第18話 信頼

「皆様、乙神様です。和神VTuberの神野和でございます」



 ゴドフリー君から里帰りの出発を告げられた夜、私はいつものように神野和として配信を始めていた。始まると同時に新神のみんなからのコメントが流れ始め、その多さに私は嬉しさを感じていた。



「本日もお越し頂きありがとうございます。さて、まずは神庭の現状についてなのですが、ついにゴドフリー君が里帰りをする事になりました」

『ついに里帰りイベントかー』

『けど、道中の安全は出来る限り確保してるし、余程の事がない限りは大丈夫だろ』

「道祖神様のご加護もありますからね。そして、出発前にもう一柱のご加護を授ける事になっているようなので、里帰り自体は問題ないと私も考えています」

『もう一柱……戦いの事を考えて戦神かな?』

『日本神話にも戦神や軍神って結構いるからな』



 コメント欄が盛り上がりを見せる中、私はもう一つの報告をするために口を開いた。



「そしてご報告がもう一つございまして、ゴドフリー君とノノカの仲が進展しました」

『おお!?』

『完全にゴドフリー君とノノカ様のルート入ったか』

『これで勇者パーティの中に実はゴドフリー君を好きだった奴いてもどうにもならなくなったな』

『いても今さら仲良くなるとか無理そう』

『どの面下げてって感じだしな』

「勇者パーティの中に……」



 それを聞いて私は勇者パーティの事を考え始めた。お金や地位で釣られて裏切ったとはいえ、中には女の子だっていたはずで、新神のみんなが言うようにもしかしたら実はゴドフリー君の事を好きだった人もいたかもしれない。


 もちろん、裏切ったのはよくないし、ゴドフリー君も今さら仲良くなろうとか告白を受けようとかはしないと思う。それだけの事を彼はされたのだから。



「勇者パーティの中にゴドフリー君を好きだった人がいたとして、その方はどのような気持ちで裏切ったのでしょうね」

『そこに関してしっかりとした事は流石にわからないですね』

『ゲームの中の話だから制作者しかわからないな』

『無理やり裏切らされるっていう可能性はあるけど、裏切った事実は変わらない。どんな理由があれど裏切った事で受けた心の傷をソイツが癒すなんて事は出来ないと思う』

『癒すのはノノカの役になったしな』

「……そうですね。今後も二人の事については見守っていこうと思います」



 コメント欄に流れるコメントを見ながら話していた時、突然流れてきたヤマカミさんからのコメントが目に入ってきた。



『神野和様、先日お話ししたゴドフリー君とノノカ様のファンアートの進捗は順調です。そしてゴドフリー君と神野和様のファンアートも』

「……え、私とゴドフリー君のもですか?」

『お、これは期待するしかないな』

『そういえば、絆レベルってあれから上がりました?』

「あ、はい……一応、20まで上がって関係も友達以上恋人未満という物に」

『おっと?』

『これはエンディング辺りで和様追加されてのゴドフリー君ルートの可能性もあるのか?』



 更にコメント欄が盛り上がり始め、それに困惑しながら私はどうにかしようと思いながら口を開いた。



「喜んで頂いているのはありがたいのですが、たとえ私を模した登場人物だったとしても、その登場人物とゲーム内の登場人物が恋仲になるのは問題ないのですか? 一般的に配信者や動画投稿者というのは、異性の影がある事を視聴者やファンから嫌がられる物だと思っていましたが……」

『もちろん、一般的にはそう。ガチ恋勢もいるから、匂わせや完全な証拠が出た時点で荒れ始める』

『そういう奴らからすれば、自分がこれまで応援してきたのに裏切られたって感じだからな。たしかに裏で視聴者やファンを扱き下ろしてる奴もいるかもしれないから、そういうのを考えたら裏切りではあるけど』

『けど、ここはそういうので発狂する奴はいないもんな。これまで和様には黙ってたけど、新神限定のファンクラブ作って、そこで色々な話をしてたわけだし』

「そ、そうだったのですか!?」



 想像もしていなかった事実に驚いていると、ヤマカミさんとガンキさんのコメントが流れてきた。



『因みに、私達がそこの管理人をしてますよ!』

『民度も申し分なく、神野和様がどのようなお相手と交際して欲しいかという話も前々からしているので、本当に好きな相手が出来たらそれはそれで問題ないです』

『年齢や登録者数が理由で収益化出来なかった頃から私達は貴女の頑張りを見てきましたしね。だから、その時には発表配信をしてもらえたら嬉しいです。お相手によりますけど、その時にはしっかりと祝福しますから』

「皆様……」



 嬉しかった。そこまで新神のみんなから想われ、信じてもらえている事が本当に嬉しかったのだ。世間で人気のあるVTuberに比べたら私なんてやっぱりまだまだで、もっと色々楽しませられたなと改善点を思い付く事だって少なくない。


 けれど、みんなはそんな私の配信でも楽しんでくれている上にもし誰かと交際を始めてもそれはそれで良いという考えを持ってくれている。それはやっぱり中々無い事なのだ。



「皆様、本当にありがとうございます。今はまだそういった方はおりませんが、もしも出来た際にはしっかり皆様にご報告させて頂きますね」

『わかりました』

『交際開始の報告配信、今から視聴待ちしないと……』

『それは気が早すぎ』

『ただ、その気持ちはわかる』

『これでリアルゴドフリー君来たら世界がヤバイな』

『それは本気で期待したいな』



 コメント欄が私の交際開始報告配信の話で盛り上がる中、私はクスリと笑ってから再び話し始めた。



「さて、それでは神庭や私の事についてはここまでにして、本日も皆様のお悩みに対してのお告げをして参ります」



 その言葉と同時にコメント欄には新神のみんなからのお悩みなどのコメントが流れ、私は改めて神野和としての気持ちに切り替えながらそれらに答えていった。

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