第17話 関係の進展

「ノドカ、大事な話がある」



 ある日、ゴドフリー君の家のリビングで真剣な顔でゴドフリー君がそう言った。その言葉が飛び出してきたのは、定期的に神庭で行っているゴドフリー君の里帰りや開拓生活の相談会の途中であり、真剣な顔とその言葉の内容から恋愛物の告白シーンのように思えて私はドキドキしてしまった。



「だ、大事な話って……?」

「……俺、明日には故郷には行ってみようと思うんだ」

「明日……それじゃあゴドフリー君的には準備は万全になったんだね」

「そうだな。この神庭の生活のおかげで少しの旅程度なら大丈夫なくらいになったし、俺にはこれもあるからな」



 そう言って服の下から取り出したのは、私が前に渡しておいた道祖神の加護があるペンダントだった。



「そのペンダント、ずっとつけててくれたんだ」

「ああ。水にも強いみたいだしつけてるとなんか安心するからつけてたんだ。ノドカ、良い物を本当にありがとうな」

「ううん、私がやりたくてやった事だから。でも、正直ビックリしちゃったよ」

「ビックリってなんでだ?」

「いや、大事な話があるって真剣な顔で言うから、向こうの世界にある恋物語の告白の場面を思い出しちゃって」

「あはは、なるほどな。でも、恋愛か……俺には縁がない話だな」

「え、そうなの?」



 その言葉は結構意外だった。私から見てもゴドフリー君はイケメンと言われる方だし、故郷にも同じくらいの歳の女の子はいるだろうから、恋人とまではいかなくとも仲の良かった子くらいはいるんじゃないかと思っていたからだ。



「好きな子も仲の良かった子もいなかったの?」

「そういう意味で好きな奴はいなかったな。歳が近い異性はいたけど、俺は同性の奴と遊ぶ事が多かったし、他の奴の方が異性人気が高かったから、俺なんてたぶん眼中に無かったよ」

「そっか……こっちの世界に来れば、ゴドフリー君は結構人気出そうだと思うけどなぁ」

「ありがとうな。でも、異性で好きな奴って言うなら、俺はノドカだな」

「……え!?」



 その突然の言葉に驚くと同時に再び心臓がドキドキしていると、ゴドフリー君は明るい笑顔を浮かべた。



「だって、色々な事を知ってるからか話してても飽きないし、ここまで一緒に協力する中でそういう関係になるならノドカが良いなって思ったんだ。やっぱり、恋人になってもらうなら一緒にいて楽しい方が良いだろ?」

「それは……まあそうだね。私の向こうの友達の一人は恋愛を遊び感覚で考えてるみたいだけど、私だったらちゃんと相手の事を好きになって、その人とずっと一緒にいたいと思うよ」

「だよな。なんかこういう話をしてるとちょっと考えちゃうよな。本当に俺達が恋人同士になってそこから夫婦になって子供が出来て、この神庭で穏やかに暮らしながら最期まで一緒にいる。そんな光景を」

「ここでゴドフリー君達と……」



 たしかにその人生は良いかなと思う。私もこのまま付き合いを続けていくならゴドフリー君が良いのかなと思うし、この神庭という環境はスローライフにはピッタリな気がする。


 現状、ここでしかゴドフリー君とは会えないので普段は各々の世界で暮らして、今のように夜などに時間を作って会うという形にはなるけど、それはそれでロマンチックなのかなとも感じていた。


 そんなゴドフリー君とのこれからについて考えていたその時、ゴドフリー君は良い事を思い付いたような顔をした。



「そうだ。ノドカ、俺が故郷から帰ってきたら、お前に告白しても良いか?」

「こ、告白!?」

「ああ。俺さ、故郷のみんなもあの開拓予定地に呼びたいんだよ。そして新しい村を作ってノドカには俺達の村の女神を任せたいし、俺にとって大切な存在だってみんなにも教えたいんだ」

「私がゴドフリー君達の村の女神……」

「今だってそっちの世界の奴らにとっての女神だし、俺にとってもノドカは女神であり大切な相棒だ。だから、ここらで俺達の関係も一つ上のステージに進めたい。さっきも言ったように最期まで一緒にいるなら俺はノドカの方が良いからな」

「ゴドフリー君……」

「ノドカはどうだ? もしも向こうの世界に誰か好きな奴がいるならそれでも良いけど」



 そのゴドフリー君の言葉に私は静かに首を振る。



「ううん、いないよ。それに、学校のみんなからもそういう目で見られる機会は無いだろうしね」

「そっか。こういうのもあれだけど、お前の世界の男達の目って結構節穴なんだな」

「世間的に好かれやすい女の人のイメージと私が合致してないからね。だから、私もゴドフリー君が良いなら最期まで付き合うよ」

「……ああ、ありがとうな。よし……これでよりやる気も出たし、頑張って里帰りをするかな」

「うん。あ、そうだ……明日って朝ごはん食べたら出発するんだよね?」

「ん、そうだけど……どうかしたか?」



 不思議そうなゴドフリー君に対して私は“ある神様”を思い出しながら頷く。



「ちょっと旅のお供になってくれそうな人を思い出したから、明日の出発前に教えて。ここに来てその人達を紹介するから」

「旅のお供か……ああ、わかった。ノドカの紹介なら信用出来そうだ」



 そう言いながらゴドフリー君が笑っていた時、私達のガーデンコントローラーが光り始めた。何があったかなと思いながら確認すると、ここまで10くらいまで上がっていた絆レベルが20になっており、関係性も友達から友達以上恋人未満へと変化していた。



「絆レベルが上がってる……」

「お、みたいだな。さっきのやり取りで上がったみたいだけど……ん、何か他にも書いてるな」

「本当だ。えっと……共探知シンクロサーチ?」

「共探知はお互いの位置や心境の変化を確認する事が出来る力であり、顔アイコンをタップして共探知を使用するをタップすればそれ用の画面へと移動するって書いてるな」

「それじゃあガーデンコントローラーさえあれば、お互いの事がもっとわかるようになったんだね」

「そういう事だな。さて……ノドカ、これからは友達以上恋人未満って関係としてよろしくな」

「うん、こちらこそよろしくね」



 ガーデンコントローラーを一度置いた後、私達は固く握手を交わした。前まではゴツゴツとしていて男性的な感じの手だという印象だったけれど、友達以上恋人未満になったからか握られていると安心する物へと変わっており、私達は握手を交わしながらお互いに安心したような笑みを浮かべた。

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