第十四節:第一次ベンガル湾海戦(十四)
「莫迦な、速すぎる」
連中の艦隊速度はそこまで速いのか!
「……フィッシャー海軍卿は間違っていなかったのかも知れぬ」
「何、心配要りませんよ、それだけ速いということは、装甲も薄いはずです」
「……だと、いいが」
第三戦隊を含めた前衛追撃隊がイギリス海軍東洋艦隊の
「ははっ、あいつら全速で動きながら撃ってますぜ」
「油断するな、艦隊速度はこちらの方が遅いんだ、どのような……言わんこっちゃ無い!」
駆逐艦の対空砲員が眼前の艦隊戦――すなわち砲雷撃戦、しかも昼間――を、流石に航空機が飛んでいないことからやることもないのか高みの見物をしていたが、分隊長らしき人物が注意する前に第一斉射による被害は始まった。
36サンチ砲による砲撃が都合8門存在する金剛型戦艦の砲撃が、その合計32門にもなる一撃は非常に効果的に作用した。
まず、先ほどの高角砲員が高みの見物をしていた艦艇こそ直撃弾を受けなかったものの(まあ、駆逐艦が戦艦の砲弾を受けてもそもそも貫通してたいした被害にはならないだろうが……)、分隊長の眼前の、つまりは艦隊で縦陣を組む一つ前の駆逐艦が、何かしらの副砲なりが搭載していた魚雷にでも触れたのか、瞬時に爆沈し、その前の駆逐艦も爆沈こそしなかったものの激しい傾斜をして、総員退艦処分となった。
だが、それすらも些細な事であっただろう。最後の殿の旗艦、すなわち東洋艦隊にとって数少ない、残存の戦艦のうち最も速度に支障を来していたR型戦艦が、金剛型戦艦の放った主砲弾を同時に何発も受け、しめやかに爆発四散した。生存者は、いなかった。
だが、東洋艦隊は幸運であった。R型戦艦の爆発四散を呆然とみていた周囲の艦艇は眼前の戦果に気を取られ、遂に撤退中の本隊――戦艦二隻と空母一隻をはじめとした艦艇群――の帰還と、秘密基地――言う必要も無いだろうが、アッヅ環礁のことである――の秘匿に成功した。
だが、どちらが戦略的勝利を得たかは疑問が残る。何せ、大日本帝国側はインドの解放という非常に大きな戦略目標を達成したし、一方のイギリス王国(わたしは断じてイギリスを「大英帝国」などとは呼ばんぞ!)側もアッヅ環礁基地の秘匿と、一応は大規模な修復が必要なれども艦艇の生存に成功した。
すなわち、双方が最低限の戦略目標を達成しており、戦術的行為が戦争に影響する範囲が限られてしまう以上は、しばらくの間インド洋が、那珂から零れた破片やイギリス東洋艦隊の残骸によって水深が若干浅くなって多数の死骸――その「全て」が、イギリス海軍船員であった――によって海洋栄養素が活性化することが確定したということであった。
後の調査で発覚したのだが、なんと金剛型戦艦の半数もの砲弾が直撃したらしく、いくらR型戦艦が頑丈だからと言っても同時に数トンもの爆薬が片方の舷に着弾したら、そりゃ四散するよな、といったことが明らかとなった。
だが、実は問題はそこでは無い。偶々運良く大日本帝国側に存在する戦場カメラマンが捉えた映像は、イギリス海軍の象徴とも言える戦艦が多数の砲弾を浴びて爆発四散し、轟沈する様を一部始終捉えたことであった。
そのカメラマンは後に国際機関に表彰されるのだが、その写真がイギリス崩壊の、文字通り風穴となったのだった。
――――日の沈まない帝国の日が、陰り始めた瞬間であった。
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