第16話 友達

 ティアさんからのお願い事をされてから数日後、お昼休みの教室で私はそれをどのようにやるかについて頭を悩ませていた。


 神庭の発展や僻地の開拓、そしてゴドフリー君の里帰りの準備などは着々と進んでいて、ゴドフリー君の生活水準も確実によくなっていた。


 だからこそ、ゴドフリー君を裏切った人達への仕打ちもそうだけど、防衛策をどうするか考えないといけないのだ。



「えーと……僻地の現状は畑が幾つか出来てて、近くの川からも水を引けている状況。後は果実の木も植える予定だから、それの邪魔にならないように柵で囲って……」



 空いている紙とペンを使って私は少しずつ防衛計画を図にしていく。


 発展レベルが10くらいにまで上がった事で、神庭で製造出来る装備の種類も上がり、武器に特殊能力を付与する施設も建設出来るようになっていた。だから、ゴドフリー君の実力も併せれば、並大抵の相手くらいになら決して負けはしないだろう。


 ただ、向こうは大群で来る事が予想されるし、かつての仲間達もいる事から、多勢に無勢で負けてしまう恐れはある。そうなると、一緒に戦ってくれる仲間が少しでも欲しいところなのだ。



「仲間……そうなると、神野和としての力の中で何か良さそうな物を見つけて、その時に一緒に戦ってもらうしか……」



 そう考えて誰か良い神様はいなかったかと考えを巡らせていたその時、机に何かがぶつかり、ハッとしながら顔を上げた。すると、そこには岩永さんがおり、岩永さんはやってしまったという顔をしていた。



「ごめんね、三神さん。大丈夫だった?」

「あ……うん、大丈夫。ビックリはしたけど、別にどこかにぶつかってはないから」

「そっかぁ、それなら良かったけどさ。あれ、そういえば木浦は? よく一緒にいるとこを見かけるけど、友達なんでしょ?」

「秋緋は新しく出来た彼氏さんのところに行ってるよ。秋緋が言うには、今回のも冴えないけど、多少は楽しめそうなんだって」

「冴えないけどって……木浦、恋愛を遊び感覚でしてるんだ。うわ……三神さんの前で言うのもあれだけど、なんか嫌な感じ……」

「あはは……私も秋緋のそういうところは良くないんじゃないかと思ってるからね。もっとも、私には恋愛なんて縁はないし、異性として好きになってくれる人もいないんじゃないかな」



 その言葉に岩永さんは驚いた顔をする。



「えー、そうかな? たしかに男子と話してても三神さんの話題ってあんま出ないけど、アタシ達からすれば三神さんはちゃんとメイクやファッションに気を遣えば結構人気高そうって感じするよ? 元が良い感じなんだし、それを更に良くしていこうよ」

「元が良いって……私が?」

「そう! その長い黒髪もサラサラでお肌もモチモチな感じ、体型だってちょっと痩せすぎかなと思うくらいだし、今だってアタシとしっかり話せてるわけだから、きっと今にも男子達からの引く手あまたって感じになるよ」

「あはは……だったら、良いんだけどね。それにしても、岩永さんはスゴいね。そうやって人の良いところをしっかりと見つけられてるし、話し方だって嫌な感じがしないし」

「ありがと。けど、さ……アタシだってある人のおかげでそうなったとこがあるんだ」

「ある人?」

「うん。その人は……なんというか、現実にいるんだけど現実にはいないっていうか……」

「えっと……もしかして、VTuber的な人とか?」



 その瞬間、岩永さんの表情は確実に明るくなった。



「そう! 前までアタシもなんだそれくらいの気持ちだったんだけど、その人に出会ってからはもう激ハマりしちゃって!」

「そ、そうなんだ。でも、そういう相手が出来るのってやっぱり良い事だと思うよ。自分が感銘を受けるような言葉があったって事は、その人が岩永さんにとって相性の良い人だったわけで、その人との出会いが岩永さんにとって良い影響を与えてるのは見ててわかるから、その人との繋がりは大事にした方が良いって感じるかな」

「三神さん……」

「なんて私の言葉なんかじゃ参考にならないかもしれないけど」

「……ううん、そんな事ないよ。三神さんのその言葉もなんかアタシの中にスーッと染みてく感じがするから。やっぱり三神さんはスゴいよ」

「そ、そんな事……でも、ありがとう。私、自分にあまり自信がなかったけど、少しだけ自信がついた気がするよ」



 私のその言葉を聞いて岩永さんは嬉しそうに笑った。



「それなら良かった。あ、そうだ……ねえ、まだ連絡先交換した事無かったよね? これも良い機会だし、連絡先交換しよーよ」

「連絡先……うん、もちろん良いよ」

「やった! えっと、ちょっと待っててね……」

「うん……って、その待ち受けは?」



 何か見覚えのある物がチラリと見えた気がし、私が問いかけると、岩永さんは嬉しそうに笑いながらそれを見せてくれた。


 すると、それはVTuberとしての私である神野和の絵であり、画風的にヤマカミさんが描いた物だとすぐにわかった。



「い、岩永さん……これは?」

「この人がアタシが激ハマりしてる人だよ。神野和っていう名前で、日本神話の神様が作り出した新米女神っていう設定があるんだ」

「へ、へえー……この絵は自分で描いたの?」

「ううん、その話が出来る友達がいて、その子が描いたのを貰ったんだ。普段は中々話す機会がないけど、絵も上手くて話してて楽しい子だよ」

「そうなんだね」

「そして三神さんも今日からはその一人だよ……っと、出た出た。はい、これがアタシの連絡先だよ」

「あ、うん」



 岩永さんが出してくれた連絡先を見ながら自分の携帯電話に打ち込んだ後、私も連絡先を岩永さんに教え、それが終わると岩永さんは嬉しそうな顔をした。



「って事で、改めてこれからよろしくね、三神さん」

「うん、こちらこそよろしくね、岩永さん」



 笑みを浮かべる岩永さんに対して私も笑いながら答えた。私にまた一人出来た数少ない友達、それは新神の女の子だった。

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