ナナちゃんと池の精霊

暖かな夜の事、ふと思いたって、ナナちゃんは釣竿を手に取ると近くの池に向かいます。

何だか、大物が釣れそうな気がするの。


今宵は新月、綺麗に手入れされた爪の様なクレセントムーンが夜空を飾ります。


おもむろに竿を出すと、あとは魚たちとの我慢比べ。

「そんなに簡単には、釣れないわよね」


じっとしてると穏やかな夜気に包まれて、うとうと、すやすや、、、。


ポッチャーン


あらら大変、手が滑っちゃいました。

大事な竿は、水面をプカプカ流れて行きます。


「うわぁ、エライこっちゃあー」

仰天するとなぜか関西弁になるナナちゃん、途方にくれます。


すると池の底から古代ギリシャのヒマティオンをまとった人影が現れて、


「私は池の精霊。

そこの嘆き悲しんでおる女童よ、そなたが落としたのは、金の竿か?銀の竿か?銅の竿か?はたまたプロも愛用最高級リミテッドプロカーボンシリーズかな?」


「ナナの竿は、あなたの足元に浮かんでる奴だよ。裏の山に生えてた竹で作ったの」


「おお、なんと正直な良い子じゃ。それでは、金銀パールプレゼント!いやいや違った。金も銀も銅も最高級カーボンも竹製も全部進ぜよう」


そう言うと、ありったけの釣竿を残して池底へ消えて行きました。


「あらあ、これも大漁と言えば大漁って奴だよね」


抱えきれないので、テグスでぐるぐる身体にも巻きつけたりして、ナナちゃんフウフウホクホク、竿をお家へ持ち帰ります。


家に帰って、一息ついて

「あーっ!良い事思いついちゃったあ!」


おいおい、顔が悪代官と悪だくみ中の越後屋みたいになってるよナナちゃん。


「確かここの物置にぃ、、、。

あっ、あったあった。」


取り出したのは、マイボール。

ボウリングの玉です。


「前に砲丸投げごっこしてて、ヒビが入っちゃったのよね」


ナナちゃん、マイボールをバックに詰めて、いそいそと池に向かいます。


いやいや、どう考えても不自然だからナナちゃん。


池に到着すると、マイボールを取り出し、ニンマリ笑うと、

「どぉりゃあー!!」


やっぱり投げちゃうんだねナナちゃん。


ザザ、ザッブーン!

ぶくぶくぶくぶくぶくぶく、、、。

あっという間にボールは沈んで行きました。


さてさて皆さん、この物語はこれでおしまいです。


もちろん、ボーリングの玉は池の精霊を直撃!

気絶した精霊が目を覚ますのには三日三晩かかったそうです。

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