俺を追放して自分が勇者になった王子が兵士を連れて俺の故郷であるマオークの村に向かってるみたいなんだ」
「ゴドフリー君の故郷が……!?」
「ああ。だから、急ごうと思ったんだけど、キビツヒコノミコトから加護があっても夜の山道を進むのは危険だし、フラフラの中で戦おうとしても今度は自分が迷惑をかけるだけだからって言われて戻ってきたんだ」
「そっか……でも、私も同感かな。故郷の人達のために急ぎたい気持ちはわかるし、早くしないともしかしたらって焦っちゃうのも仕方ないよ。ただ、その王子や兵士達が今はどこまで来てるのかわからないんでしょ?
だったら、焦ってゴドフリー君自身が怪我をしたり最悪命を落としたりしたら私達だって悲しいし、故郷の人達だって辛い思いをする。だから、今はゆっくり体を休めて明日に繋げよう」
「ノドカ……ああ、そうだな」
ゴドフリー君が落ち着いた様子で答え、その事に私も安心した後、私はふと思い付いた疑問をゴドフリー君にぶつけた。
「ところで、再会した人ってどんな人なの?」
「……ミラベル・クロウ。元は王宮魔導師の弟子で、クロウ家っていう少し位の高い家の出の奴だ。そして、俺があの王様の前で引き合わされた仲間の内の一人でもある」
「つまり、初めの頃からの仲間の一人で、攻撃魔法の担当の人なんだね」
「そういう事になるな。結構気位も高いし、あまり俺達男組に対して扱いも良くなくてな、特に俺に対して厳しい態度ばかり取ってきたよ。ただ、王宮魔導師の弟子というだけあってその実力はたしかでさ、何度もその力には助けられたのもたしかだな」
「そうなんだ……」
「そして今は自分が王宮魔導師になって、アイツの師匠はその座を自ら退いたって話だけど、よくよく考えたらあの人だってまだ現役を続けられるのによく自分の立場をミラベルに譲ったな……」
ゴドフリー君が不思議そうに言う中、私の中にはある疑問が浮かんでいた。
「ねえ、追放される前にその人から話を聞く機会ってあった?」
「え? いや、ないな。挨拶に行こうかなと思ったけど、部屋の前には兵士達がいたし、俺が賊に襲われてもダメだからって外に出る機会も飯を食う時くらいだったし……」
「……もしかしたら、その人ってもう殺されてるか投獄されてるのかもね」
「え、どういう事だ?」
「まだたしかじゃないけど、その裏切りすら本当は裏があって、それを実現させるために邪魔な人は事前に殺されるかゴドフリー君に何も言えないようにされてるかしてるのかも。そもそもゴドフリー君を外に出さないようにしてるのだってなんだかおかしいし」
「安全面の確保のためとは言ってもな……」
「うん。本当の事はわからないけど、とりあえずその辺は探りたいね。まだ生きてるなら助けたいところだし」
私の言葉を聞いてゴドフリー君は真剣な顔で頷く。
「だな。はあ……それにしても、やっぱり勇者ってなんか窮屈なもんだよな。別にあの王族達のやり方を肯定するわけじゃないし、女神様に対して文句を言うわけじゃないけど、勇者じゃなくなって身軽になった分、色々気持ちが楽になった気がするよ」
「色々大変だろうからね。私も今日は少し気持ちが楽になった事があったし、そう言いたくなる気持ちはわかるかも」
「お、そうなのか?」
「うん。それじゃあ今日私の方であった事を話すね」
そう言った後、少し期待するような視線を向けてくるゴドフリー君を前に私は今日の出来事を話し始めた。
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