第21話 邂逅
「ん……」
ふわりと何かの匂いを感じて私は目を覚ました。まだ少し眠気が残る頭のままで身体を起こし、軽く周りを見回してみると、そこは見慣れない場所だった。
「ここは……あ、そうだった。私、神力を使いすぎたから、疲れてそれで……」
眠りにつくまでの出来事を思い出し、私はボーッとしていたが、ある事が頭に過りハッとした。
「じ、時間は……!」
枕元に置かれていたガーデンコントローラーを引き寄せ、私は時間を確認する。時間自体はまだ午前中であり、そんなに騒ぐような時間ではなかったが、私はある事が気になって仕方なかった。
「お母さん達、もしかして私がいなくなってるのに気付いて心配してないかな……」
私がここに来た時は朝食後すぐだったため、お母さん達に出掛ける旨は当然伝えていない。なので、お母さん達からすれば私は今も部屋にいるはずで、出掛けた様子もないのに部屋に私の姿がないとなれば何かあったんじゃないかと思うのは至極当然の事だった。
「どうしよう……とりあえず早く戻ら──いや、事が起きた後に戻ったとしても説明をどうすれば……」
事態の収拾やお母さん達への説明について考えていたその時、部屋のドアがノックされ、ドアを押し開けながらティアさんが入ってきた。
「おはようございます、和さん」
「あ、ティアさん……」
「お加減はいかがですか?」
「はい……少し眠ったからか疲れも少し取れ──じゃなかった! ティアさん、どうしましょう!? お母さん達からすれば私はいきなり消えた事に……!」
「落ち着いてください、和さん。まずはゆっくり話してください」
「は、はい……」
私は息を大きく吐いて少し気持ちを落ち着けてから焦っていた内容について話をした。
「──という事なんですけど」
「なるほど、そういう事ですか……」
「どうしよう……私がもっと神力の使い方を気をつけていたり向こうに戻って寝たりしてればこんな事には……」
「いえ、これは私の責任でもあります。ここで休めさせようと考えたのは私ですし、前々から和さんのご両親には和さんにご迷惑をかけている事をどうにかしてお知らせしようと思っていました。なので、私も参りますのでご両親にだけは全てを打ち明けましょう」
「全てを……でも、大丈夫でしょうか……」
「非現実的な話ではあるのですぐには受け入れてもらえないと思います。ですが、私も懇切丁寧にお話はします。なので、まずはご両親にもお話をしてみましょう」
「ティアさん……」
ティアさんの言う通りだ。これは私のVTuber活動のような現実的な話ではないから、二人だってとても困惑すると思う。
でも、ガーデンコントローラーを見られたら話さないといけない事ではあったし、それが今日になっただけではあるのだ。
「……わかりました。色々不安はありますけど、頑張って話をしてみます」
「はい。では、早速参りましょう。ご両親が心配なさっているかもしれないならば、早くお会いした方が良いですから」
「そうですね。あ、そういえば……もしも話を聞いた上で両親からゴドフリー君の件について反対されたらどうしましょうか。私個人としては止める気はないですし、止めたくはないですけど……」
「そうですね……私としても和さんにはこのままお手伝いをして頂きたいですが、それはその時になったらお話をしましょう」
「わかりました」
私が頷くと、ティアさんは微笑んでから壁に向けて手を伸ばした。すると、私達の目の前にはいつもの青い渦よりも大きな物が現れた。
「これで二人一緒に移動が出来ます。和さん……いえ、三神勇美さん。準備はよろしいですか?」
「……はい」
頷いた後、私はベッドから体を出し、その横に立った。そしてティアさんと一緒に渦を潜ると、すぐに私の部屋へと移動していたが、そこにはお母さん達の姿はなかった。
「お母さん達は……たぶん、リビングにいると思います」
「わかりました。それにしても……いつもここで配信をなさっているんですね。いつもお疲れ様です」
「私がやりたい事ですから。それに、勉強漬けで疲れてた私を癒して今みたいな生活を送らせてくれた色々なVTuber達のように私も誰かの助けになれたらと思ってるので、そう簡単には止めたくないと思ってます」
「ふふ、とても素晴らしいと思いますよ。そんな貴女だからこそ私もゴドフリーさんのサポートをお願いしたいと思ったわけですから」
「ありがとうございます。さて……それじゃあそろそろお母さん達のところに──」
その時、部屋のドアが開き、お母さんが中へと入ってきた。その姿は特に不安がっていたり悲しんでいたりしているようには見えず、私が不思議に思っていると、お母さんは私に気付いた様子で声をかけてきた。
「あら、おはよう」
「お、おはよう……って、あれ? さっきまで私いなかったんだけど、もしかして気付いてなかった?」
「そうなの? ご飯の後にすぐに引っ込んだし、また配信関連で何かあるのかなってお父さんと話してたから、邪魔しないようにしてたわよ。でも、そろそろおやつだし、呼びに来たんだけど……その人は?」
「あ、この人は……って、全然心配してないんだったら、私の不安は何だったの……」
緊張がほどけた事で私がへたりこんでいると、お母さんが不思議そうにする中でティアさんがクスクス笑い始めた。
「勇美さん、これで一安心ですね」
「そうですけど……これで、私が誰かにこっそり拐われてたらどうしてたんだろうって不安になりましたよ」
「その時はちゃんと探すわよ。大切な娘の事だもの」
「お母さん……」
「それで、その人はどなたなの? 誰かいらっしゃったようには聞こえなかったし、窓から来たようにも見えないけど……」
お母さんが室内を見回す中、私は大きく息を吐いて気持ちを落ち着けてから返事をした。
「お母さん、大事な話があるの。だから、お父さんと一緒にリビングで聞いてほしいの」
「……わかったわ。だいぶ大切な話みたいだしね」
「ありがとう」
「どういたしまして。それじゃあ行きましょうか、えーと……」
「ティア、とお呼びください。勇美さんのお母様」
「ティアさんね。それじゃあ改めて行きましょうか、勇美、ティアさん」
その言葉にティアさんと一緒に頷いた後、私達は部屋を出て、そのままリビングへ向けて歩き始めた。
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