第7話 目覚め

「ん……」



 小さな声を上げながら私は目を覚ます。その瞬間に窓から差し込む朝日が目に入り、あのまま朝までグッスリ眠ったんだと感じた。



「あさ……あ、ガーデンコントローラーもまだある……」



 少し寝ぼけながら私はガーデンコントローラーに視線を向けた。神庭という不思議な場所での女神のティアさんや勇者のゴドフリーさんとの出会いの中で手に入れたまだまだ謎が多いアイテム。それがこのガーデンコントローラーだ。


 どうやって私の配信の投げ銭の金額と同額のポイントを増やしているのかとか私のゴドフリーさんの通信の手助けをしているのかとか色々わからない事は多いが、少なくともティアさんが選んだのは私で、ゴドフリーさんの手伝いをする事を決めたのも私だ。だから、決して後悔はしていない。



「……そういえば、通話が出来るみたいだけど、メッセージって送れるのかな」



 ふとそんな疑問が浮かぶ。通話が出来る事自体はとても助かるけれど、私もゴドフリーさんも自分に用事があった時は流石に出る事が出来ない。だから、トークアプリのようにメッセージを送り合う事が出来ればとても助かるのだ。


 何か出来ないかと思いながら私はガーデンコントローラーの電源を入れ、メニューを開こうと画面に目を向ける。すると、私はある事に気づいた。



「……あれ? 家が一軒建ってる?」



 昨日行った時は少なくとも神庭には建物なんて建っていなかった。だけど、画面に映し出された神庭の左端には小さいけれどしっかりとした家が建っており、どういう事だろうと思いながら見ていると、家の中からはゴドフリーさんのミニキャラが姿を現した。



「……あ、ゴドフリーさんが建てたのか。たしかにどうにか建てた掘っ立て小屋に住んでるって言ってたし、これは仕方ないよね。とりあえずゴドフリーさんに声をかけてみよう」



 私は試しにゴドフリーさんの顔アイコンをタップする。すると、名前や状態の他に会話をするという項目が表示され、迷わずにそれをタップした。



「……もしもし」

『その声……ノドカか。おはよう』

「はい、おはようございます。すみません、朝っぱらから」

『いや、別に大丈夫だ。それで、何か用だったか?』

「用というか……早速建設を試したんだなと思って」

『……実はそうなんだ。俺もあの後帰ろうとしたんだけど、女神様からここに家を建てて住む事も出来るって聞いたから、試しにやってみたら思ったよりも出来の良い家が出来たからそのままここで寝てて……すまん、何の相談もせずにやって……』



 ゴドフリーさんは申し訳なさそうに言ったが、私はゴドフリーさんには見えないものの、首を横に振ってからそれに答えた。



「別に良いですよ。神庭は気候も一定で住みやすそうですし、その家を拠点にしながらどんな風にしたいか考えてもらえたら助かりますし」

『ノドカ……ありがとうな。そうだ、ノドカも余裕があったら家を建ててみたらどうだ? そっちだって一人でいたい時はあるだろうし、その時の隠れ家みたいにすれば良いと思う』

「そうですね、ちょっと考えておきます。それで、建設の計画についてなんですけど、やっぱり一番に考えるべきなのはゴドフリーさんがいる僻地の開拓だと思うんです。

なので、そのための農具や種苗を調達するためにそれに対応した施設をまずは作るべきかなと私は思うんですが、ゴドフリーさんはどうですか?」

『俺も同意見だ。後は……流石に服も近い内に変えたいし、それもどうにかしたいな』

「服……何か良さそうな施設はあったかな……」



 通話をしながら私はメニューを開き、そこにあった施設建設の項目をタップする。そこには農場や製鉄所など様々な名前が並んでおり、その中に縫製工場を見つけると、私はゴドフリーさんに話しかけた。



「どうやら縫製工場があるみたいです。衣服に関してはそれを建てましょうか」

『縫製工場……あ、これか。でも、どんな施設なんだ?』

「簡単に言えば、ここで衣服を縫って、それで出来た商品をお店に卸す感じです」

『なるほどな……建設費用も今のポイントで十分そうだし、農場と併せて建てても良いか?』

「はい。えっと、場所は……農場が川の下流辺りで、縫製工場は念のために川から離しましょうか。別の工場ですけど、こっちの世界だと工場から流れてきた汚水が川に流れて環境が悪くなるっていう事も起きてるので」

『そうか……わかった、それじゃあまずはそれでやっとくか。後は……お、ポイントで飯も手に入るみたいだ』

「この飲食物の項目ですね。それも使って大丈夫ですよ。働くにしてもしっかりとした食事は必要なので」

『何から何まですまないな。その分、俺もしっかりと力になるからな』

「はい、ありがとうございます」



 ゴドフリーさんの言葉に嬉しさを感じていたその時だった。



「勇美ー! 朝ごはん出来たから降りてきなさーい!」



 ドアの向こうからお母さんの声が聞こえ、私は小さくため息をつく。



「もう……ごめんなさい、呼ばれたのでご飯食べてきますね」

『ああ。ところで、イサミって呼ばれてたのは?』

「そういえば、和の方しか名乗ってませんでしたね。あれはあの姿の時の名前で、こっちの世界では三神勇美っていう名前なんです」

『ミカミイサミ、か。とりあえず俺はノドカって呼ぶけど、イサミって呼ばれたい時はそう言ってくれよ?』

「わかりました。それじゃあご飯食べてきます」

『ああ』



 ゴドフリーさんの返事を聞いた後、私は通話を切ってからガーデンコントローラーをベッドの上に置き、お母さん達がいるリビングへ行くために部屋を出た。

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