第四分節:毛沢東、逮捕さる!(弐)

 毛沢東の逮捕は、彼達の予想よりも大きいものであった。何せ、相手は支那共産党の首魁である、聞き出すべき情報は文字通り腐るほど存在していた。即座に処刑するのは拙いにしても、どうやってその情報を吐かせるかによって今後の戦略が動くのは間違いなかった。

 そして、毛沢東の肉声によって盧溝橋事件の謀略を証明させたことを始め、様々な情報――すなわち、ルーズベルトが反日感情を利用した共産党の傀儡であるということを始め、大日本帝国国内の共産党のスパイが誰であり、何を目的として動かしたかなど――を吐かせることに成功した。どうやって吐かせたかはあえて記さないが、様々な、硬軟織り交ぜた細工があったことだけは記しておこうと思う。

 そして、直ちにこの情報は蓄音機などを用いて録音された後に国際放送にかけられた。大日本帝国側としてはこれで少しでも合衆国を揺さぶることが出来れば、という一心であったのだが、これに敏感に反応した層が存在した。合衆国の対抗勢力である共和党議員だ。彼等はルーズベルトの非道を訴えると同時に、自分たちはそれに関与していない旨を表明、着々と次期政権の主導権を握り始めていた。一方でルーズベルトはそれに対して対日利敵行為であると共和党を非難、その圧倒的国力に隠れて目立たないが、合衆国の断裂は諸手詰めで行われ始めていた……。

 話を、毛沢東逮捕に戻そう。毛沢東から吐き出させた情報は、日系包囲陣というものが決してライアー・プロパガンダではなく、華僑による国際共同正犯であることが明らかとなった。宋姉妹による合衆国へのハニートラップも、その一環であった。

 陰謀というものは、隠れているから陰謀なのである。立証された陰謀ほど脆いものはない。かくて、リットン調査団から始まった支那のプロパガンダは遂に崩れ去るに至った。

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