第15話 対話

「……というのが、現在の神庭の状況です」



 配信画面を前に私は静かに言う。配信を開始した後、私は現在の神庭の状況、そしてティアさんからお願いされた事をゲーム内のイベントという体で話した。その間、視聴者さん達は相づちくらいしかコメントをせずに聞いていたけれど、話が終わった瞬間に色々なコメントがコメント欄に流れ始めた。



『いわゆるところのざまぁ展開って奴だな』

『たしかにそれくらいは許される』

『正直、その展開は胸熱だしスカッとする』

『激しく同意』

「もっとも、私自身が行うというわけではなく、私を模した登場人物が行うといった形のようですけどね」



 そう、実際は私がどうにかするのだが、視聴者さん達にはティアさんが作品内で登場させている新米女神がどうにかすると話しているのだ。


 その名前はノノカ・ミカド。エリクシオンを管理する女神が産み出した新米女神で、まだ少し力も足りなく、ドジを踏む事もあるけれど、やる気だけは人一倍あるという設定を話しながら私は作り上げていた。


 名前からもわかるように神野和の名前を入れ換えただけだし、私をモチーフにしているために少し頼りないキャラクターにはなってしまった。けれど、思ったよりも視聴者さん達にはウケているようだった。



『ノノカたんのドジっ娘女神設定はマジ女神』

『これはゴド×ノノルートを期待しても良いのか?』

『いや、ここはあえてのノノ×ゴドで』

『誰か絵師でノノカのファンアート描いてくれないかな』



 少し神野和と私を組み合わせただけのデザインだというのにここまで盛り上がるとは思わず私は少し困惑していた。そしてその話題から離れていつもの夜会に戻そうとしたその時、二人の視聴者さんの投げ銭コメントが表示された。



『乙神様です! ノノカたそのファンアート、私達で描かせてもらいます!』

『乙神様です。ドジっ娘の新米女神、これは捗りますね……』

「ヤマカミさん、ガンキさん、投げ銭ありがとうございます」



 私は投げ銭コメントをくれた視聴者さん達にお礼を言う。ヤマカミさんとガンキさんは私の配信を初期の頃から観てくれている視聴者さんで、神野和のファンアートを初めに描いてくれた人達でもある。


 いつも明るく他の視聴者さんの動きにも目を配ってくれているのがヤマカミさんで、落ち着いたコメントをしながら配信終了頃にはSNSのアカウントでファンアートや配信の感想を投稿してくれているのがガンキさんであり、その出来映えには私も驚かされている。


 ただ、前に配信で聞いた感じだと二人は別に普段からコンビで描いているわけじゃなく、お互いに見せあうのがメインの関係で、時には合作という形で二人で描く事があるようだった。


 そしてお二人の登場がきっかけとなって、コメント欄は更に盛り上がりを見せ始めた。



『ヤマガンコンビの降臨だ!』

『勝利確定BGM流れたな』

『窮地の時のライバル登場並みに安心する展開キター』

『とりあえず先程お話しされていた設定を元に色々描いていきますね』

『後はゴドフリー君も描きます。前々から和様を描く傍らで描いてはいたので』

『後は欲しいとコメントにあったゴド×ノノとノノ×ゴドですが、それは描いてみても良いですか?』



 ヤマカミさんからの問いかけに私はクスリと笑ってから答える。



「はい、大丈夫です。私も見てみたいのでお二人さえよければ是非お願いします」

『和様からのお許し入りましたー』

『これは勝ったな。風呂入ってこない』

『入ってこないんかい。というか、それは負けフラグなんだからやめぇや』

『ありがとうございます! 無理しない程度に精いっぱい頑張ります!』

『ヤマ、後で話し合いするから』

『オッケー!』



 二人のその言葉にコメント欄は更に沸き、その流れを見ながら私は嬉しくなっていたその時だった。



『あ、和様。お告げの時間の前なのですが一つ良いですか?』

「はい、大丈夫ですよ」



 ガンキさんのコメントに返事をしていると、ガンキさんのコメントが更に表示された。



『リアルではこういった配信を観ている事を中々友達に話せないのですが、やはり伝えないのが一番なのでしょうか』

「そうですね……皆様のように私達配信者や動画投稿者などの活動を好意的に捉えて下さる方もいればその逆で興味がなかったり嫌悪感を抱いたりする方もいます。

そのご友人がどちらかは私にもわかりませんが、会話の中で興味があるようでしたら少しずつ話すようにして、無さそうであればそういった人も世間にはいるようだという程度で大丈夫だと思います。

様々な事を分かち合いたくともお互いの価値観が合わなければ中々会話も盛り上がりませんし、無理に話そうとしてその場の空気を悪くしても良くはありません。ガンキさん、その話題を分かち合える方はいらっしゃいますか?」

『はい。偶然ではありましたけど、いつも話が出来る相手がいます』

「それならば良かったです。でしたら、その方と一緒に配信を観る趣味がある事を周囲に話す機会を作っても良いかもしれませんね。普段の会話の中では難しくとも何かの行事の際にあの見事な絵を披露し、その際に話してみればただ話すよりは話しやすく聞いてもらいやすくもなると思いますよ」

『行事をきっかけに……たしかにそうですね。その友達と相談しながら少しずつ頑張ってみようと思います。和様、本当にありがとうございます』

「いえいえ、助けになれたようで私も嬉しいです。では、この流れでお告げの時間と参りましょうか」



 その言葉と同時にコメント欄には色々な相談コメントが寄せられ、私は一つずつ拾いながらそれに対して自分なりに答えていった。


 さっきの回答が最適解かは私にも答えられないし、実際にそれが正解となるかもわからない。だけど、そうであって欲しいし、ガンキさんが他の友達とも笑いながら配信や絵の事について話せたら良いなと思う。私に出来るのはその未来が来る事を祈るだけだから。


 新神の皆さんを含めた視聴者さん達からのコメントや相談に答えながら私はガンキさんの未来がより良い物になるように心の中で願った。

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