第8話 お礼
「さて……そろそろ飯にするか」
ノドカとの会話が終わった後、俺は家の中へ戻ってからガーデンコントローラーを触り始めた。自分の世界にはまったくない物だからこそまだ触り慣れてはいないが、それでも色々な事が出来るのはわかっているため、まずは触り慣れるのが一番だと感じていた。
「……勇者としてエリクシオンで生活してた時よりは今の方が充実してそうだよな」
そんな言葉がポロリと溢れる。エリクシオンというのが俺が生まれた世界であり、俺はそんな世界で山奥の村に元々住んでいた。
その村で俺は魔王の事や様々な国同士の
そんな時、十五歳の誕生日を迎えた夜に俺は夢の中で女神様から祝福を受けた。女神様が言うには、今代で勇者になる資格を持つに相応しいのが俺だったようで、是非俺には勇者となって世界を混乱に陥れようとする奴から世界を救ってほしいと言われた。
本当の事を言えば、あまり乗り気ではなかった。けれど、村の人間の中から勇者が出ればみんな喜ぶだろうと考えて俺は勇者になる事を選んだ。
その結果、たしかに喜ばれたがそれからすぐに王都からの使者が村を訪れ、俺は勇者として王からの使命を受けるために村を出発し、そこで兵士や王が見つけていた旅の仲間達と引き合わされた後に勇者としての旅を始める事になったのだった。
「……よし、これで良いはずだ」
すると、木のテーブルの上には見るからに美味そうなパンが入ったカゴやスープが注がれた皿、そして食器などが出現し、俺は椅子に座ってからそれらを食べ始めた。
「……うん、美味い。旅の間にも色々な物を食べてきたけど、パンもフカフカでスープや肉料理も味がしっかりとしていてこれが一番美味いな」
どんな方法で出てきてるのかはわからないけれど、少なくとも女神様が関わっているなら変なものではないはずだ。
そう思いながら俺は朝食を食べていたが、ふと俺の支援役になってくれたノドカの事が頭に過った。
「カミノノドカ、か……そういえば、よく俺の事を手伝うってすぐに決断してくれたよな。異世界の存在なんてそうすぐには受け入れられる物じゃないだろうし、生活が良くなる俺に対してノドカは別にメリットなんてないだろうに……」
昨夜の女神様の話を思い出す限り、俺を手伝う事でのノドカのメリットはあまりない。強いて言えば、普段は中々出来ない経験が出来る程度で、配信とかいう活動の役に立つわけではないのだ。
だけど、ノドカは手伝う事を決めてくれたし、さっきも俺の生活をより良い物にするための助言をしてくれた。その事はありがたいが、やっぱり少し申し訳なかった。
「……何かノドカのためになる事は出来ないかな。報酬になるような金も物も渡せないけど、俺の力で出来る事は……」
俺は食べる手を一時的に止める。そして、腕組みをしながら考えてはみたが、中々良いアイデアは浮かんでこなかった。
「……ダメだ、全然浮かばない。いっそ本人に……いや、たぶんそういうのはいらないって言いそうだ。まだ出会って一日も経ってないけど、なんかそんな気がする」
少し話した程度ではあるけれど、ノドカは自分よりも他人を優先するタイプだと感じていて、俺がお返しをしたいと言っても遠慮しそうだと思った。
だけど、ノドカが向こうで稼いでくれたポイントのおかげでこうして家も建てられて、飯まで食えているわけだから、やはり何かはしたい。善意の押し売りみたいになるかもしれないが、それでも何もしないわけにはいかないんだ。
「だけど、どうすれば良いかな……ノドカのためになる物かつノドカが遠慮しなそうな物……」
腕を組む力を強くしながら考えていたその時だった。
「ゴドフリーさん、お食事が冷めてしまいますよ?」
「え?」
その声に驚きながら振り返ると、そこには微笑む女神様の姿があった。
「女神様……いつからそこに?」
「つい先程からですよ。この神庭での初めての朝はどうかと聞きに来たのですが、お目覚めはどうでしたか?」
「すごく良かったです。比べるのもどうかと思いますが、掘っ立て小屋で寝泊まりしていた分、ちゃんとした寝具もあるのは本当に助かりました」
「そうですか。和さんとはうまくやっていけそうですか? 和さんはとてもお優しい方のようですし、あまり心配はしていませんが……」
「大丈夫ですよ。さっきも軽く話しましたけど、俺の生活に役立ちそうな施設の事やそれを建てるのに良さそうな場所を教えてくれましたし、カミノノドカじゃない方の名前もわかりましたから。ただ……そんなノドカに対して俺が何も出来なそうなのがやっぱり悔しくて、何か出来ないかって考えていたんです」
「和さんに対して、ですか……」
女神様は少し難しそうな顔をする。やっぱり女神様も和の性格的に何かしてやれそうな事はすぐには思いつかないのだろう。
そんな事を思いながら再び考えようとしたその時、女神様は少し嬉しそうにクスリと笑った。
「ゴドフリーさん。一つよろしいですか?」
「はい、良いですけど……?」
何がなんだかわからないままの俺を見ながら女神様は静かに話し始めた。
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