第6話 帰還
「……え?」
「投げ銭……ってなんだ?」
「投げ銭っていうのは、さっきから度々言っている配信の中で貰えるお金の事で、観てくれてる人が応援の意味を込めて贈ってくれる大切な物です」
「へー、そうなのか。でも、施設を作るにはそれが必要なんだな」
「そうみたいですけど……ティアさん、どういう事なんですか?」
私の問いかけにティアさんは微笑みながら答える。
「別にお金その物が必要というわけではありません。和さんが向こうで配信活動をした際に得た投げ銭の金額と同額のポイントがここに貯まっていくので、それを使って建設等をするといった形です。お二人とも、メニューと書かれた部分を触ってもらえますか?」
「メニュー……あ、これか」
「行動ポイント……え!? ポイントが最初からこんなに!?」
そこに表示されていた数値は想像を遥かに超えており、その事に驚いているとティアさんは笑みを浮かべながら話し始めた。
「それが先程の配信で得た投げ銭の金額と同額のポイントです。和さんが活動をして投げ銭を得る度に増えますが、だからと言って無理をしてしまったり投げ銭を得るために過激な言動をしたりすれば今後の和さんの活動自体に影響が出るので、控えるようにして下さいね」
「それはもちろんしませんけど……」
「うーん……ノドカにだけ稼いでもらうのはなんか申し訳ないな。女神様、俺側がポイントを増やす事って出来ないんですか?」
「ゴドフリーさん……」
「だってそうだろ? 俺が迷惑かけてる側なのにただここでのんびりとさせてもらうだけなのはやっぱり申し訳ないって。それで女神様、何か方法はありますか?」
「ありますよ。ゴドフリーさんが向こうの世界で何かご商売をされたりクエスト等で報酬を得たりすればそれと同額のポイントが加算されます」
「そっか……それならよかった」
ゴドフリーさんは安心したように微笑む。正直、ポイントを手に入れる方法が私にしかないならそれでも良いかなと思っていた。
ゴドフリーさんの状況を考えると、今は特にポイント稼ぎをしている暇もないだろうし、何が起きるかまったくわからないからだ。
でも、ゴドフリーさんは申し訳ないからという事で何か方法がないかとティアさんに聞いてくれた。その事から私はゴドフリーさんが律儀な人なんだなと感じていた。
「ゴドフリーさん、すみません。ゴドフリーさんだって向こうの世界で暮らすために色々忙しいはずなのに……」
「まあどうにか建てた掘っ立て小屋で寝泊まりして、食べ物は自生してる物を獲って食べてるからな。でも、だからと言ってノドカにばかり世話にはなれないし、ノドカも何かあったら遠慮なく俺に頼ってくれ。そっちの世界の事はよくわからないけど、話くらいなら聞けるからな」
「……はい、わかりました。ありがとうございます」
「どういたしまして」
ゴドフリーさんがニコリと笑う中、ティアさんは私達を見ながら安心したように微笑む。
「お二人の初対面が良いものになって良かったです。さて……それでは、今回はここまでにしましょうか。施設等の建設もしてしまいたかったですが、一度に多くの事をしても覚えきれませんし、頭も疲れてしまいますから」
「あ、わかりました。えっと……神庭の件なんですけど、少し迷ったら配信の時に視聴者さん達に相談するのってありですか? もちろん、ゴドフリーさんについては話せないので、ティアさんから頂いた箱庭ゲームの話という事にしないといけませんけど……」
「はい、大丈夫ですよ。たとえ正直に話しても中々信じてはもらえないと思いますしね」
「ありがとうございます」
「いえいえ。それと……それぞれの世界へ戻ってもこのガーデンコントローラーを使って会話は出来ますし、体調のチェックなども問題なく出来るので神庭の発展について色々相談もしてみて下さいね」
その言葉に私達が揃って頷いていた時、ゴドフリーさんは何かを思い付いた様子で口を開いた。
「そういえば女神様、ここにいる間は向こうの世界の時間ってどうなっているんですか?」
「時間……あ、たしかに」
「時間はそれぞれの世界と共に動き続けています。なので、建設等をするためにこちらへ来て、終わるまで待っていたら向こうでも同じ時間が経っていてしまうので、そこは注意してくださいね」
「わかりました。ゴドフリーさん、改めてこれからよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしくな、ノドカ」
そう言いながら差し出してきた手を取って私達は握手を交わす。思わぬ出会いにはなったけれど、こうして異世界の人、それも勇者と交流が出来るとは思っていなかったし、その勇者のお手伝いが出来るのはなんだかワクワクする。こんな経験は望んでも中々出来ないのだから。
そう思っていると、私達の横にはさっきと同じ青い渦が現れ始め、不思議とこの中に入ればここから帰れるという確信があった。
「それでは、お二人を元の世界に戻しますね。因みに、ここに来るにはメニュー欄にある神庭に出発するを選んで頂ければ大丈夫ですし、何かあれば私にも連絡が出来るので安心して下さいね」
「わかりました。それじゃあゴドフリーさん、ティアさん、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい、和さん」
二人の言葉を聞いた後、私は青い渦へと入る。そして気づいた頃には私は薄暗い自分の部屋のベッドの上におり、辺りをキョロキョロと見回してから自分の姿を確認した。
向こうから戻ってきたからか私の姿は神野和から戻っていたけれど、枕元には受け取ったばかりのガーデンコントローラーが置かれていた。
「……夢じゃなかったんだ。でも、なんだか嬉しいかも。さてと、それじゃあ改めて寝ようかな」
独り言ちた後、私は再び目を閉じ、静かな中で眠りの渦の中へと飲まれていった。
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