第14話 依頼

「……よし、今夜も配信を始めようかな」



 夜、ご飯もお風呂も済ませた私は自室で配信の準備をしていた。ありがたい事に登録者も配信の視聴者も少しずつ増えており、悩みを聞く人の数もその分増えていた。


 けれど、それはむしろどんと来いであり、もっと色々な人の話を聞いてその悩みを解決したいと思っていた。



「準備は……うん、オッケー。それじゃあ、早速始め──」



 配信を始めようとしたその時、机の上に置いていたガーデンコントローラーから綺麗な音が鳴り出し、何事かと思いながら視線を向けると、画面にはティアさんからの着信を次げる通知が来ていた。



「ティアさんから……一体なんだろ?」



 配信開始をするために触っていたマウスから手を離し、私はガーデンコントローラーの画面に触れてその着信に出た。



「もしもし、ティアさん?」

『和さん、こんばんは。すみません、今から配信でしたよね?』

「あ、はい。でも、まだ時間に余裕はあるので大丈夫ですよ。それで、私に何か用事でしたか?」

『はい。ゴドフリーさんには少々お聞かせ出来ない事なので、和さんにお伝えしようと思ったのです』

「ゴドフリー君には……もしかして、ゴドフリー君の故郷の件ですか?」



 緊張と不安で心臓が高鳴る中、私はティアさんに問いかけた。けれど、ティアさんから返ってきたのはとても落ち着いた声だった。



『いえ、そちらはまだ大丈夫です。確認してきたのですが、誰もゴドフリーさんの現状については知らなく、今も勇者として頑張っているんだろうと思っているようでした』

「そうですか……でも、やっぱり心苦しいですね」

『はい、本当に』

「でも、それじゃないって事は王都の件ですか?」

『その通りです。神野和さん、無理強いはもちろんしませんが、貴女には王都の人間達、具体的には王族やかつての勇者パーティの面々にお灸を据えてほしいのです』



 そう言うティアさんの声には静かな怒りがこめられており、それだけ今回の件に対して納得がいってない事がハッキリとわかった。



「お灸を据える……ゴドフリー君を裏切った事を後悔させる感じですか?」

『そうですね。あの国を私の加護の適用外にしたいところですが、それは神々の理に反するので悔しいですが出来ません。他の神々もあの国に関してはバカな真似をしたと言っていましたが、ルールはルールなので』

「そこで、そのルールに縛られない私に白羽の矢が立ったわけですね」

『その通りです。和さんご自身はあまりそういった事を好まないのはわかっているのですが、それでもやらないといけないのです。それが私達の総意なのですから』

「総意って……他の神様も今回の件については憤っているって事ですか?」



 勇者に祝福を与え、その動向を見守るティアさんが怒るならわかるけれど、他の神様もというのはどういう事なんだろう。


 そんな疑問を抱いていると、ガーデンコントローラーからティアさんの静かな声が聞こえてきた。



『あの国の王族達はそもそも神々を信じない人達でして、以前から神を蔑ろにするような言動を他国との交流の中でもしていたのです』

「神様を信じないくせに勇者にはすがるんですね」

『勇者の力や女神の祝福が目当てというよりは、勇者という立場が持つ影響力が欲しかったようですからね。

勇者を有する国だと国外に発信する事で他国からの侵略などを防ぎ、いざという時の交渉材料にするというのが狙いで、ゴドフリーさんを追放した後に自分の国の王子を真の勇者として祭り上げた上に勇者パーティの一人だった女性との婚約も発表していましたよ』

「本当に酷いですね……」

『そして気が大きくなったからなのか他国に対して自分達こそが王族の中の王族であり、他の神々の力を借りたとしても自分達には決して勝てはしないのだから早々に自分達にひれ伏して自国の姫や王女を差し出すようにと手紙を出していました』

「他の神様が憤っているのはそういう理由があったからなんですね……」



 頭が悪すぎる。それがゴドフリー君を裏切った王族やかつての仲間達に対して抱いた感想だった。自分の国の王子を偽りの勇者として祭り上げたからと言って、他の国々が水面下で結託して攻めてこないとも限らないし、そこまで考えられないというのはあまりにも頭が悪すぎる行為だ。


 そしてそれはゴドフリー君を裏切った仲間達にも言える事で、どんな理由があったかは知らないけれど、自分の選択を一生後悔する事だけは間違いないだろう。



「……わかりました。何か出来ないか考えておきますね」

『ありがとうございます。配信の中でそちらの世界の方々にも相談をなさっても大丈夫なので、どうかよろしくお願いします』

「はい、わかりました」

『では、私はそろそろ失礼します。和さん、本日も配信を楽しみにしていますね』

「はい。それでは」

『はい』



 その言葉を最後にティアさんとの会話は終わり、私は椅子の背もたれに体を預けながら小さく息をついた。



「ふう……思わぬお願いを本物の女神様からされちゃったなぁ。でも、大事な視聴者様でもあるし、私だってその王国のやり方は気にくわないし、ゴドフリー君が望まないのはわかってるけど何か考えてみないと。でも、まずは配信だね」



 独り言ちた後、私は意識を神野和へと変え、改めてマウスを軽く握った。そして完全に配信をするモードに変わった後、私はマウスを操作して配信を開始した。

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