第20話 降臨

「ティアさん……もう、ティアさんまで驚かせないで下さいよ……」

「ふふ、すみません。ですが、和さんなら良い反応をして下さると思ったので」

「そういう信頼はあまりいらないんですが……まあ良いか。でもちょうど良かったです。ティアさんと色々話がしたかったので」

「開拓地の件と王都の件ですね。開拓地の方は私が向こうの世界に色々持っていけますし、王都の件についてもその作戦さえ教えて頂ければそれを実行出来ますよ」

「え、でもたしかティアさんは向こうの世界にあまり干渉出来ないんじゃ……」

「自分だけの力で私怨で一国を滅ぼしたり人々の生き死にを自在に操ったりしなければ問題ありませんよ。これはあくまでも和さんの力で行う事なので、私の力が介入するのは世界間の移動のみですしね」

「中々ズルい言い方ではありますけどね。でも、それは助かります。私はエリクシオンに行けないので、任せてと言ったは言いものの、どうしようかなとは思ってたので」



 ティアさんの話を聞いて私はホッとしていた。今のところ、お互いの世界には行き来出来ないため、ゴドフリー君とはここでしか会う事も出来ず、お互いの世界にも基本的には干渉が出来ない。


 だけど、ティアさんの力を借りればそれが可能になる。私達の世界を行き来出来て、女神様という存在だからこそこっそり色々な事も出来るからこそ、ゴドフリー君を裏切った人達に対して気付かれずに復讐する事も出来るのだ。



「ただ、復讐の方法についてはまだちゃんとは思い付いてないので、とりあえず開拓地の方をお願いしても良いですか?」

「はい、もちろんです」



 ティアさんの返事を聞いた後、私は神力を使いながら開拓に力を貸してくれそうな神様達を思い浮かべた。すると、神庭には昔風の格好をして鍬や種籾などを持った何人もの男女が現れ、その中にいた数人の姿に私は再び驚く事となった。



櫛名田比売くしなだひめ様に瓊瓊杵命ににぎのみこと様、それに瀬織津姫せおりつひめ様に天目一箇神あめのまひとつのかみ様まで……」

「呼び声に応えて参上しましたよ、現代に生きる若き女神」

「他の神々も来ようとはしていたが、あまり多くても仕方がないからな」

「一先ず、貴女が思い浮かべた私達だけが来たというわけです」

「呼ばれた以上、しっかりと務めは果たすぞ」

「皆さん……」



 来て下さった神様達の姿に私は感謝しかなかった。櫛名田比売様は八岐大蛇やまたのおろち伝説で広く知られている建速須佐之男命たてはやすさのおのみこと様の配偶神で、瓊瓊杵命様は配偶神の木花咲耶姫このはなさくやひめ様との様々な逸話が有名な男神で、どちらも農耕神として私は頭に思い浮かべた。


 続いて、瀬織津姫様は神道においてはらいを司る祓戸大神はらえどのおおかみの中の一柱で、九州以南では海の神ともされている水神すいじん様で、天目一箇神様はお面でお馴染みのひょっとこの原型ともされている日本神話に登場する製鉄や鍛冶の神様だ。



 そんな皆さんが目の前にいる事実は本当にスゴい事であり、本来はただの人間である私では一生出会う事すら無かったはずだったため、私は結構感動していた。



「こんな事が生きてる間に起きるなんて……」

「貴女が望めば他の神々にも会う事は出来ますよ。日本の様々な神話における神々の力を用いて産み出された女神という設定を持つ貴女には皆が興味を持っていますから」

「あ……す、すみません……! 勝手にそんな設定を作ってしまって……!」

「謝る事はない。現代で我らのような神や妖のたぐい、不可思議な現象に興味を持つ人間は確実に減っており、名のある神々でも以前より信仰される機会は減っているのが現状だ」

「その中で貴女はそういったモノに興味を持ち、見識を深める中で神々の名などを数多の人間達に伝えてくれている。それは本当に嬉しい事なのです」

「どんな神であろうとも信仰を失い、忘れられていけばそのまま廃れ、やがては消え行くしかない。神野和よ、お前は我々を救ってくれているのだ」

「私が皆さんを……」



 その言葉は水のように私の中にスーッと染みていき、嬉しさとありがたさで涙を流しそうになっていた。そして来て下さった皆さんに対して感謝を述べようとしたその時、私の身体は一瞬ぐらりと揺れ、ティアさんはすぐに私の身体を支えてくれた。



「大丈夫ですか?」

「は、はい……やっぱり神力を使いすぎたんでしょうか……」

「そうですね。これより前に吉備津彦命やその家臣達も呼び寄せていますし、まだ幼く未熟な貴女の身体では限界が来ているのでしょう」

「とりあえず今は休んでおけ。今日は学舎に行く日なのか?」

「あ、いえ……今日はお休みです……」

「それならば、ここからは私達や連れてきた従者達に任せ、貴女は心身を休めるようにして下さい」

「無理をしてしまっては心配する者も出てくるのだからな」

「わ、わかりました……すみません、皆さん……」



 申し訳無さを感じながら言うと、皆さんは笑みを浮かべながら首を横に振り、ティアさんは私の身体を支えながらゆっくりと歩き始めた。



「今はゴドフリーさんのお家を一時的に借りましょう。貴女が休むためだったと言えば、ゴドフリーさんも恐らく許して下さると思いますから」

「ティアさんも本当にすみません……」

「良いんですよ。さあ行きましょう」

「はい……」



 視界が少し霞む中で答えた後、私は支えられながらゴドフリー君の家へと向かった。そしてゴドフリー君の自室と思われる部屋に運ばれた後、私はベッドの上に優しく寝かせられ、安心感の中で静かに眠りにつき始めた。

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