第22話 信頼

「……という事があったの」



 その言葉で私は話を締め括る。リビングには私とティアさんの他に私達と向かい合って座るお母さんとお父さんがおり、私はお母さん達と一緒にリビングに来た後、驚くお父さんに対してティアさんを紹介した。


 その後、ティアさんが美人な事もあって少しだけお父さんが鼻の下を伸ばしてお母さんに頭を叩かれるという出来事はあったけれど、私はティアさんを本物の女神様なのだと改めて紹介した上で、ガーデンコントローラーを見せながらゴドフリー君の事や神庭の事についてティアさんと一緒に話をした。


 話している間、二人は話を遮る事なく聞いてくれ、話が終わった後にはちょっとため息はつきながらもすぐに嘘だと怒り出すような事はしなかった。



「……まさか、ウチの娘が本物の女神様と知り合いで、異世界の勇者の女神にもなっていたなんてな」

「正直、不思議な話ではあるし、すぐに嘘か本当か判断出来る事ではないわね」

「そ、そうだよね……でも、これは本当の事で……!」

「ただ、私は疑ってないわよ、勇美」

「え?」



 私が驚く中、お母さんは少し前傾姿勢になりながら私の頭を撫でてくれた。



「貴女が嘘をつけない性格な事も本当に真剣な時には私達の真っ直ぐに見て話す事も知ってる。VTuberの件で話をしに来た時も今回だってそうなんだもの。ティアさんは本物の女神様で、貴女はその神庭っていうところで実際に神野和っていう女神様になって頑張ってるんだと思ってるわ」

「お母さん……」

「それに、お父さんとも話してたのよ? 勇美が前よりも楽しそうだし、そのゴドフリー君の事を話す時はなんだか嬉しそうだって」

「そ、そうだったの?」

「ああ。まあ海外の友達、それも今まで男友達を作ってこれなかったのに男友達なんて中々出来るもんじゃないから嬉しかったんだろうって思ってたんだが、まさか海外どころか異世界の上に相手が勇者だなんてな……」

「お父さん、いつか恋人ですって紹介されたらどうしようなんて言って心配してたのよ?」



 お母さんがクスクス笑う中、私は恋人という言葉を聞いて顔が少し熱くなるのを感じた。すると、お父さんとお母さんは顔を見合わせ、お母さんが少しニヤつく中でお父さんは慌てた様子を見せた。



「ま、まさかもうそこまで関係が進んでるんじゃ……!?」

「そ、そこまでは行ってないよ! 一応、友達以上恋人未満っていうところではあるけど……」

「あらあら。でも、それだけその勇者君の事は気に入ってるのね?」

「……うん。辛い状況でも頑張ってる姿を見てたらやっぱり応援したくはなるし、手の感触とか武器の素振りをしてる時の気迫とかは男性的でちょっとドキドキするし……」

「そ、そうか……はあ、本当にすぐってわけではなさそうだが、まさか異世界の男にウチの娘が貰われていく事になりそうだなんてな……」

「ゴドフリーさんの性質は私も保証しますよ。そして、ご両親をエリクシオンへはお連れ出来なくとも神庭までならご招待でき、ゴドフリーさんとも引き合わせる事は可能ですが、いかがしますか?」

「う……いざすぐに会えるとなるとなんだか緊張するな……」



 お父さんが緊張する中、お母さんはお父さんを見ながらため息をついた後、少しからかうような顔で私を見始めた。



「近い内に顔合わせはさせてもらうわよ。今はゴドフリー君も忙しいみたいだしね」

「あ、うん……今は故郷の様子を見に行くために私が紹介した神様達と一緒に旅をしてるからね」

「神様を紹介するっていうのも中々スゴい話だよな。でも、ただ設定がどうのじゃなくお前が神野和として頑張ってきたから、みんな力を貸してくれてるんだと俺達は思ってる。別に収益化した後の投げ銭は自分のお小遣いにしても良いって言ったのに、視聴者に予め断った上で家にも入れてくれてるしな」

「だって、投げ銭の事だけじゃなくVTuberの事だってお母さんとお父さんが続けても良いよって言ってくれたから私はこうして続けられてるし、こんな不思議な出会いにだって恵まれたんだよ。だから、これまでの恩返しみたいな物だよ」

「勇美……」

「お父さん、お母さん、これからも神野和としてゴドフリー君のサポートや神庭、そしてゴドフリー君が新しい村にしようとしてる土地の開拓の手伝いをさせてください。お願いします」



 私は静かに頭を下げる。そして頭を下げ続ける中、頭上から二人のため息が聞こえ、やっぱりダメかと思っていると、お母さんの優しい声が聞こえてきた。



「良いわよ」

「え……?」

「これまで勇美は自分のやりたい事よりも私達の事を優先してきたし、VTuberを始めるまでは趣味らしい趣味なんてまったく作らずに来た。でも、今はそれが勇美のやりたい事で、それを楽しみながらやれている。だったら、私達は止めないわ。少し心配なところはあるけど、勇美なら判断を誤らないと思うしね」

「お母さん……」

「俺も同意見だ。だが、その……あれだ。例の勇者と正式に恋人になったり向こうがそれ以上の事を求めてきたりしたらその後はちゃんと俺達に言うんだぞ?

べ、別に勇美が良くて色々考えた上なら止めろとは言わないが、勇美だって俺達の大切な娘でまだ未成年でもあるんだから、それをちゃんと管理する必要が俺達にはあるんだからな!」

「あら、まだお互いに未成年で付き合いたての時にちょーっと私がその気があるように見せたらすぐに食いついてきてそのまま……って事をしてきた貴方がそれを言えるのかしら?」

「お、おい!」



 お父さんが焦った様子を見せ、話の内容を理解して私が気恥ずかしくなる中、ティアさんはそんな私達の姿を見て静かに笑った。



「本当にとても仲のよろしいご家族なのですね。お母様、お父様、話を聞いて頂けた事、そして勇美さんの活動を認めて下さった事、本当に感謝いたします」

「いいえ、私達こそティアさんには感謝しているから。これからもウチの娘の事をよろしくお願いします」

「ティアさん、よろしくお願いします」

「こちらこそ今後ともよろしくお願いします」



 ティアさんと両親は揃って頭を下げあい、私はその光景を見て幸せな気持ちになっていたが、それと同時にこれからも頑張らないといけないという気持ちにもなっていた。



「……頑張ろう」



 拳を軽く握りながら私は小さな声で独り言ちた。

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