感想戦:第一次布哇沖海戦(終)

「……敵は、去ったか?」

「ええ、どうにか勝利し得た模様です」

「そうか。……海難救助活動の後、布哇に帰還するぞ。敵味方は問うなよ」

「ははっ」

 帝国海軍は、布哇の防衛に成功した。とはいえ、彼達も追撃を行えなかった現状を考慮した場合、決してそこまで楽観視できるわけではなかった。と、いうのも……。

 その前に、まずは帝国海軍の喪失艦と、合衆国軍の残存艦を比較しておこう。

 帝国海軍で真っ先に喪失艦となったのは霞であり、その次に東雲が喪失したことは既に触れたが、その後も海戦は一応続いており、最終的にその後駆逐艦を二隻喪失し他にも被害が多数存在していることもあって艦隊全体としては行動できるものの、ペンシルベニアをはじめとした殿軍の妨害もあって結果として太平洋艦隊殲滅の強要は失敗した。

 だが、その与えた損害は非常に大きく合衆国軍にのしかかることとなる。なにせ、1月19日正午の段階で合衆国軍太平洋艦隊と言いうる存在はひいき目に見て半壊、はっきり言って合衆国の工業力を以てしても今後半年から一年は攻勢に出ることは不可能な程の損害であった。

 何せ、サンディエゴからカナダまでの北アメリカ大陸西海岸に帰還した太平洋艦隊は大型のものはアリゾナとテネシーに過ぎず、参戦した巡洋艦の内生き残ったのはセントルイスだけであり、そのセントルイスも動くのが奇蹟と言える程の――ある意味、文字通りの「セイント」かもしれない、と生存者は語ったという――破損を受けており、駆逐艦も20隻前後存在したであろうに、帰還したのは5隻か6隻に過ぎず、皆大なり小なり破損して帰ってきたのだから!

 誰がどう見ても、勝ったのがどちらであったのかは見ればわかるほどであった。

 一方で、帝国海軍にも追撃戦を行えない理由が存在していた。一見、駆逐隊の一部や巡洋艦などに損害が出ただけであり追撃する余力があるように見えた。だが……。

 「偶に撃つ、弾がないのが、玉に瑕」。布哇をはじめとした敵軍基地を短期間で占領したことによって石油タンクをはじめとした物資の備蓄は大幅に増えたものの、その過半――何せ、帝国軍が「接収」したものは大は石油タンクやブルドーザー、小は道路標識からネームプレートに至るまで、何から何まで布哇から「接収」して本土や戦略拠点に「輸送」を行っていた。

 当然ながら、合衆国軍の機密文書などは既に解読して全世界にラジオで公表しており、外交的に大日本帝国を追い詰めて先に手を出させて正義の振りをしようとしている計画なども、公然のものとなっていた。

 あるいは、その解読を行う前に布哇基地などを奪還すべく、合衆国は太平洋艦隊を動かしたのかも知れなかった。まあ無論、それは前述までの叙述を見れば判る通り、完全に失敗に終わったのだが。

 帝国軍が太平洋艦隊に対して追撃戦を行えない理由の記述に戻ろう。布哇基地にせよ、舎路基地にせよ、帝国軍が既に合衆国本土と言いうる地域を占領することに成功したのは既に大局パートで述べた。では、そのまま太平洋を全て制海権に治めれば良いではないか、というのは銃後の素人が考えそうなことである。どんな砲門でも、そしてどんな航空機でも、輸送して前線に送り込む必要があるし、銃ですら型式が合わなければ発砲できないのに、砲弾などの類いにおいて型式を確認せずに砲撃を行うのは愚の骨頂である。……まあ、ここまで記述すればだいたい何が言いたいか理解して戴けるとは思うが……。……まあようするに、「ヤード・ポンド法滅ぶべし、慈悲はない」ということである。

 何せ、布哇基地にせよ、舎路基地にせよ、アンカレッジなど多数の基地を占領したとはいえ、そこで使われている物資はネジ釘に至るまで全てヤード・ポンド法、つまりはインチねじやマイル基準の地図などが使用されていた。一応、海軍将校として名をはせた人物はヤード・ポンド法にも明るかったが、前線の陸戦隊員や歩卒などは、当然知るわけがない。よって、その齟齬が徐々に明るみに出ていった……。

 とはいえ、物資の再利用が困難であり、砲弾に限りが有るというだけで太平洋艦隊をあらかたシバキ倒して東洋艦隊もほぼ壊滅状態にまで追い込んだという事実は、帝国首脳部に大きな光明を見いださせるに充分であった。速やかに講和会議を行うために大本営は停戦を打診した。まあ無論、大本営らしい手前勝手な条件であり、打診する前に外交官などは苦言を呈したのだが、そもそも相手が悪かった。講和会議の日付がルーズベルト弾劾裁判の後日であったことからも判る通り、相手は史上最悪の反日野郎である。あるいは、ヒューイ・ロングの方が最悪と言えるかも知れないが、彼は大統領になる前に暗殺されており、検証は不可能に近い。そして、ルーズベルト弾劾裁判の結果被告人、つまりはフランクリン・ルーズベルトが憤死して裁判が被告人死去による不起訴になるまで続いたこの未曾有の戦役は、まだまだ続く……。

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