ナナちゃんと幸運の女神

「ねえ、ナナちゃん。

驚かないで聞いてね。

実は、ママは〈幸運の女神〉なのよ」


ある日の事、ママからいきなりのカミングアウトです。


「へぇーっ!

スゴイね。

だからウチは少しも悪い事が起きないんだね。何時も良い事ばかりだもんね」

少しも動ぜずママの言葉を受け入れるナナちゃん。


「じゃあ、行って来まあーす」

いつもの通りポチを従え、お散歩です。


公園に到着すると、ベンチに腰掛けてやおら取りだす可愛いポーチ。


あっ!

ナナちゃん、それ、ママの大事な化粧ポーチじゃないの?

勝手に持ち出したらマズイよう、叱られるよ。


「へへへ、一度これやってみたかったんだよね。

はい、ポチ、こっち向いてぇ」

「くうん?」


「はぁい、下地クリーム塗うりぬりぃ、パウダーファンデーションをパンパンポンポン、アイブロウはナチュラルに、アイシャドウで立体感出して、アイライナーで目元くっきり、まつ毛にマスカラ、ボリューム付けたら目元のメイクはオッケーね」


あの、ナナちゃん、何その手際の良さ!

もう、どう突っ込んで良いのかも分かんないよぉーーっ!


「ふふん、あとはチークとルージュだね。

チークは、パウダーが使いやすいわよね、質感の異なる3色をブレンドしてやると、血色感と立体感を演出できるの。重ねても濁らず自然で美しいグラデーションを生み出すようにね」


えーっとナナちゃん、ゴメン、もう何が何だか分かんない。


「最後にルージュ!

まずティシュで唇表面の余計な油分を取り除いてやってから、リップライナーで唇のふちと全体を塗りつぶしてやるの。

それから、リップブラシで口紅を上唇の口角から中央に向かって塗って行き、下唇も同様に口角から中央に向かって塗れば出来上がり」


ポカーン。

ナナちゃん、スゴイ、凄すぎるよぉー!

ポチ(雄犬)が別嬪さんになってるよぉーーっ!

内股でシャナリシャナリと歩いてるよぉ。


「でしょ、でしょおーぅ。

メイクアップアーティスト・ナナちゃん、どうよ?」


いやいや、確かにすごい腕だけどねえ。

現実に帰って忠告するならば、そんなに沢山ママの大事な化粧品を使い倒して大丈夫なの、メチャクチャ叱られると思うよ。


「それに関しては、心配ご無用!

そんな不幸な事には決してならないわ」

白い歯を見せてにっこり笑うと、

「だって、ナナにはママと云う〈幸運の女神〉がついていますもの」

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