第25話 再会

「ふう……そこそこ歩いたな」



 日が傾き始め、辺りが少し薄暗くなってきた頃、俺は疲れを感じながら呟いた。昼飯を食べるために一度神庭へ戻り、それからまた歩き始めはしたが、結構な距離を歩いた事で足も張り始めていた。



「……仕方ない、今日はここまでにしよう。みんな、今日はここまでにして一度神庭に戻ろう」

「承知した。皆、本日の行軍こうぐんはここまでだそうだ。夜営の準備を整え、明朝までの見張りの順を決めるぞ」



 キビツヒコノミコトのその言葉に俺は驚き、その肩を思わず掴んでしまった。



「いやいや、皆で神庭に戻れば良いだろ? そうすれば安心だしさ」

「明朝からの行軍はこの場から始まるのだろう? 見たところ、ここは山奥のようだ。ならば、我々がいない間に獣などがここを訪れ、朝から戦闘になる可能性もある。

だが、ここで見張りをしておけば獣なども迂闊には近づけず、ゴドフリーも万全の状態で行軍が可能だ。この手段が今の我らにとって最適なのだ」

「キビツヒコノミコト……」



 キビツヒコノミコトの言いたい事はわかる。俺も仲間がいた頃は変わりばんこで見張りをした事はあるし、それで難を逃れた経験もないわけじゃない。



「けど、そしたらお前達が万全の状態じゃなくなるだろ? たぶんだけど、ノドカはそれを望んでないと思う。だから、お前達も一緒に神庭で休もう。そうじゃなきゃ俺も飯だけ食べてからここで見張りをする」

「ゴドフリー……やれやれ、明朝に眠気との戦いになっても知らぬぞ?」

「そんなのへっちゃらだって。俺だって前は……そう、前は……」



 そう言っていた時、仲間がいた頃を思い出してしまった。俺達は別に小さい頃からの仲というわけじゃなかったし、パーティを組んだ経緯だってバラバラだった。


 けれど、裏切られるまでは良いパーティだと思ったし、俺達なら魔王だって倒せるとすら思っていたのだ。


 仲間に裏切られるまでの出来事を思い出して辛くなっていると、キビツヒコノミコトは小さくため息をついた。



「……とりあえず夜営の準備をするぞ。ゴドフリー、その後に話は聞かせてもらおう」

「キビツヒコノミコト……」

「話しても辛さは全て無くなりはしないだろうが、多少軽くなる事もあるだろうからな」

「……うん、ありがとう」

「礼には及ばん。では、準備を始めるぞ」



 その言葉に頷いた後、俺達は夜営に合いそうな平地を見つけ、薪や座るのにちょうど良さそうな石などを見つけてきた。


 そして日がすっかり暮れ、辺りから虫の鳴き声が聞こえ始めた頃、俺達は持ってきた石に座りながら焚き火を囲んでいた。



「……神庭での危険のない生活も良いけど、こうやって焚き火を囲むのもやっぱ良いな」

「直に火を見るのは悪くないからな。さて、それでは話を聞こう」

「……ああ。俺達のパーティの始まりは俺を故郷から連れ出したあの王都で出会った奴らとの出会いだった。王国の騎士と王宮魔導師の弟子、そして王都の教会のシスターが初めのメンバーで、俺達は準備を終えてすぐに旅を始めた。

最初はやっぱり連携も意志疎通もうまくいかなくて、王宮魔導師の弟子って奴も元々は良家のお嬢様だったからか結構気位も高くて俺達男組はだいぶ手を焼いたもんだよ。シスターもあまり男とは接した事が無いらしかったから、必要な事以外はあまり話さなかったし」

「だが、それでも共に旅はしていたのだな」

「目的は一緒だったし、いつの間にか仲も良くなっていったからな。そして、その内にパーティメンバーや手を貸してくれる奴が少しずつ増えていって、他の国のお姫様やら豪腕の海賊やらが仲間に加わった。そいつらとの旅も色々あったけど、良い思い出になると思ってたよ」

「……そして、宿願を果たせると思っていたその時に裏切られた、というわけか」

「……ああ。本当にあの時は信じられなかったし、哀しかったよ」



 その時の事を思い出して胸の奥が痛くなったけれど、俺はどうにか堪えてから話を続けた。



「最初、俺達は王様達に呼ばれて王都まで戻ってきてたんだ。その頃には魔王まであと少しってところまで来てて、何かあったのかなと思いながら戻ったらとりあえず疲れを癒せって言われてそれぞれ別の部屋に通されたんだよ。今になって思えば、それが王様達の狙いだったんだろうな」

「そして、自身の息子を真の勇者に仕立て上げ、それを世界へ知らしめるべくその邪魔になりそうなゴドフリーの仲間達を様々な方法で裏切らせたわけか」

「実に胸糞悪い話だな……」

「まったくだ。我々の世界や時代にも他者へと寝返る者もいないわけではないが……」

「異世界もその点は変わらないという事だな」

「そういう事だな……そして翌日にはもう俺は偽勇者だって言われて王都を追い出されて、あの僻地に追いやられたんだ。だから、正直もう魔王討伐なんてする気もないし、アイツらとも会う気はない。今さら会ったところで話す事もないしな」

「そうだろうな。そもそも向こうも話すことなど何も──」



 その時、近くから人の気配を感じ、俺達はすぐに武器を抜けるように中腰になった。



「曲者か……吉備津彦命様、ここは我々が」

「いや、今感じる気配は一つだが、他にも仲間がいるかもしれん。一網打尽にされる可能性はあるが、ここは固まってゆくぞ。ゴドフリー、覚悟は……」

「……あれ、この気配って……」

「知っている気配か?」

「知ってるどころじゃない。この気配は前までいつも感じてた物だからな……」



 そう言いながらも武器から手を離さずにいると、俺達の目の前には一人の人物が現れた。



「っ……やっぱり、お前だったのか。ミラベル」

「ゴドフリー……」



 現れた人物、それは王都にいるはずのかつての仲間の一人、ミラベル・クロウだった。

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